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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

免疫の意味論

2019-01-26 18:20:11 | 読んだ本
多田富雄 1993年 青土社
河合隼雄さんの『こころの声を聴く』という対談集を読んで、とても気になったので探していたら、最近になってわりと安価で中古で手に入れることができた、2006年で実に48刷、私が知らなかっただけで、すごいロングセラーだね。
あとがきによれば、もとは「現代思想」に連載されたものだそうで、れっきとした免疫学の本なんだけど、そこは専門の研究者にとどまることなく、誰にとっても刺激的なものである。(私は「現代思想」読んだことないけどね。)
なんつったって、理科の本のようであって、「自己とはなにか」ってこと問題にしてるんである、哲学だ、それ。
>そもそも「自己」とは何なのか。これほど神経質なまでに「自己」と「非自己」を区別する必要が本当にあったのだろうか。「自己」と「非自己」を区別するような能力は、どこで何が決めているのだろうか。その能力に破綻が生じた場合何が起こるのか。「非自己」の侵入に対して、「自己」はいかなら挙動を示すのか。(p.33)
ということが、免疫学の問題なんだという、試験管とか顕微鏡で実験やってるイメージぢゃない、まさに意味論。
調べがすすんだ結果、免疫をコントロールしてるのは、脳とかぢゃなくて胸腺だとわかったが、これは十代前半で最も大きくなったあとは、年とるとともに著しく縮んでっちゃう臓器だという。
そういうのから、老いるとはどういうことかなんて問題も考えさせられるんだけど、胸腺でつくられた細胞のはたらきっぷりなどから、
>「非自己」の認識と排除のために発達したと考えられてきた免疫が、実は「自己」の認識をもとにして成立していたのである。免疫は、「非自己」に対する反応系として捉えるよりは、「自己」の全一性を保証するために存在するという考えが出てくる。(p.47)
なんてことになってくるんで、やっぱ化け学のつもりで読んでたりすると、己とはみたいな存在に関して振り返ることを要求されてるみたいで油断がならない。
私なんかは、ときどき乱暴になって、人間の身体なんて機械なんだからとか、ケミカルな反応は不可避なんだからクスリにはかなわないしとか、口走るので、ちょっとは反省しなくてはいけない。
アレルギーのところなんかもおもしろい。
>高等脊椎動物の免疫系をここまで発達させた要因は、おそらく環境にいる微生物との間断ない戦いであったと思われる。(略)細菌やウイルスの侵入をあるボーダラインで抑え、微妙な共存関係を作り出すというのが免疫の働きである。その共存関係が急速に崩されていった。先進国は、人類始まって以来の無菌に近い状態となった。あとに残った論理は共存の拒否である。(p.163)
ってのは、これまでに同じようなこと聞いたことあるような気もするが、まったくそのとおりで、「共存の拒否」って強い言葉がいい。
私なんかは自分が目立つアレルギーなんもないのをいいことに、みんな自分が可愛すぎるんでしょ、だからささいな異物でも受け容れることできなくて大騒ぎになっちゃうんでしょ、とか暴言をよく吐くけど。
アレルギーの拒否に関しては、すこし予備知識があったから驚かなかったけど、本書でいちばん刺激的だったのは、その次に出てきた「管(チューブ)としての人間」って概念。
>即物的に見れば、人間は多数の管から成っている。あなたが、たとえば癌の末期になって集中治療室に入れられると、あなたのすべての管は外部の管につながれる。そのときあなたは人間が管の集合体であることを知るであろう。(p.166)
ってのは、ずいぶんすてきな言説だ。なんか、ミミズの進化したものにすぎない、みたいに言われてる気もする。
そっから話は消化管にいって、消化管では常にいろんな外部のものと接してるのに、どううまく対処してるかってことを示してくれるんだけど、
でも、全体としては、やっぱ私にとっては生物の専門書で、カタカナとかアルファベットで細胞とか分子とかの知らない名称が出てくると、つっかえてしまう。
ホントに理解したかっていうと、とても自信がない、学生んときみたいにテストされたとしたら、たぶん解答埋められない。
第一章 脳の「自己」と身体の「自己」
第二章 免疫の「自己」中心性 胸腺と免疫の内部世界
第三章 免疫の認識論 ネットワーク説をめぐって
第四章 体制(エスタブリッシュメント)としての免疫 インターロイキン王国の興亡
第五章 超(スーパー)システムとしての免疫 自己の成立機構
第六章 スーパー人間の崩壊 免疫系の老化
第七章 エイズと文化 RNAウイルス遺伝子の謀略
第八章 アレルギーの時代 あるいは相互拒否の論理
第九章 内なる外 管(チューブ)としての人間
第十章 免疫系の叛乱 自己寛容と自己免疫
第十一章 免疫からの逃亡 癌はなぜ排除されないか
第十二章 解体された「自己」 再び「自己」について
コメント
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