付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「坂の上の雲(5)」 司馬遼太郎

2014-09-08 | 戦記・戦史・軍事
「神の手間かずをはぶくために科学というものは存在するのです」
 バルチック艦隊旗艦スワロフの航海長、ゾトフ大佐の言葉。

 素人の考えには専門家では気づかない視点があるという説もある一方では、何も知らない素人の上司やクライアントが無理難題を現場に押しつけてくるという話も聞きます。前者は主にフィクションで、後者はリアルでよく聞く話ですが……。

 児玉源太郎は怒っていた。
 前線の事情を自分の目で確認することもなく、無為無策に兵の屍を何万と積み上げながら、いまだ旅順要塞陥落の手立てを見つけられぬ乃木の参謀陣に。
 野砲の専門家が無理だ危険だというのを無視し、児玉は旅順周辺に展開していた大砲を24時間以内にすべて集めて二〇三高地に向けろと命じた。味方の上に砲弾が落ちることを覚悟で、重砲の援護射撃で歩兵突撃を成功させようというのである……。

 この巻と『皇国の守護者』と『遙か凍土のカナン』を並行して読んでいたので、脳内記憶がとんでもないことになりましたが、今回は旅順陥落からバルチック艦隊の苦難の航海の途中経過を報告しつつ黒溝台の戦いが勃発するまで。
 果たして旅順攻略に児玉大将がどれだけ影響を及ぼしたかは不明です。司馬遼太郎は歴史家ではなく、あくまで歴史小説家なので、見てきたかのように嘘を書くのも仕事です。どれだけ盛っているのか、どこまで史料に基づいているのか、気にしてはいけないのでしょうが、とにかく面白いですね。
 指揮系統を無視するか否かぎりぎりの線での介入で、帝国陸軍はかろうじて旅順攻略を果たし、港に停泊していたロシア艦隊を壊滅することに成功します。当時の火砲運用の常識には外れていたかもしれませんが、戦力を集中運用するという戦争本来の原理原則には則った話でした。
 そして、だんだんバルチック艦隊が気の毒になって来るのでした……。

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「坂の上の雲(4)」 司馬遼太郎

2014-08-23 | 戦記・戦史・軍事
 日本は最初から物資の消費量をあまく見積もっていた。旅順の要塞攻略戦で、1ヶ月分と見積もっていた弾薬を最初の1日で使い果たしたのだ。今からでは工場の生産ラインを増やすことも間に合わない。そもそも日本には金がない。食料すら滞りがちになっていた。
 それでも日本がロシアに対してなんとか互角の戦いに持って行けたのは、ロシアの陸軍と海軍の対立、陸軍内部の命令系統の混乱があったからで、決して日本の兵士や兵士が取り立てて優秀でも優勢でもない。
 しかも海軍と異なり、日本の陸軍には「陸軍はどうあるべきか」という構想もそれを実現させようとする人物もいなかった……。

 薄氷を踏む戦いが続きます。
 司馬遼太郎の見解では、軍神と呼ばれるようになる乃木大将もカリスマはあっても指揮官としては愚将で、伊地知参謀長は無能ということになってますし、大阪師団もここでは弱いということになってます。
 このあたりは解釈の相違もあるかもしれませんので、司馬史観という前提で腹に収めておきます。ドラマ化する時に、このあたりに苦労したことは疑いません。
 なんにせよ、面白いミリタリー群像劇なんですよ。

【坂の上の雲4】【司馬遼太郎】【文春文庫】【クロパトキン】【黄海海戦】【機雷】【明石元二郎】【鷹匠】【退却将軍】
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「ALKYON2」 岸田恋

