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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

結婚式のメンバー

2020-03-14 18:50:14 | 読んだ本

カーソン・マッカラーズ/村上春樹訳 平成二十八年 新潮文庫《村上柴田翻訳堂》
カーソン・マッカラーズの『心は孤独な狩人』っていうのが読みたくて、探してるんだけど見つからない。
その書名をそもそも知った、町山智浩さんの『トラウマ映画館』を読み返してたら、「新潮文庫で出ていたが、だいぶ前から絶版だ」って、ちゃんと書いてあった、そうかー絶版なのか。
しかたないので、とても手に入りやすいこの文庫を中古で買って読んでみた。
巻末の訳者解説によると、「半ば自伝的な小説」ということらしいんだが、主人公は背の高い12歳のフランキーという少女。
彼女の家の料理女である黒人のベレニスと、彼女の従弟の6歳のジョン・ヘンリー、3人がまったりと過ごす夏の午後の会話がこの小説のほとんど中心になってると思う、時代は第二次世界大戦中。
陸軍に所属しているフランキーのただひとりの兄が結婚するんで、フランキーは結婚式に参加したらそのまま兄夫婦たちについていって、この自分の町にはもう戻ってこないんだって考えにとりつかれる。
タイトルの「メンバー」ってとこに、主人公のこだわりは凝縮されてく。
自分はどこにも属していない、なんのメンバーでもないってことへの、不安や焦燥とはちょっとちがうだろうけど落ち着かない感情。
>彼女は「わたし」という人間であり、一人ぼっちで歩き回ったり、いろんなことをやったりしなくてはならなかった。他の人々はみんな、彼女以外のみんなが、「我々」と称すべきものを持っていた。(略)ところがこのフランキーには「わたしたち」と呼べるようなものは何ひとつなかった。(p.85-86)
というわけなんだが、兄の結婚式をきっかけに天啓にうたれたように、「彼らはわたしにとっての『わたしたち』なんだ」と思い込む。
よくわかんない妄想はふくらむばかりで、結婚式のあとは兄夫婦についていって、三人で世界中を巡り歩くんだと言って、
>そしてわたしたちは彼らに会うの。みんなに。(略)わたしたちはあまりにたくさんのクラブのメンバーになるので、どこのメンバーだったかとても覚えきれない。わたしたちは世界全体のメンバーになるのよ。もう、なんたってね!(p.233)
という調子である。
そんな彼女について、不幸な結婚を繰り返しているずっと自称35歳のベレニスが、
>あんたは自分について何かちょっとでも褒められると、それを好き放題に膨らませていくんだ。あるいはそれが悪い指摘であっても、やはり似たようなことをする。ものごとを頭の中で、自分の都合のいいように片端から作り替えていく。それはあんたの問題点だよ。(p.69)
って評してるとこがおもしろかったりする。
んー、若いときに読んでたら、少女のほうに応援する気持ちになったかもしれんが、私もいいかげんトシなので、分別ある大人の意見のほうに賛成してしまう。

コメント
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