見もの・読みもの日記

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美しい日常の再発見/前川千帆展+江戸絵画と笑おう(千葉市美術館)

2021-09-06 19:35:23 | 行ったもの(美術館・見仏)

千葉市美術館 企画展『平木コレクションによる前川千帆展』(2021年7月13日~9月20日)

 前川千帆(まえかわせんぱん、1888-1960)は、恩地孝四郎・平塚運一とともに「御三家」と称された、近代日本を代表する創作版画家だという。実は全く知らなくて、この展覧会も見に来る予定はなかったのだが、『江戸絵画と笑おう』と共通チケットになっていたので、やむなく(?)見ることになってしまった。浮世絵コレクションで知られる平木浮世絵財団の所蔵品を中心に、約350点の作品(展示替えあり)から前川千帆の版業を総覧する企画展である。

 千帆は京都生まれ。洋画を学び、雑誌『ホトトギス』等に水彩や墨画の挿絵を描いている。やがて東京パック社や読売新聞社に入り、漫画家として活躍する。昭和初期の新聞(よみうり少年新聞)が珍しく、紙面いっぱいに多色刷のマンガを掲載しており、コマ割りは単調だが、クローズアップとズームアウトの切り替えなど、けっこう映画的な表現が用いられているのを興味深く眺めた。戦後に活躍する漫画家たちは、こういうのを読んで育ったのかな。なお千帆は、大正年間に現存最古の国産アニメーション『なまくら刀』の制作にもかかわっている。会場では小さなタブレットを壁に設置して、このアニメーションを流していた。

 やがて版画に専念するようになり、都市風俗や人物、温泉風景、東北の素朴な少女たちなどを好んで描いた。今年は、吉田博や笠松紫浪など、版画でここまで繊細な表現ができるのか?!と唸るような、超絶技巧の作品をずいぶん見たが、千帆の作品は、むしろ「版画ならでは」の魅力を最大限に活かしているように思う。単純化・抽象化された色と形が、素朴で力強く、時にモダンで、とてもよい。

 特に感銘を受けたのは、戦時中、疎開先で制作を始め、晩年の千帆のライフワークとなった版画帖『閑中閑本』というシリーズ。文庫本くらいの折本で、各冊「お菓子」「温泉」「野の花」などのテーマを設定し、木版多色刷の絵と短文を集めたもの。愛好者に限定頒布していたようだ。作者と作品の享受者たちは、美しいものや楽しいことの思い出を共有することで、戦争というつらい時期を乗り越えようとしていたのだと思う。コロナ禍の現在の、メンタルケアにも通じるものがある。

 会場には『閑中閑本』の1冊「神籤吉凶帖」(復刻版?)が台上に置かれていて、使い捨てビニール手袋を装着の上、手に取って、めくってみることが許されていた(担当学芸員の私物の由。ありがとうございます)。

千葉市美術館 コレクション展『江戸絵画と笑おう-明治の戯画も大活躍!』(2021年7月13日~9月20日)

 同館所蔵・寄託品の中から、「笑い」をキーワードとして、現代の私たちにも自然に楽しめる、親しみやすい作品を集めたコレクション展。作品の数では、明治の錦絵がけっこう多いが、思想というか趣向としては、江戸の続きと考えてよいのだろう。

 江戸の錦絵では、八代目団十郎の死絵シリーズが面白かった。女性ファンたちの阿鼻叫喚ぶりが突き放して戯画化されている。不謹慎な話だけど、これくらいで眉をひそめていては、江戸の戯画は楽しめない。明治の錦絵では、歌川国利の『ねこの世界』『鼠の戯』『しん板 けだもの商人尽』など。これらはセリフが読み解けないと面白味が分からないので、ちゃんと翻刻パネルが容易されていてありがたかった。

 錦絵以外では、芦雪の『花鳥虫獣図巻』。色が美しく、芦雪の描く鳥の顔が好き。無款の『仔犬之図』(紙本墨画淡彩、江戸中期、楠原コレクション)は、ちょっと朝鮮絵画っぽく見えた。仙厓の『鍾馗図』は、鍾馗が刀のフルスイングで小鬼を一刀両断にしたところ。マンガみたいな馬鹿馬鹿しさに吹き出す。

 そして私がこの展覧会を見に来た目的は、伝・三代将軍徳川家光の『墨絵 子供遊図』(草月会寄託)。11人の子供(?)が描かれていて、10人は一列に並んでおり、いちおう子供たちの体形や顔立ちは描き分けている様子。1人は少し離れて仲間のほうを振り向いている。何だろう?「かごめかごめ」か「だるまさんがころんだ」の最中だろうか。それにしても料紙に対して、この絵の配置(左下隅に寄り過ぎ+空白広すぎ)が明らかにおかしい。絵師としての家光、新作が発掘されるたびに驚きの連続で、すっかり目が離せなくなってしまった。

 常設展示室の『千葉市美術館コレクション選』(2021年8月3日~9月5日)も覗いていく。江戸絵画から現代美術まであり、無款『風流祭礼図屏風』6曲1隻(寛永期)と『草鹿図屏風』6曲1隻(寛文期)が気になった。

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