2014-08-04 | 戦記・戦史・軍事
「僕は君じゃない。だから、此處へおいで」

 ナポレオン好きで、宇宙戦艦ヤマトが好きで、美女美青年からガキ、オヤジまで描き分けられて、アクションも描けるし、馬でもメカでもOKというマンガ家・岸田恋のファンクラブ会報……というより個人誌で、1982年発行。ちょうど前年の81年に「別冊アクション11/27」の『はっぴDo!Do!』でプロデビュー。忙しくなって、同人誌作品の執筆ペースが落ちていた頃です。
 掲載されている作品は、帆船時代の海洋戦記「ビフォー・ザ・マスト」の第6話「掌砲長の過去」が24頁。「別冊アクション」に短期連載していた『時代にキッス』の作品解説と名セリフ集、今となっては考えられないファンクラブ会員名簿(電話番号付き)、SF版ナポレオンもの『ネオ・ダイナスツ』のパロディ、ナポレオン関係書籍紹介、岸田恋作品リスト、映画コラム、ナポレオンの兵学校の同級生にして秘書のブーリエンヌ回想録の抜粋のコミックエッセイ……。
 面白い帆船マンガなんて、今でも貴重ですよ!

 これを今読み返して思うのは、化物語シリーズで忍野忍が余談として、ナポレオンの睡眠時間と入浴時間についてもっともな指摘をしていたけれど、ブーリエンヌが書き残していた話によるとナポレオンの入浴中、ブーリエンヌがずっと新聞や雑誌を読み聞かせて情報をインプットしてたんだとか。
 寝る暇、ないじゃないか?

【ALKYON】【SECOND SINGLE】【岸田恋】【RFC】【岸田恋合】【ネオ・ダイナスツ】【デジレ】【時代にキッス】
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「坂の上の雲(3)」 司馬遼太郎

2014-07-15 | 戦記・戦史・軍事
「白砂糖は、黒砂糖からできるのだ」
 マハン大佐の教えに従い、秋山真之は陸戦海戦を問わず古今東西の戦史から実例を引き出して軍学の礎とした。そのため、日本海海戦の後、その戦法が水軍(海賊)の匂いがすると指摘されることになる。

 もはや秋山真之を教えることのできる者はいなかった。明治35年、真之は海軍大学校に新たに設けられた戦術講座の教官として赴任する。
 そして病床の正岡子規がついに息を引き取り、司馬遼太郎はこの小説をどう書き継ごうかまだ悩んでいた……


 兄が日本の騎兵の基礎を作り上げ、弟が海軍作戦の基礎を作り上げていく物語も、ついに日露戦争が始まります。
 そもそも国力差からして政府はもちろん陸軍も海軍も財界も勝てるとは端から思っていません。戦争を始めたがっているのは景気の良い報道に踊らされている庶民くらい。それでも、ロシアは満州、遼東半島の軍備を着々と増強し、軍艦の建造まで始まっているので放置しておけば数年と経たずに朝鮮半島まではロシアの領土になることは目に見えていて、そうしたら日本は保ちません。
 残された選択肢は、とにかく戦争して何とか五分五分にまで持って行った上で外交で線引きに持ち込む……そのためには、まず初戦で勝って海外の投資家に日本の国債を買ってもらって戦費調達しなくては……と、そこから始めないといけない泥沼の戦争です。
 でも、この日露戦争の時点では、国も軍も相手の技量を甘く見たり、物量で負けても精神論で何とかなるとは思っていなかったというのが司馬史観です。なにやってんだ、太平洋戦争時の日本は……というのが、自分が実際に戦場で苦労した司馬遼太郎の思いなんでしょう。
 そして、やりたい放題の正岡子規が退場しましたが、そのあたりの誰だって死ぬのはイヤに決まっている、その本人が死にたがっているというのはどれほど苦しいということなのか理解せよというくだりには実体験として納得してしまいます。

【坂の上の雲3】【司馬遼太郎】【文春文庫】【能島流海賊古法】【甲州流軍学】【立ち小便】【日英同盟】【杉野は何処、杉野は居ずや】【クロパトキン】【旅順港閉塞】【機雷】
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「坂の上の雲(2)」 司馬遼太郎

2014-07-11 | 戦記・戦史・軍事
「人間の頭に上下などはない。要点をつかむという能力と、不要不急のものはきりすてるという大胆さだけが問題だ」
 秋山真之は同級の森山慶三郎に対して、物事ができるかできないかの差は性格の違いだけだと告げた。

