付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「独立愚連隊西へ」 監督:岡本喜八

2010-11-30 | 戦記・戦史・軍事
 イーリャンサンスー、イーリャンサンスー、イーリャンイーリャン、やいやいやい♪というテーマ曲「独立愚連隊マーチ」聞きたさだけでDVD購入。
 加山雄三の初主演作というふれこみだけれど、ポスターでもクレジットでも戸川軍曹役の佐藤允(『もののけ姫』でタタリ神の声を務めてた人)の方が上というあたりがポイントです。

「勲章なんて欲しがるのは、職業軍人か子供だけだよ」

 第二次世界大戦期の中国戦線。中国軍の攻撃によって1つの部隊が壊滅したが、その部隊の軍旗だけは敵に渡してはならん、いかなる犠牲を払っても奪回せよと送り込まれたのは、隊員のいずれもが誤報で戦死扱いになっている、員数外の左文字小隊だった……。

 「××隊西へ」というタイトルの元祖にして、ボロボロでも錦の御旗は兵の生命より大事と、死地に送り込まれる兵士たちの物語。平田昭彦、久保明、天本英世、水野久美など東宝特撮映画でお馴染みの役者が登場する反戦ブラックコメディです。八路軍の人海戦術に立ち向かう左文字小隊ですが、損害は友軍によるものばかり。むしろ敵であるはずのフランキー堺演じる梁隊長の方が小粋でモノの分かった人物として描かれています。岡本喜八監督の代表作の1つ。
 階級よりも各自の能力が優先されるという独立愚連隊こと左文字小隊は、本来死ぬはずのところを生き残ってきた猛者ばかり。自分の命が何より大事で、軍旗探しなど馬鹿馬鹿しいと思いつつ、命令は命令ときちんと全うする姿勢はプロフェッショナル。けれども、彼ら隊員の技量が発揮される機会が少なかったのは残念。見せ場は神出鬼没のピー屋の親父を演じる中谷一郎に持って行かれてますし、生き残れたのは体力と手榴弾の数のおかげだったような気がします。やはり戦いは数だよ……。

【独立愚連隊西へ】【岡本喜八】【モノクロ】【地雷原突破】【人海戦術】
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「遙かなる橋」 コーネリアス・ライアン

2010-11-03 | 戦記・戦史・軍事
 連合軍のノルマンディ上陸によってドイツ軍はオランダよりの撤退を開始した。これを知ったモントゴメリー元帥は空挺部隊と地上部隊を組み合わせたマーケット・ガーデン作戦を立案、ベルリンへ進撃路を開いて一気に決着をつけようとする。だが、それはすべてを楽観的に考え、都合の悪い情報には目をつぶって立案された机上の空論に過ぎなかった。
 1944年9月17日、作戦はついに決行されるが、それは最終的に連合軍側の死傷者・行方不明者が1万7000名を超えるという悪夢の9日間の始まりだった……。

「本職は今なおマーケット・ガーデン作戦の首唱者として、後悔はしていない」
 陸軍元帥サー・バーナード・モントゴメリーの言葉。

「私の国はもう二度と再び、新たなモントゴメリーの成功などという愚にもつかぬ我が儘を許すことは出来ない」
 オランダ皇太子 ベルナルト殿下の言葉。

 なんというかこの巻末の2人の言葉がすべてを言い表しているような気がします。空挺部隊は対戦車装備も持たされないまま敵機甲師団の包囲網へと落とされ、合流を急ぐ機甲師団の進路は見通しの良い一本道のみ。連絡将校が早々に戦死したので、通信手段も確保して武装したレジスタンスは何もできないまま待機。そりゃあ、ひどい戦いじゃった……としか言えません。
 『遠すぎた橋』のタイトルで映画にもなり、こちらも名作ですが、ラストの「お国のチョコレートですよ」の言葉と「私は端から遠すぎた橋だと思っていたよ」の言葉は忘れられません。

【遙かなる橋】【史上最大の空挺作戦】【コーネリアス・ライアン】【遠すぎた橋】【マーケット作戦】【ガーデン作戦】【チョコレート】
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「空軍大戦略」 リチャード・コリヤー

