見もの・読みもの日記

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絶え間ない交流/惹かれあう美と創造(出光美術館)

2022-11-21 21:52:39 | 行ったもの(美術館・見仏)

出光美術館 『惹かれあう美と創造-陶磁の東西交流』(2022年10月29日~12月18日)

 「展示概要」の文章がとてもよいので、その最後の部分をそのまま転記しておく――陶磁器は各時代で、互いの美しい装飾や技術に惹かれあって発展してきました。他の国や地域の陶磁器を受容したり、あるいはその魅力に惹かれ、それを模倣したり、また自分たちの美意識を反映させた新しい陶磁器をつくってきたのです。ときに戦争・紛争により断絶する交流の歴史ですが、文化の繋がりを可視化するやきものは、国や民族の境をこえて、わたしたちの想像をはるかに超える東西交流の物語を伝えてくれるのです。 古今東西の交流を通して生み出された陶磁器の美の世界をお楽しみください。

 そうなのだ。私は、もともと絵画や彫刻に比べると、陶磁器への関心は薄かった。それが「東西交流」という視点を入れると、俄然おもしろくなると教えられたのは、この出光美術館の展示である。2008年の『陶磁の東西交流』展は、今でも強く記憶に残っている。2018年に台湾の故宮博物院で見た『アジア探検記-17世紀東西交流物語』にも(今回の展示にも出ている)「傘持美人文皿」の各国版が出ていて楽しかった。

 本展は、これまでの同テーマの展覧会に比べて「東西交流」の時代と地域をぐんと大きく広げているように思う。冒頭には、イランの金製杯(前10世紀頃)や東地中海地域の金彩ガラス鉢(前3~2世紀、美麗!)など、私にとっては珍しい西アジア・中央アジアの品々がたくさん出ていた。

 陶磁器の「模倣」は一筋縄ではいかなくて、色を真似たり、かたちを真似たり、モチーフ(狩猟文、有翼人物など)を真似たり、さまざまである。並べてみて初めて、なるほどと思うものも多い。中国の白磁弁口水注(唐時代)のかたちは、確かに南イタリアやギリシャのオイノコエ(把手のついた香油瓶、酒注)と一致する。イランの多彩釉刻線花文鉢(9-10世紀)は、緑・黄褐・紫褐釉を使っていて、唐三彩によく似ていた。

 イスラム(イスラーム)陶器は、数学の知識に基づく幾何文があるかと思えば、素朴な民画調の鳥の絵もあって面白かった。ラスター彩とかミナイ手という用語を初めて覚えたのも、出光の展示だったように思う。中国で元時代から大皿が登場するのは、イスラムの食習慣に影響を受けたものと言われている。これも以前、どこかで学んだ。確かに中国の古装ドラマを見ていると、古い時代の宮廷では1人1卓で食事をしているから、大皿は使わないのだな。

 「特集」として、船を描いた陶磁器を集めたミニコーナーも面白かった。鮮やかな色彩で3本マストの洋船を描いた色絵オランダ船文皿は、景徳鎮窯で焼いて、オランダのデルフトで色付けされたものだという。呉州赤絵帆船文字皿(明時代)は、赤と緑(クリスマスカラー!)で描かれた帆船が絵本のように可愛い。「近悦遠来」の文字が入っている。参考パネルの、南京船、広東船、寧波船、がレオン船などの説明をじっくり読んでしまった。中国ジャンク船は帆柱2本なのだな。

 そして「楼閣山水」「粟鶉文」「松竹梅鳥文」などの典型的なモチーフが、世界各地でどのように「模倣」されたかを比較する楽しい展示。必ずしも「模倣」が劣るわけではなく、その土地の美意識によって、新しい味わいが「創造」されていることもある。ドイツ・フランクフルト窯の白地藍彩芙蓉手山水人物文輪花皿なんて、東アジアの山水人物文とは全く別物だけど、なんとなくよい。古伊万里の色絵ケンタウロス文大皿は、山海経に出てくる化け物みたいで笑ってしまった。

 出品件数134件のかなり大規模な展覧会。一部展示替えがあり、司馬温公甕割文八角鉢の比較展示が後期(11/29-)だったのは残念(模倣の写し崩れが大好きなので)。でも、とても満足できる展示で、担当者の「いま世界が困難な時代だからこそ」という企画意図を深く感じとることができた。

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