 朝鮮半島での日本と清国の権益争いは一触即発の危機にあった。
 軍は、「日本公使館は兵員若干をおき、護衛すること」という済物浦条約の条項を拡大解釈して合法的な出兵を画策。慎重派の首相であった伊藤博文に対しては「一個旅団を派遣する」と報告しながら、通常は兵員数2000名の旅団を戦時編制の8000名にして派兵。これをもって既に5000名を韓国に派遣していた清国に対抗することとした。
 日清戦争の勃発である。
 弟・秋山真之が巡洋艦に乗り込んで第二線で駆け回っていた頃、遼東半島に上陸していた兄・好古は自らの支隊を率いて偵察を実施。旅順要塞攻略を立案していた。
 そしてそのとき、病床の正岡子規は近代短歌・俳句を確立しようと旧弊な文学勢力と戦っていたが、自分の余命が長くないのを良いことに、言いたいように言って暴れ回っていた……。

 日清戦争や義和団事件を経て、米西戦争に観戦武官として参加した秋山好古が軍略家としての基礎を学ぶまで。

「俺には嫁が多すぎてこまる」
 水雷屋である海軍大尉、広瀬武夫にとっての妻は海軍と柔道と漢詩だった。
 趣味の対象を嫁と言い切るのは、どこから始まったんだろうか。

【坂の上の雲2】【司馬遼太郎】【文春文庫】【鉄道網】【兵棋演習】【イロコワ】【港口閉塞】【無敵艦隊】【アルフレッド・セイヤー・マハン】【大山巌】【黄海海戦】
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「坂の上の雲(1)」 司馬遼太郎

2014-05-21 | 戦記・戦史・軍事
「一個の丈夫が金というものでひとの厄介になれば、そのぶんだけ気が縮んで生涯しわができる」
 秋山好古は弟・真之に対して、相手が誰であろうと金で借りを作るなと命じた。

 明治維新後の日本は近代国家の仲間入りをしたものの、未だ二等国であることは自分たちがいちばんよく知っていた。だから試行錯誤しながらも学校制度を整えて師弟を教育し、外国から人を招いたり留学しては世界最先端技術を学ぼうとしていた。
 四国松山で生まれ育った秋山好古は、師範学校から士官学校へ進み、騎兵を志した。
 それは教育が無ければ家族を養うための職を得られないからであり、師範学校と士官学校のどちらも官費で教育が受けられる数少ない教育機関であるからで、騎兵を選んだのは教育期間が短いからであった。
 すべて秋山にとっては必然だったが、日本という国にとっては重要な選択だった……。

 後に日本の騎兵制度を作り上げ、日露戦争でコサック騎兵を打ち破ることになる秋山好古、その弟で日本海海戦の作戦立案をすることになる秋山真之、真之の友人で日本の文学界に大きな足跡を残すことになる正岡子規の3人を中心に、明治維新後の日本が日清戦争を経て日露戦争に勝つまでの時代を綴った群像小説。
 この巻は主に日本の教育制度と軍制が整うまでの話で、ドイツから来たメッケル少佐が頑張って日本陸軍の基礎を作ってます。やはり教育は大事です。広く国民に教育が行き渡ってないと国力はなんともならないと、昨今の他国の例を見ても思います。
 司馬遼太郎全集はあるのだけれど、ハードカバーなものだからなかなか読む機会が無くて積ん読状態。結局、NHKドラマに合わせて書店にまた並びだした文庫版を買い直し。やっぱり面白いんですよね。ぐいぐい読める。読まされる。大河ドラマ版もたまたま入院している時期で、病院のベッドでこれまた愉しみにしてました。

【坂の上の雲1】【司馬遼太郎】【文春文庫】【ドイツ騎兵】【参謀旅行】【メッケル】【鎮台】【師団】
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「敗軍奮戦記」 松田孝宏/内田弘樹