2010-09-29 | 戦記・戦史・軍事
「なあに戦争ってもなあ、探して歩きゃどっかで1つや2つは出くわすものさ」
 第609スピットファイア戦闘機中隊、ユージン・“レッド”・トビン少尉のの言葉。

 1940年夏、破竹の勢いでヨーロッパを席巻するナチスドイツは、ついにイギリス侵攻を決意する。そのシーライオン(海の獅子)作戦の前段階としてドイツは英国に激しい爆撃を開始した。
 ドイツ空軍2500機に対し、英国戦闘部隊はわずか600機。勝敗は明らかかと思われたが……。

 レーダー網が英国を勝利を導いた6週間の激戦!……と言い切れないのは、バトル・オブ・ブリテン(英国上空の戦い)をテーマにしたゲームを1度でもプレイした人間なら分かると思うけれど、直前に敵がどこからどれだけ来るかと分かっていても、600機の戦力をやりくりするのは並大抵の苦労じゃありません。パイロットだって休む暇なく戦い続けていれば、死傷しなくてもストレスはたいへんなものです。

「もうほかに予備機は残っとらんのかね」
「1機もございません」

 11集団司令部でチャーチルの質問に応えるパーク少将。

 まだ英軍機は撃墜されても不時着するのが地元なので、復帰が容易というとこがポイントですね。ドーバー海峡に落ちても敵味方関係なく救助用の船舶がゆらゆらしていたらしいですけれど。

【空軍大戦略】【英国の戦い】【リチャード・コリヤー】【鷲の日】【気まま狩】【ハムエッグ】【海の獅子作戦】【バトル・オブ・ブリテン】【ポーランド】
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「おひとりさま自衛隊」 岡田真理

2010-08-26 | 戦記・戦史・軍事
「武力放棄を謳っている政党本部にも警備員はいる」
 教官の言葉。
 戦争のない世界は理想だけれど、武力放棄をするというなら、何かあったときに自分や家族の身に何が起きても我慢する覚悟が必要だよね。

 日本の自衛隊にも予備役制度があって「予備自衛官補」というのだけれど、著者は酔った勢いで予備自衛官補に応募してしまい、応募した翌日には説明書類が届いてしまいます。
 本職の自衛官の訓練に比べれば簡単で易しいというけれど、それでも訓練はハード。捧げ銃で持つ銃の重さは半端ではありません。本人の意欲はもちろんですが、本来の勤めを休んで訓練を受けることになるので、職場の理解が無くては続けられません。
 重い装備を背負っての行進はあるし、簡単そうに見える匍匐前進も素人には至難の業で、空包射撃だって目の前に置いた雑誌がズタボロになるくらいの威力はあり……と、勢いに任せて飛び込んでしまった、そんなトータル50日の訓練過程の日々を素人女性の目線で書きつづった体験談。
 ここでも、自衛隊の災害出動が年間600件超あり、かつては災害の非常時でも独自の判断で動くことができなかったという記述がありましたが、ぼくも思わず阪神淡路大震災のときのことを思い出しました。
 当時のコミュニケーションの主流はインターネット以前のパソコン通信。よく覗いていたパソコン通信の掲示板にも、朝から各地の被害状況や友人知人の安否情報が交錯していましたが、その中の自衛隊関連情報では「まだ出動命令が出ません!」という現場の声が何度も上がっていました。ちょうど社会党の連立政権時代。
 助けを求めている人がいくらでもいて、助ける力があるのに動くことができないというのは、さぞや悔しかったことと思います。

【いざ志願】【おひとりさま自衛隊】【ヨビジホになってみた。】【岡田真理】【催涙ガス】【ヤッターガエル】【親子丼】【KY】【武士は食わねど高楊枝】【レンジャー】【カップヌードル】
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「「わらわし隊」の記録」 早坂隆

2010-08-22 | 戦記・戦史・軍事
『新聞というのは平時にいくら偉そうなことを言っていても、所詮は商業紙である』
 その方が売れると判断すれば(朝日新聞であろうと)紙面は強硬論一色になるし、寄付を募って戦闘機を軍に寄付したり前線へ慰問団を送り出したりするもので……。

