〇奈良国立博物館 『第74回正倉院展』(2022年10月29日~11月14日)
今年も正倉院展に行ってきた。前夜は奈良公園内のホテルに泊まったので、ぶらぶら歩いて、開館1時間前の8:00頃に到着したら、先頭から3組目だった。今年も完全予約制なので、もちろんチケットは入手済である。でも早い順番で入れると、会場内を自由に動けて効率がよい。
今年のポスターになっているのは『漆背金銀平脱八角鏡(しっぱいきんぎんへいだつのはっかくきょう)』、それに『銀壺』や香木『全浅香』が見どころのようだが、いずれも平成以降に展示されており、初見ではない。銀壺は2010年に東博の『東大寺大仏』で見た。遠目には黒っぽい鉄か銅の壺のようだが、よく見ると弓矢を持った騎馬人物が羊や鹿、イノシシなどを追う狩猟図が生き生きと線刻されている。人物が漢民族の服装なのも逆に面白いと思った。私の好きな『鸚鵡﨟纈屛風(おうむろうけちのびょうぶ)』と『象木﨟纈屛風(ぞうきろうけちのびょうぶ)』(これも2010年に東博に出たもの)を久しぶりに見ることができたのも嬉しかった。
『漆背金銀平脱八角鏡』は、寛喜2年(1230)に起きた正倉院宝物の盗難に際して破砕され、明治27年(1894)の修理で現在の姿になったという。図録に鏡面の写真が掲載されているが、すさまじい痛々しさである。ホチキスみたいに何十本もの鎹(かすがい)で破片を繋ぎ合わせている。
正倉院宝物、実は奈良時代から全てが無事で伝わってきたわけではなく、近代以降に修理の手が入っているものも多数あるのだ。シックでかわいい『紫檀木画箱(したんもくがのはこ)』 も、蓋のみが伝来品で、身と床脚は後補だという。『黒柿両面厨子(くろがきのりょうめんずし)』も、大破した状態で発見され、明治26~27年の修理で当初の姿を取り戻したと解説にあった。
また今年は、保存や展示の難しい刺繍や布製品が目についた。『刺繡飾方形天蓋残欠(ししゅうかざりほうけいてんがいざんけつ)』はかなり大型の品。縁取りの丁寧な刺繍がかわいい。1999年以来の出陳だというので、私は初めて見たかもしれない。ほかにも大仏開眼会で用いられたと思われる綾の袍(長袖の上着)や錦の敷物、染布の帯を複雑に結んだ華鬘の残欠などが出ていた。
最後には、かつて正倉院の唐櫃に収められていた染織品の断片を貼り交ぜて、幕末に製作された東大寺屏風の復元品と、その布片を再整理した『錦繡綾絁等雑張(にしきしゅうあやあしぎぬなどざっちょう)』が出ていて、文化財の保存・修復は、技術の進歩とともに、試行錯誤の繰り返しであることを感じさせた。
さて、本当なら、他にも2~3ヶ所寄りたいところがあったのだが、仕事が気になっていたので、この日は正倉院展だけで帰京した。
ちなみに前日の宿泊先は、春日山原始林の中のディアパークイン(※紹介記事)。投宿の際、管理人さんに「お目当ては万燈籠ですか?」と聞かれて、全く知らなくて驚いたのだが、春日大社では、今年11月の毎週土曜日、若宮の正遷宮を祝う奉祝万燈籠を行っているのだ。
そこで、持ち込みの夕食を済ませたあと、夜道を歩いて春日大社へ参拝。駐車場から国宝殿のあたりへ抜けていくと、参拝客で賑わっていた。
暗くて分かりにくいが、まずは若宮神社に参拝。そのあと、大宮(春日大社本社)に移り、釣燈籠に照らされた回廊をめぐるのは八月の万燈籠と同じコース。
ホテルのあたりに帰ってきたら、鹿が夜のお散歩中だった。私の泊まったホテルは左奥、石段を上った先の灯りが入口である。
今回は宿泊先にも(仕事の急用に備えて)パソコン持ち込みで落ち着かなかったけれど、次回はもっと浮世離れした気持ちで泊まってみたい。
※参考:正倉院展の参観記録