2014-04-29 | 戦記・戦史・軍事
 硬派な記事を硬軟工夫して読ませるミリタリー専門誌『ミリタリー・クラシックス』に連載されていた10年分40編のエピソードをまとめたもので、陸海空それぞれのさまざまな戦場や部隊、兵器などを負けた側からの視点で綴ったもの。一応、「第二次大戦」とありますが、日露戦争の巡洋艦「ドミトリー・ドンスコイ」の戦いにも触れられていて、これもなかなかの猛戦です。
 いろいろあったけれど、いちばん興味深かったのは歩兵第八連隊の通史。帝国陸軍の歩兵は出身地ごとにまとめられていて、その中でも商人層の多い大阪中心の第八連隊は弱いことで有名……というか、「またも負けたか八連隊」の囃しはミリタリーに疎い自分もそれなりに聞いたことがある話だったのだけれど、きちんと戦歴を追うと実は勇戦して不敗なんだとか。これが今年いちばんのびっくり。

【敗軍奮戦記】【第二次大戦 知られざる“敗者たち”の奮闘】【松田孝宏】【内田弘樹】【イカロス出版】【ミリタリー・クラシックス】【火星作戦】【ゴリアテ】【初月】【グリフォン】【歩兵第八聯隊】
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「輸送船団を死守せよ」 ダグラス・リーマン

2014-03-08 | 戦記・戦史・軍事
「結婚するつもりなんだ」
 ロジャー・キッド航海長のこの嬉しそうな言葉は、死亡フラグや否や?

 英海軍のトライバル級駆逐艦<ハッカ>に新任艦長として着任したマーティノー中佐は、古参の部下たちを率いて船団護衛の任務へと乗りだし、ドイツ海軍の駆逐艦やUボートと戦い続ける。
 やがてロシア向けの大船団を護衛してスカパ・フローを出港するハッカ号だが、行く手にはドイツ巡洋艦隊が待ち受けていた……。

 輸送船団を守るため、ドイツ艦隊に立ち向かう護衛部隊の物語。
 原題は「For Valour」。英国の軍人に対して授与される最高の戦功章であるヴィクトリア十字勲章に刻まれている文字が「For Valour(その勇気に対して)」なので、その方が内容にふさわしいのだけれど、日本語のタイトルにはしにくいですよね。
 この勲章を受勲した艦長が妻から離縁を突きつけられ、傷心を隠して着任するところから始まりますが、マーティノー艦長の物語……というより、ハッカ号に乗り込んだ海の男たちの群像劇といったテイストです。
 舞台となるトライバル級駆逐艦というのは艦名に世界の各種族の名前がつけられているシリーズで、実際のトライバル級は「グルカ」とか「コサック」などとついていますが、「ハッカ」というのはどこだろうと思ったら台湾のトライブなようです。
 登場する食事をするシーンでは、熱くて甘い紅茶、ランチョンミートかコンビーフに缶詰のソーセージにマスタードを塗りたくった噛みにくいサンドイッチが登場してます。珈琲ではないところがイギリスだなあ。

【輸送船団を死守せよ】【ダグラス・リーマン】【野上隼夫】【ハヤカワ文庫NV】【カナダ女性補助部隊】【婦人部隊員】【火を突つくときに暖炉は見ない】【機雷敷設艦】【戦闘機射出艦】【護衛空母】

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「戦略大作戦」 主演:クリント・イーストウッド

2013-05-23 | 戦記・戦史・軍事
 第二次大戦末期。フランスでは敵味方の戦線が入り組んだまま膠着状態が続いていた。
 ケリーたちの小隊には3日間の休暇が与えられたものの、周囲には酒場もなければ女もおらず、何もすることがない。そんなとき、密かに転がり込んできたのは、ドイツ軍が近くの街から金塊を運びだそうとしている情報だった。
 金塊は前線の向こう、ドイツ軍支配下の銀行だけれど、このまま日向ぼっこをしていても3日後にはまた前線に送り込まれて死ぬことになるだけならば、一攫千金を狙ってもいいんじゃない?
 ケリーたちは武器をかき集めて敵陣の奥深くへと潜入していくが、いつの間にか金の匂いを嗅ぎつけた欲の亡者たちが集まってきて、司令部の意図しないところで一大攻勢が始まっていた……。