 公式記録から日記や新聞記事までをつき合わせて、日中戦争時に朝日新聞が吉本興業と組んで大陸へ送り出した演芸慰問団の記録を可能な限り再現しようとしたもの。

 戦時中なのにお笑いとはけしからんという銃後の声もあったけれど、戦時だからこそ前線の兵士は笑いを求め、他愛のない落語や漫才に涙を流して拍手していたのでした。
 そんな前線の兵士たちの姿や当時の街並みに吉本興業の歴史や当時の演目などを交えながら語った1冊で、戦場ではなく笑いをメインに描いていますが、いろいろ考えさせられる部分も多く、夏に読んで良かったと思いました。

【戦時演芸慰問団】【「わらわし隊」の記録】【芸人たちが見た日中戦争】【早坂隆】【柳家金語楼】【笑い声】【蘆溝橋事件】【横山エンタツ】【花園愛子】【ミスワカナ】
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「鷲は舞い降りた」 ジャック・ヒギンズ

2010-08-06 | 戦記・戦史・軍事
「勇気というのは、いつの世でもすたれることのない大事なものです」
 小さな子供を評した、クルト・シュタイナ中佐の言葉。

 イギリスの東部、ノーフォークの一寒村に降り立った落下傘部隊は演習中のポーランドの特殊部隊というふれこみで、村の外れにキャンプを張って訓練に励んでいた。
 しかし、この部隊はクルト・シュタイナ中佐率いるドイツ落下傘部隊であり、近くの屋敷に休暇に訪れる予定のウィンストン・チャーチルを狙っていたのだ……。

 精鋭部隊にもかかわらず、ユダヤ人少女に人並みの情けをかけたばかりに懲罰大隊送りになった落下傘部隊の秘話を、作者であるジャック・ヒギンズが取材によって明らかにしたノンフィクション……という体裁をとった冒険小説であり、ヒギンズの代表作というより冒険小説の代表作。明らかに進む道を間違っている祖国、馬鹿げた作戦と知っていても命令に従って死んでいくプロフェッショナルたちの物語です。主人公であるシュタイナ中佐は、誇り高いドイツ軍将校の代名詞となりました。
 無能をさらして部下を次々に死なせるアメリカ軍人もいれば、民間人の子供を救って死んでいくドイツ軍兵士もいて、正義か悪かとか、善人か悪人なんてものは主義主張や所属する陣営で簡単に割り切れるもんじゃないよという話です。
 これがノンフィクション形式なので、続編の『鷲は飛び立った』を書く余地ができたというのは喜ぶべきか悲しむべきか。自分としては「完全版」ではない『鷲は舞い降りた』1冊で十分だと思います。
 
【鷲は舞い降りた】【ジャック・ヒギンズ】【IRA】【第五列】【オレンジ自由国】【ロンドン警視庁】【闇商人】【Eボート】
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「囮のテクニック~船団編」 ダドリ・ポープ

2010-06-13 | 戦記・戦史・軍事
「そういう気持ち(欲望・嫉妬心・憎悪)があるからこそ、人間は何かの計画を立てて実行するために懸命に働くのじゃないかな」
 ASIUのジェミー大尉の言葉。

 エドワード・ヨーク大尉とエクストン看護婦の交流を軸に、大西洋の戦いにおけるUボート戦を描いた異色作。感覚としては学習マンガ(マンガじゃないけど)。
 第二次大戦中において輸送船団が何を運んでいたか、その船団の護衛や航海はどういうものだったか、それを狙うUボートの数はどれくらいで能力はどれほどか、戦時中の配給や街の人々の様子はどうだったのか等々、読みながら分かる「大西洋の戦い」。これと『駆逐艦キーリング』を読めばシーレーンの重要性と船団護衛の基礎はわかるというものです。それ以上はマニアの領域ですね。
 ヨーク大尉と未亡人クレア・エクストンの大人の恋も初々しくて、やはり物語にロマンスは不可欠だと納得しております。

