見もの・読みもの日記

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「写生」へのこだわり/竹内栖鳳(山種美術館)

2022-11-23 21:40:55 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展・没後80年記念『竹内栖鳳』(2022年10月6日~12月4日)

 没後80年を記念し、山種美術館が10年ぶりに開催する竹内栖鳳(1864-1942)の特別展。探してみたら、2012年に『没後70年・竹内栖鳳-京都画壇の画家たち』という展覧会が開催されているが、私は見逃したようだ。しかし2013年の国立近代美術館『竹内栖鳳展 近代日本画の巨人』は見ていて、この頃から、近代日本画に関心が深まってきた。

 栖鳳は鳥や虫、小動物を多数描いており、「動物を描けばその体臭までも表す」と言われた。その最高傑作『班猫』は会場の入口近くに飾られており、今回、撮影自由なのに驚いた(太っ腹!)。私はイヌ派だが、このネコの何気ないのに圧倒的な王者の気品には感じ入る。栖鳳がこの子を「徽宗皇帝の猫」と呼んでいるのも面白い。

 本展には10点ほど「個人蔵」の栖鳳作品が出陳されている。冒頭の『真桑瓜図』(1903/明治36年)には、栖鳳作品のコレクターである光村利藻(1877-1955、光村図書の設立者)の所蔵品であるという解説が記されていた。1920~30年代の動物画は、小品が多いが、どれも魅力的である。二羽でダンスをするような『双鶴』、無防備な姿勢がかわいい『鴨雛』など。

 中国・南京の城壁を遠望した『南楼晴霽』や、江南の水郷の街並み『城外風薫』も好き。日本では、潮来の風景も気に入っていたそうだ。解説に「栖鳳は揚州の風景に似通ったこの地に魅せられ」とあって、なるほどと思った。『雨中山水』『水墨山水』など、栖鳳の水墨作品もいくつか出ていた。日本中世の水墨山水とは明らかに趣きが違うけれど、明清の水墨画とも違っていた。『飛瀑』(個人蔵、初公開)は絹本彩色で水墨画ではないのだが、一目見て石濤を思い出した。

 『艸影帖・色紙十二ヶ月』は、思わず欲しくなる作品。私は2月の雪に埋もれた鳥居(たぶん本物でなく玩具の)と、11月の寄り添う姫だるまが好き。栖鳳は、こういう琳派的(装飾的・伝統的)な画題もソツなくこなせるのだな。けれども当人は「写生」にこだわり続けた。そのことを示す言葉が、会場のあちこちにさりげなく紹介されている。あまり見つめると物が静止してしまうので、絵に描くときは鳥を前に置かないとか、魚の本来の美しさは陸に上げられた瞬間だけだとか、庭に蛇が出ると写生してぐるぐる線を引いていたとか(体の曲げ伸ばし・動きこそ蛇の本質だと思ったのだろう)、どのエピソードも面白かった。橋本雅邦は「あの人(栖鳳)は写生から脱しなければ、上手の域に達しても第一義の人にはなれない」と評していたらしい。ひどい言われ方だが、それでも「写生」という武器を手放さなかった頑固な栖鳳が好きだ。

 栖鳳は画塾「竹杖会」を主宰し、多くの後進(京都画壇)を育てた。本展では、西村五雲、上村松篁など栖鳳の弟子たちの作品も紹介する。池田遙邨の『まっすぐな道でさみしい-山頭火-』は初めて見たように思うが、秋の野のやわらかい色調が気に入った。また、栖鳳に学んだ新進の日本画家たちが立ち上げた国画創作協会の運動を、栖鳳は支持したと考えられている。国画創作協会については、2018年に和歌山県立近代美術館の展示を見て以来、気になっている。本展には、土田麦僊、村上華岳、小野竹喬、入江波光の作品が出ており、竹喬の『晨朝』が気に入った。

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