 すっかり生活の場になっちゃっている姿も良いけれど、トンネルから出てくるシャーマンも格好いいんだ。戦争映画が円熟しきって役者も脂がのりきっている時期の作品で、戦車や銃器もそれっぽく大物から細かいところまで揃うくらいにリアリティは重視しているけれど、一方で人道的とか思想的な面から戦争を語ろうなんてリアリズムや大作嗜好は持ち合わせていなくて、結局は戦争なんてエライさんの都合で起きているんで、下っ端は欲得だけだよ……という話。当てにならない支援砲撃とかファイアーフライみたいに砲身だけ太くしてみました……ってあたりも泣かせるけれど、いろいろ余計なものが付きすぎです。
 ガルパンを視ていたら、なんか女の子たちも『戦略大作戦』を視ていたようで、なんかほっこりしちゃいました。

「橋はある…………今はもう無いっ!」

 なんどもDVDになりブルーレイも発売されていますが、どれにも日本語吹き替え版が入っていないのが難点。山田康雄のイーストウッドに大平透のテリー・サバラスに宍戸錠のサザーランドは最高なのに……。
 最期にカール=オットー・アルベルティが登場するに至り、戦争映画としてはカンペキになっちゃったのではなかろうか。

【戦略大作戦】【KELLY'S HEROES】【痛快戦争スペクタクル】【クリント・イーストウッド】【テリー・サバラス】【ドナルド・サザーランド】【マカロニ・ウェスタン】【墓堀り】【軍楽隊】【キルロイ】【第35歩兵師団】【誤爆】
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「若き将軍の朝鮮戦争」 白善

2012-11-08 | 戦記・戦史・軍事
「アメリカの大統領選挙がどれほど大変な戦争か、ご存じか。その戦いの勝者に盾突いて勝てるはずがない」
 マッカーサー解任の理由を訊ねられたアメリカ軍人の多くの答え。

 1950年、南北国境線で第5師団長を務めていた白大佐はまだ30歳であった。
 北が南進を開始してソウルが陥落し、国連軍が釜山を中心とした狭い地域に押し込められていく中、訓練も装備も不十分な部隊を指揮して白大佐は戦い続け、やがて平壌攻略の一番乗りを果たす……。

 ツィッターで「これは読む価値のある本だぞ」と聞いて、アマゾンの出品者から購入。でも、けっこう地図やら本文に書き込みがあって汚いぞ。購入してから開くまでに半年あったので、クレームつけるタイミングを逸したけどさ。それに書き込みやアンダーラインの引いてある箇所が、どうでもいいとこばかりで笑ってしまう。こいつ、読んでてわかってなかったろ……。
 
 平壌に生まれ、日本の支配下で軍事教練を受け、教師になるはずがいつの間にか満州国軍に加わっていた青年が、やがて韓国軍の中核となり、退役してフランス大使や運輸大臣を務め、そして民間の立場から国造りに関わっていくところまでを語っています。半生記というか、ほぼすべて。大将を7年勤め上げて退役したときには未だ39歳……若いわ……。
 戦記としても面白いし、紙幅は多くないものの政治・経済史としても簡潔に言及されていて面白い。「よど号」ハイジャック事件とソウルの地下鉄にあんな因果関係があろうとは……。

【若き将軍の朝鮮戦争】【白善】【韓国戦争】【警察予備隊】【多富洞の戦闘】【相互防衛条約】【なんでも法治主義】【間島特設隊】【大陸打通作戦】【吉田茂】【満州国軍】【白団】
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「氷風のクルッカ」 柳内たくみ