【囮のテクニック】【船団編】【CONVOY】【ダドリ・ポープ】【大西洋の戦い】【Uボート】【88ミリ砲】【対潜水艦戦情報部】【ジグザグ運動図】【配給】【手榴弾発射機】
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「駆逐艦キーリング」 セシル・スコット・フォレスター

2010-04-17 | 戦記・戦史・軍事
 第二次大戦の最中、北米から英国へ向かう輸送船団があった。たった37隻の船団だが、その存在意義は決して小さくない。1隻のタンカーが無事に港に到着さえすれば、すべての英軍艦艇が1時間余分に行動できるのだ。
 この輸送船団を護るのは、駆逐艦2隻、コルベット艦(対潜護衛艦)2隻の小さな艦隊だけであり、それを指揮するのは今回が初陣となる米海軍中佐、ジョージ・クラウスだった……。

 イギリスやポーランドなど国も異なる、しかも自分よりベテランの艦長を指揮するクラウス中佐の不眠不休の2日間の物語。小さな輸送船団の、小さな護衛艦隊を指揮する、たった1人の男の物語だけれど、彼が艦橋を離れることなく、眠らず、ほとんど座ることもなく、飲まず食わずトイレにも行かずの姿を丹念に描写するものですから、読む方もいつしかクラウス艦長と一体化してしまいます。それに気がつくのは周囲が気を利かせて、せめてコーヒーだけでも飲んでくれと食事を給仕に運ばせるシーンでしょうか。
 不眠不休の薄暗い艦橋に届けられるハムエッグにトーストとジェリー、そして熱々のコーヒー……。読んでいると真夜中でもお腹が減ってくるのは困りもの。潰れて手に付いた黄身が美味そうなんだ……。
 フォレスターといえば帆船海洋小説のホーンブロワーのシリーズが代表作だけれど、自分としては船団護衛における対潜戦闘がリアルに書かれているこちらの方が好きですね。

【駆逐艦キーリング】【セシル・スコット・フォレスター】【生頼範義】【群狼戦法】【アズディック】【レーダー】【ジクザク航路】
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「史上最大の作戦」 コーネリアス・ライアン

2010-03-19 | 戦記・戦史・軍事
「神よ、ご承知と思いますが、私はこれからおそろしく忙しくなります。私はあなたを忘れるかもしれませんが、神よ、どうかあなたは私お忘れになりませんように……」
 作戦開始直前のフランス軍指揮官フィリープ・キーフェル中佐の祈り。牧師だって間違えて食前の祈りを唱えてしまうくらいの大混乱。

 第二次世界大戦の転換点となった、連合軍の仏ノルマンディー海岸への上陸作戦「オーバーロード作戦」をテーマにしたノンフィクション。ケン・アナキン他の監督で公開された映画版をテレビ放映で観て気になっていたところ、原作を高校の図書館で見つけて読みました。これが戦記物の読み始め。
 敵がいて、味方がいて、決断を下す将軍もいれば、それに従って敵の真っ直中に落下傘降下して蜂の巣になって死ぬ兵隊がいて、爆風で窓がすべて吹き飛んだ家に駆け戻る少女がいて、パリに向かう列車の中で連合軍上陸のニュースを聞いて地団駄踏むレジスタンスのリーダーがいて、ヒトラー総統は今夜も不眠で苦しんでいて、ルントシュテット元帥はその総統を馬鹿にしていて……。
 さまざまな人々の群像劇として戦場を描いた作品です。
 これを読んでから前段階となる「ディエップ奇襲作戦」を描いた『グリーン・ビーチ』を読み、この大作戦が成功したものだからいい気になったモントゴメリー元帥が一気に決着をつけるぞと大勝負を仕掛けたあげく大失敗した「マーケット・ガーデン作戦」を描いた『遠すぎた橋』を読み、そのぐだぐだぶりに泣いてしまったわけですが、そんなものは太平洋戦争の日本軍を思えばかわいいものだと思い知るのは、さらにその先の話となります……。

【史上最大の作戦】【コーネリアス・ライアン】【オーバーロード作戦】
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「潜水艦気質よもやま物語」 槙幸

