■文化学園服飾博物館 『衣服が語る戦争』(2015年6月10日~8月31日)
先週末、見てきた展覧会を二つ。別に待っていたわけではないが、安全保障関連法案が衆議院の平和安全法制特別委員会で強行採決されたこの日にふさわしいだろう。はじめにあったのは「戦争柄」の着物。私は、2007年に乾淑子さんの著書でこうした着物の存在を知り、2008年に乾さんのコレクション展を見にいったことがある。子供用の着物が多くて、今の子どもたちがアニメや戦隊ヒーローの柄を無邪気に喜ぶのと、変わりなかったんだろうな、と思う。軍服ふうの男児服もあった(よそゆき用かな?)。大正時代から子供のセーラー服が流行るのも海軍の水兵服を取り入れたものだという。
この展覧会、実は、近代日本が経験した戦争だけではなく、欧米各国の衣服と戦争にも広く目配りしている。1944年頃、イギリスでつくられた(使われた)スカーフは、ピンク・水色・パープル・黄色など、鮮やかな色彩に、コルセット、乳母車、ミシン、水枕など女性の日用品がスケッチふうに描かれている。今でもふつうに使えそうだが、周囲には「鉄は戦車になる」「ゴムは飛行機になる」等の標語が書かれていて、立派な「戦争柄」なのだ。ヨーロッパでは、1930年代から男女とも軍国調のかっちりした仕立てが流行ったというが、展示されていたドレスやスーツは、けっこう好みだった。
日本も大正~昭和の始めまでは、洋裁雑誌に掲載されているデザインにも、まだ華があり、余裕が感じられる。昭和15年以降になると、もう何も言うべき言葉が見つからない。あまりにも貧しい。衣類(主に軍服だろう)の資源を確保するため、ウサギや羊を飼う事が奨励されているが、庶民はそれどころじゃなかっただろうなあ。
■太田記念美術館 『浮世絵の戦争画-国芳・芳年・清親』(2015年7月1日~7月26日)
「戦争」を題材とした浮世絵を集めた展覧会。もともと幕末には、歴史上の合戦を題材とした浮世絵が制作されていた。ただし、これらも太平記の世界を描いているようで豊臣・徳川の東西決戦だったり、蒙古合戦図と言いながら元寇ではなく四国艦隊の下関砲撃事件を描いていたり、時代が錯綜している。明治維新以後は、西南の役など国内の内戦、日清・日露の大戦を描く浮世絵が現れる。
戦争は「非日常」なので、風俗画にはない絵師の腕の振るいどころがある。古い合戦画でも、入り乱れる大集団とか、アクロバティックな身のこなしとか。歌川国芳の『川中嶋大合戦之図』は、あまり知らない作品で面白かった。サーカスみたいに大勢の敵を薙ぎ払う騎馬武者は山本勘助である。近代戦になると、爆発、焔、噴煙、銃弾の軌道などの描き方に工夫が凝らされる。特に小林清親は、夜戦の一瞬に訪れる激しい明暗のコントラストを美しく描いている。
展覧会のアイコンとなっているのは、月岡芳年の『魁題百撰相 駒木根八兵衛』。砲術を以って島原の乱に参加した人物であるが、上野戦争の彰義隊の兵士のイメージを仮託したものという解説に納得がいく。緊迫感があって品のある人物画だ。ほかに、この人も戦争を描いていたんだなあ、と感慨深かったのは、小林永濯とか揚洲周延とか。また、尾形月三の遼陽会戦の図には、敵将・黒鳩公(クロパトキン)が、なかなかカッコよく描かれている。日清戦争の清国兵が冷笑的に描かれているのを見ると、やっぱり人種偏見があるかなと思う。
個人蔵作品がかなり多く、あまり見たことのない作品を見ることができてよかった。しかし戦争は絵空事だけでたくさんだけどね。
先週末、見てきた展覧会を二つ。別に待っていたわけではないが、安全保障関連法案が衆議院の平和安全法制特別委員会で強行採決されたこの日にふさわしいだろう。はじめにあったのは「戦争柄」の着物。私は、2007年に乾淑子さんの著書でこうした着物の存在を知り、2008年に乾さんのコレクション展を見にいったことがある。子供用の着物が多くて、今の子どもたちがアニメや戦隊ヒーローの柄を無邪気に喜ぶのと、変わりなかったんだろうな、と思う。軍服ふうの男児服もあった(よそゆき用かな?)。大正時代から子供のセーラー服が流行るのも海軍の水兵服を取り入れたものだという。
この展覧会、実は、近代日本が経験した戦争だけではなく、欧米各国の衣服と戦争にも広く目配りしている。1944年頃、イギリスでつくられた(使われた)スカーフは、ピンク・水色・パープル・黄色など、鮮やかな色彩に、コルセット、乳母車、ミシン、水枕など女性の日用品がスケッチふうに描かれている。今でもふつうに使えそうだが、周囲には「鉄は戦車になる」「ゴムは飛行機になる」等の標語が書かれていて、立派な「戦争柄」なのだ。ヨーロッパでは、1930年代から男女とも軍国調のかっちりした仕立てが流行ったというが、展示されていたドレスやスーツは、けっこう好みだった。
日本も大正~昭和の始めまでは、洋裁雑誌に掲載されているデザインにも、まだ華があり、余裕が感じられる。昭和15年以降になると、もう何も言うべき言葉が見つからない。あまりにも貧しい。衣類(主に軍服だろう)の資源を確保するため、ウサギや羊を飼う事が奨励されているが、庶民はそれどころじゃなかっただろうなあ。
■太田記念美術館 『浮世絵の戦争画-国芳・芳年・清親』(2015年7月1日~7月26日)
「戦争」を題材とした浮世絵を集めた展覧会。もともと幕末には、歴史上の合戦を題材とした浮世絵が制作されていた。ただし、これらも太平記の世界を描いているようで豊臣・徳川の東西決戦だったり、蒙古合戦図と言いながら元寇ではなく四国艦隊の下関砲撃事件を描いていたり、時代が錯綜している。明治維新以後は、西南の役など国内の内戦、日清・日露の大戦を描く浮世絵が現れる。
戦争は「非日常」なので、風俗画にはない絵師の腕の振るいどころがある。古い合戦画でも、入り乱れる大集団とか、アクロバティックな身のこなしとか。歌川国芳の『川中嶋大合戦之図』は、あまり知らない作品で面白かった。サーカスみたいに大勢の敵を薙ぎ払う騎馬武者は山本勘助である。近代戦になると、爆発、焔、噴煙、銃弾の軌道などの描き方に工夫が凝らされる。特に小林清親は、夜戦の一瞬に訪れる激しい明暗のコントラストを美しく描いている。
展覧会のアイコンとなっているのは、月岡芳年の『魁題百撰相 駒木根八兵衛』。砲術を以って島原の乱に参加した人物であるが、上野戦争の彰義隊の兵士のイメージを仮託したものという解説に納得がいく。緊迫感があって品のある人物画だ。ほかに、この人も戦争を描いていたんだなあ、と感慨深かったのは、小林永濯とか揚洲周延とか。また、尾形月三の遼陽会戦の図には、敵将・黒鳩公(クロパトキン)が、なかなかカッコよく描かれている。日清戦争の清国兵が冷笑的に描かれているのを見ると、やっぱり人種偏見があるかなと思う。
個人蔵作品がかなり多く、あまり見たことのない作品を見ることができてよかった。しかし戦争は絵空事だけでたくさんだけどね。