2012-06-18 | 戦記・戦史・軍事
 第2次世界大戦の初頭、1939年11月30日にソビエト連邦はフィンランドへの侵攻を開始した。
 国際世論はフィンランド支持であったものの、近隣のスカンジナビア諸国が保身の中立を堅持したため、実効性のある支援が届くことはなく、大国であるソ連の攻勢を小国フィンランドが単身迎え撃つこととなった。
 しかし大方の予想を覆し、フィンランドはこの侵略に抵抗し、多くの犠牲を出して国土の10%をソ連に割譲するという条件を受け入れながらも独立を守った…………という「冬戦争」の顛末を、フィンランドとソ連をスオミ共和国とニューヴォスト連邦(ヴェナヤ軍)に名前を変えて再話したのが、この話。

 フランス外人部隊では“モロッコの恐怖”と呼ばれたアールネ・ユーティライネンとか、その部下で“白い死神”と呼ばれた伝説の狙撃手シモ・ヘイへとか、史実をそのまま記述した方が面白くない?という話ですけれど、冬戦争を題材とした文献はさほど多くなく、いちばんメジャーなのが『ストライク・ウィッチーズ』のエイラなので、ここらでその中間くらいの作品があっても良いですよね。

 ヴェナヤ軍から祖国を守るため、老若男女を問わずすべての国民が立ち上がった。
 もちろん、後方で工場や輸送に携わるのも大事な仕事だが、少女クルッカの特技は狙撃だった……。

 やはり、そのまま敵味方共に実名でいくべきだったというのが読後感。ついでにいうと、最後の最後で恋愛っぽいやりとりが出てくるのに唐突な印象を受けました。

【氷風のクルッカ】【雪の妖精と白い死神】【柳内たくみ】【アルファポリス】【超ド迫力天才美少女スナイパー小説】【血縁対決】【雪中の奇跡
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「陸軍“めしたき兵”奮戦記」 『丸』編集部

2012-06-14 | 戦記・戦史・軍事
「この飛行艇は輸送任務が主で、敵機の攻撃をうけたらひとたまりもないから、万一の場合にもさわいだりあわてたりすることのないように」

 他の戦記ではあまり語られる機会の無かった、炊事兵、整備兵、軍楽隊など裏方的な兵隊たちの回想録です。
 ただ、めしたき兵といっても所属は野砲でノモンハンの戦場のど真ん中で置き去りにされたり、軍楽隊でも普段は暗号解読やら伝令やらに飛び回っていたり……という回想で、料理のレシピがついているわけでもなく、どんな曲が演奏されたか詳しく書かれているわけでもなく、戦場で右往左往したこと、息抜きの様子、上官のしごきなどに言及した、全体の戦況を知らされることの無かった一般の兵隊たちの物語です。
 同じ軍隊の食事でも、まずくてまずくてかなわないというものもいれば、こんな美味いものばかり食べていては軍をやめてから困ると悩むものなど、当時の生活格差が浮き彫りになります。
 そして解説が長い長い。
 兵隊の給与とか酒保の様子とか営倉と懲罰についてとか、あれもこれも語って全然解説になってません。補講に近い。

【陸軍“めしたき兵”奮戦記】【天野俊介】【重砲隊】【大陸戦線“もしもし部隊”従軍記】【福田広宣】【野戦電信中隊】【「日本の空軍」メインテナンス戦記】【水柿敏男】【久富福市】【パレンバン】【屠龍】【バッター制裁】【連合艦隊司令部“軍楽隊”盛衰記】【金崎亨】【『丸』編集部】【真珠湾への道は遠かった】【千種定男】【秋雲】【真珠湾攻撃】
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「雪中の奇跡」 梅本弘

2012-06-07 | 戦記・戦史・軍事
 すぎやくんに資料を頼んでいたのだけれど、発見されなかったとのことで別の本が到着。第一次ソ連-フィンランド戦争を描いた『雪中の奇跡』。知りたかった部分については詳しくはないけれど、充分に用が足せたから良しとしよう。不足分はインターネットの英語サイトで補填。図版は記録写真や戦争博物館の実機写真や映画のスチール等でけっこう豊富。満足。

