北尾トロ・下関マグロ・竜超(町中華探検隊) 平成30年 角川文庫版
去年の秋にみつけて買ってみた中古の文庫。
著者のひとりの北尾トロさんの本はいくつか読んだことがあったし、なんかタイトルおもしろそうだから。
副題は「昭和の味を食べに行こう」ということなんだが、昭和に生きていた人間としては、なんとなく意味がわかるよね「町中華」って言葉。
定義は、けっこう揺れ動くものらしいが、本書による一応の定義は、
>昭和以前から営業し、一〇〇〇円以内で満腹になれる庶民的な中華店。単品料理主体や、ラーメンなどに特化した専門店と異なり、麺類、飯類、定食など多彩な味を提供する。カレーやカツ丼、オムライスを備える店も。大規模チェーン店と違ってマニュアルは存在せず、店主の人柄や味の傾向もはっきりあらわれる(p.79-80)
ということになる、まあ、そんな感じだろう。
2014年から町中華を探す街歩きを始めたそうだが、本書のいいのは、そのスタンス。
ある店の閉店をきっかけに始めたってこともあるけど、
>ぼくたちは昭和の食文化がひっそりと消えていこうとしていることに気がついた。ギリギリのタイミングで間に合ったと言ってもいい。やるべきことは、なくなったらそれっきりになりそうな町中華について考え、記録していくことだ。(p.33)
っていう視点でやっているとこがいい。
>(略)手が空くタイミングを見計らって店主に話しかけるようにもなった。ぼくたちは町の中華屋さんをめぐっている者です、などと名乗り、ここはいつからやっているんですかと尋ねる。まず知りたいのはそこなのだ。(p.212)
っていうように店の成り立ちを重視する。
たぶんマネするような後発の人たちは、ただのB級グルメごっこにとどまると思うが、それぢゃ意味がない。
>もう、パッと入って一度食べただけで、店の評価を下すのはやめようと思った。そういうものではないよなと思った。
>この日以来、まずいと思える店に入ると、ぼくはすごくうれしくなる。ここを動線とする住人たちは、どうしてこの店を残したのかと考える楽しみがあるからだ。(p.121)
ってあたりのことに気づくかどうかは大事なことだと思う。
高齢化と後継者の不在で個人経営の飲食店がどんどんなくなっていくことへの危機感、料理の味とか見た目より、そっちのほうがテーマだって読むまではこちらも予想してはいなかったんだが。