2009-11-17 | 戦記・戦史・軍事
「商船ばかりでは、女いじめみたいですよ、手柄にならんからなー」
 そんなことを言ってるから……。

「艦長はつらいなー」
 誰からともなく同情の声が上がる。
 何かあったら一蓮托生、誰にも知られることなく消えていくのが潜水艦とその乗組員の運命。それゆえに普段は潜水艦が1つの家のようになるのだと、潜水艦乗りだった著者が思いつくままに回想した潜水艦の生活と戦争の日々。

 のんびり釣りをしたり洗濯したり正月の準備をしていたかと思うと、味方にだって間違って沈められかねない戦闘に突入したりの日々の話が続きますので、肩肘張らずに読んでいました。
 でも、1隻の潜水艦の1士官の回想からも海軍と陸軍の仲の悪さというか、装備調達における無駄ってのが指摘されるわけで、こんな資源のない国で縄張り争いしていちゃ勝てませんわ。

【潜水艦気質よもやま物語】【用語で綴るイラスト・エッセイ】【槙幸】【伊二五潜】【アストリア軍港襲撃】【アメリカ本土空爆】【海底空母】【敵国陸軍】
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「出撃!魔女飛行隊」 ブルース・マイルズ

2009-09-09 | 戦記・戦史・軍事
 女性ばかりの飛行部隊は第二次大戦になって登場しました。真っ先に名前が挙がるのが、女性初の超音速パイロットになるジャクリーン・コクラン(Jacqueline Cochran)がリーダーとなった米空軍の<WOMENS AIR FORCE SERVICE PILOTS>、WAFSです。
 でも、ジャクリーンたちはあくまで非戦闘員の空輸部隊。本土決戦になっていたソ連の場合だと、戦闘機配備の第586連隊、爆撃機配備の第587連隊、夜間爆撃機配備の第588連隊の3つの戦闘部隊が女性搭乗員のみで編成されていたのだとか。
 このソ連の女性部隊を紹介したのがブルース・マイルズの『出撃!魔女飛行隊』。原題が『Night Witches』というように主役は夜間爆撃機。このニックネームをドイツ語では「Nachthexen」と言い、中国語では「夜間女巫」というのだけど、肝心のロシア語は何だろう。ここらの女性パイロットのデータベースは英独中とあちこちのサイトから拾うことができますが、ロシア語は検討がつきません……(調べた。「Ночные Ведьмы」)。
 12機撃墜のлилия(百合)こと第586女子戦闘機連隊のリディア・リトヴャク(Lidiya Vladimirovna Litvyak)が有名ですが、公認の撃墜数ならリディアと同じ586の編隊長であるオルガ・ヤムシュコワ(Olga Yamshchikova)の方が撃墜数17機で上です。でも、彼女の資料はほとんど出ていません。戦後はソ連初の女性テストパイロットとしてジェット機を飛ばしていたそうですが、旧ソ連はそのあたり追跡が難しいねえ。どんな英雄、有名人でも簡単に消えてしまうし、最初から名前を消されているのもざらだし……。(2007.8/25)

 出版元の朝日ソノラマも胡散霧消して復刻はどうなるのかと見守っていましたら、9月になって花浅葱色の背表紙が深緋色となって、学研M文庫から刊行されました。訳者もそのままですが、ソノラマ版にはなかった写真が36点が収録され、後日譚的な解説もあらたに追加されています。旧版を持っている人でも買って良い気がします。
 というわけで、文庫版については入手が容易になってめでたしめでたしなんだけれど、ぜんぜん話が伝わってこないのが、映画版『ナイト・ウィッチーズ』。『スタートレックDS9』のドクター・ベシアことアレクサンダー・シディグの監督と脚本で2001年秋からロシアで撮影開始と夏に報じられたきり。映画というのは鮭の放流と同じで、企画が通らず、脚本が通らず、資金が集まらず、スタッフ・キャストが決まらず、上映館が決まらずと、立てた企画が映画公開にまでこぎ着けるのは万に一つ。主演ともいわれたソフィー・マルソーももう40代半ば。こっちはもう、あかんかなー。(2009.9/9)