 1939年11月にソ連と小国フィンランドの間で勃発した冬戦争。戦車・装甲車3000両、航空機2500機を擁し、その延べ兵力は150万にも達するというソ連軍に対して、迎え撃つフィンランドは人口すべて合わせても370万人で装備は旧式ばかり。各国はソ連の無法な侵略に抗議の声を上げても積極的に動くことはありませんでした。
 けれどもフィンランド軍は戦い、持ちこたえました。雪に閉ざされたフィンランドでいったい何が起こったのか……豊富な写真とともにその経緯を語ります。

「我々は、我軍の将兵の死体を埋めるのにちょうどよいくらいの土地を獲得した」
 あるソ連の将軍の言葉。

 でも、一般的には「冬戦争」はおろか「独ソ戦」すらマイナーなんだよね。
 大多数の日本人にとって、「第二次世界大戦」とは「太平洋戦争」であり、せいぜい満州までの認識なのかも知れません。
 ただ、いくら正しくても誰も助けてくれないことは幾らでもある、それでも戦わなければいけないときがあるということを突きつけてくれる本書は必読だと思います。(2008-02-12 2012-06-07改稿)

【雪中の奇跡】【梅本弘】【大日本絵画】【フィンランド】【冬戦争】【Model Graphix】
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「卵をめぐる祖父の戦争」 デイヴィッド・ベニオフ

2011-03-19 | 戦記・戦史・軍事
「あたし、料理はしないの」

 1942年大晦日。ドイツ軍に包囲されて飢餓状態に陥っているレニングラード。
 窃盗と脱走で逮捕されたレフとコーリャは、秘密警察のグレチコ大佐と取り引きした。自分たちの命と引き替えに、大佐の娘の結婚式にケーキを作るために必要な玉子を12ケ、1週間で手に入れろというのだ。
 しかし、食べる物に事欠き、餓死や人肉食が横行する街の中で鶏の玉子など見つけようもなく……。

 図書館の本まで食い尽くしてネズミもいないレニングラードで、17歳のユダヤ人少年レフが自称詩人で色男のコーリャと組んで、玉子を求めて銃弾をかいくぐっていく、シモネタ満載で、性欲と嘘と友情と生と死の物語。
 太った人間はやはり飢えには弱いんだそうです。気をつけよう……。

【卵をめぐる祖父の戦争】【デイヴィッド・ベニオフ】【ドイツの科学者は世界一】【敗残兵】【地雷犬】【チェス】
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「レッド・オクトーバーを追え」 トム・クランシー

2010-12-15 | 戦記・戦史・軍事
 東西冷戦の真っ直中、処女航海に旅立ったはずのソ連の新型原子力潜水艦<レッド・オクトーバー>が消息を絶った。
 核ミサイルを搭載した<レッド・オクトーバー>は無音航行が可能な軍事機密の結晶であり、指揮するラミウス艦長は党の信頼も厚いベテラン艦長。彼の目的は何か? 亡命か、叛乱か?
 最新鋭潜水艦をアメリカに渡すことも、ラミウス艦長にアメリカ本土を核攻撃させることもできないソ連海軍は、全力で<レッド・オクトーバー>を追う。そしてアメリカ海軍もこの謎の潜水艦の存在に気づき、追跡を開始した……。

 もはやミリタリー系冒険小説の古典となった1冊。脇役が幸せな未来を語ると死の前兆という露骨な死亡フラグも健在。これはなんだかなーと思いますが、全体としてはとてもおもしろい作品でした。
 最初は映画の方を観たのかな? 潜水艦好きな方から、「観ろ。どの潜水艦もソナーマンはいかれているから、そこがポイントだ」と薦められた気がします。
 映画の方はショーン・コネリーがすてき。「最後の聖戦」でも思いましたが、あの脂ギトギトだったボンド役者が、歳月を重ねていい感じに老成しました。 

【レッド・オクトーバーを追え】【トム・クランシー】【東西冷戦】【キャタピラー】【テディベア】
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