【出撃!魔女飛行隊】【ブルース・マイルズ】【空戦】【女性】
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「第二次世界大戦紳士録」 ホリエカニコ

2009-08-13 | 戦記・戦史・軍事
 歴史は登場する人物が活き活きと描き出されれば出されるほど面白くなってきます。虚実入り混じった「物語」を「正史」と誤解されても困りますが、学校の教科書の味気なさを思えば、もう少し関心をもたせる工夫は必要です。前に中学の日本史の教科書を読んだら、北条政子を「尼将軍とも呼ばれ、鎌倉幕府をもり立てた」のひとことでスルーしていて頭を抱えました。

 第二次世界大戦紳士録といってますが226事件の青年将校たちも含まれており、日独の軍人さんや政治家たち1人1人を主人公にしたエッセイマンガが収録されています。アメリカとかイギリスとかソ連とかイタリアについては言及はほとんどなし。ムッソリーニが1頁載っている以外は、チャーチルやスターリンがちょこちょこ顔を出しては政治的に正しい行為を行っているくらいです。
 戦争とは悲惨なもの。悪人と言われている人間にも真面目なところやユーモラスな一面はあるし、立派な人と言われていても身内にとっては奇人変人というのも良くある話です。そうしたエピソードの数々を、真面目に文献から拾い集めて抜き出して再構成すると、どうしてこんなに笑えるものになるのでしょうか……?
 大和大好き有賀幸作、寝ない男・柳本柳作、ウソつきの大ホラふき・渕田美津雄、司令長官にしておくには惜しい南雲忠一、人生楽しそうなグデーリアン、「そこに山があるから」ヨードル等々、戦記物などを読んでいるだけでは部隊指揮官Aとか艦隊司令Bくらいにしか思えない人々が、わずか1ページで活き活きと蘇ります。
 こういう話を読むと、実際の歴史の中で彼らがどのような位置をしめていたのかが気になってきますが、それをフォローするかのように合間合間に仮装戦記作家らによる戦史や専門用語の解説が入り、より深く学ぶための道筋が用意されているのです。これが第二次世界大戦限定でなかったら、うちの子らにも薦めたり学校の図書館にも推薦するのに……。

 bk1で予約したら10日午前に到着。早いなあ。ここらの本屋なんかまだ店頭にも並んでないよ。しかし、同一人物についてギャグ用二頭身とシリアス用モデル頭身の2デザインがあり、それが自由自在に入れ替わるというのは、たがみよしひさを開祖とすると思うのだけれど、この手法だと話が小気味よく進みますね。

【第二次世界大戦紳士録】【ホリエカニコ】【山下英一郎】【内田弘樹】【戦艦大和】【沖縄戦】【硫黄島】
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「ミリタリー・スペクタキュラー」 シンシナティ・ポップス・オーケストラ

2009-06-13 | 戦記・戦史・軍事
 エリック・カンゼル指揮によるミリタリー系楽曲オムニバス集。戦争映画やドキュメンタリー番組や軍楽隊曲が15曲収録されていて、これをかけながらドライブしていると車がどこへ行くかわからなくなる1枚。

1.世界海戦記/Victory at Sea
・公海の歌
・ガダルカナル・マーチ
・ハードワーク・アンド・ホースプレイ
・南十字星のもとで
・メーア・ノストラム
2.戦争と嵐/戦争と追憶 愛のテーマ
3.カサブランカ 組曲
4.戦場にかける橋 クワイ河マーチ
5.戦雲に散る曲(危険な月光) ワルソー・コンチェルト
6.チャーチル大戦回想録 組曲
7.空軍大戦略 メインタイトル
8.オーヴァー・ゼアー
9.史上最大の作戦 マーチ
10.マッカーサー/パットン大戦車軍団 マーチメドレー
11.軍楽メドレー(空軍・海兵隊・沿岸警備隊・陸軍・海軍)

 知らない曲も幾つかあって、「オーヴァー・ゼアー」はイラク戦争を舞台にしたTVドラマではなく、第一次大戦時の戦意高揚曲の方だそうです(そもそも年代が違う)。『Victory at Sea』も戦争ボードゲームの傑作の方ではなく、日本語解説によればTVドキュメンタリー『世界海戦記』なんだそうだ。ただ資料によっては『世界海戦史』だったり『悲劇の海戦史』だったり、さらには『第二次世界大戦全史』としてDVD販売されていたり。
 個人的にはハーマン・ウォーク原作のミニTVシリーズ『戦争の嵐』『戦争の追憶』の「愛のテーマ」が入っているのが嬉しいですね。ミニシリーズといっても普通のテレビシリーズの尺数からいえばミニというだけで、中身は戦争大作。ロバート・ミッチャム演じる米国海軍中佐ビクター・ヘンリーの一家を主役とした群像劇。第二次大戦を開戦前夜から描いていきます。
 日本でも1983年にテレビ朝日系で夜8時くらいから放送していたけれど、視聴率が伸び悩んだらしく続編の方は深夜枠。でも、全部見ましたよ。そのときのビデオテープはさすがに全滅してましたが……。

【Selections from "Victory at Sea" and Other Favorites】【史上最大の作戦~ミリタリー・スペクタキュラー】【シンシナティ・ポップス・オーケストラ】【エリック・カンゼル】
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「レイバーフッド!」 広江礼威 彩色:山中虎鉄

2009-04-03 | 戦記・戦史・軍事
 兵隊やら警官の格好をしていたり水着や下着姿の美女美少女と拳銃から核爆弾までの銃器兵器を組み合わせたリビドー刺激しまくりのイラスト集。男の子の夢の集大成。
 月刊ホビージャパンに連載されたイラストコラム「REIGHBORHOOD!」の2009年4月号掲載分までをまとめたイラスト集。彩色を担当した山中虎鉄らとの対談や原画集、銃器兵器を解説したミニコラムも収録。
 このコラムだけを目当てにしばらく雑誌を買っていたのだけれど、コラム1本のためだけには高かったのでいつしか買わなくなっていたもので、こうして連載がまとまったというのは本当に嬉しいっ。プラモ作らないし、フィギュア趣味ないし。
 でも、こうして原画と完成品を対比してみると、確かに広江礼威の絵は上手いし、銃と美少女の組み合わせはベストフィットで、テーマ的にも面白く、まとめて見ても全然飽きさせないのだけれど、背景描きまで担当している彩色のテクニックやセンスも感服してしまいました。
 眼福な1冊。

【レイバーフッド!】【広江礼威】【山中虎鉄】【銃火器】【戦車】【軍装】【おっぱい】【下着】【奈須きのこ】【虚淵玄】
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「捕虜収容所の死」 マイケル・ギルバート

2009-03-28 | 戦記・戦史・軍事
 密室殺人です。それに大脱走がついてきます。

 場所は第二次大戦さなかのイタリア、第127捕虜収容所。その脱獄用トンネルの工事現場で1人の男が死体で発見されます。トンネルの入り口は巨大なコンクリートの蓋で隠されており、開けるのに4人の男の力が必要で、しかも殺された男はトンネルが掘られているのとは別の収容棟にいたはず。
 狭い部屋に定員以上の捕虜が押し込められてプライバシーなどないも同然。しかもイタリア軍が監視する中、男を殺し、誰も入れないはずのトンネルに死体を残した犯人は何者なのか……?

 殺人事件の犯人捜しと収容所脱走計画とが、それぞれ密接にからまりながら同時進行し、さらにはシチリア島に連合軍が上陸したことでタイムリミットが生じます。連合軍が進攻してくることで、イタリア軍が捕虜をさらに別の場所へ移動させたりドイツに引き渡すことも考えられるからです。しかも内部にスパイがいて情報を漏らしている気配があり、それと殺人事件との関係もはっきりしません。
 刻々と状況が悪化する中、犯人捜しを続けるヘンリー・ゴイルズ大尉の話ですが、このさまざまな要素を絡めながら、すべてきっちり処理するあたりが巧いと思いました。良質のサスペンス&ミステリーでした。

【捕虜収容所の死】【マイケル・ギルバート】【密室殺人】【大脱走】【カラビニエーレ】【戦犯】
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