リチャード・マシスン/尾之上浩司訳 二〇〇七年 ハヤカワ文庫版
なんでもいいからリチャード・マシスン読みたい病がつづいていて、先月に買った中古の文庫。
新訳・改題版というのはどういうことかというと、原題「I am Legend」は1954年の作品で、日本では1970年代から『地球最後の男』として刊行されてたらしい、まちがって高い古本買っちゃったりしないように注意しないと。
そもそもは1958年に『吸血鬼』って題で邦訳出てたらしいが、さすがにそんな古い本は見つけたりはしないだろう。
物語の舞台は、「第一部 一九七六年一月」「第二部 一九七六年三月」「第三部 一九七八年六月」という章立てになってるとおり、1954年から見たら近未来ってとこか。
どうも新たな、そしてたぶん最後の、世界大戦があった後らしい、どうもね、冷戦時代というのは、やがて今までのよりひどい戦争が起きるんだろうって未来観があるんだ、どうしても。
で、主人公のロバート・ネヴィルっていう36歳の男は、ただひとり生き残っている人間というショッキングな設定。
だけど、人類は戦争で滅んぢゃったわけではなく、襲ったのは謎の疫病で、でもその原因には細菌兵器の使用が噛んでんぢゃないのって示唆はあるが。
ところで、おっかないのは、主人公のほかに、まわりにも人間の形をしたものはたくさんいる、ってとこ。
それが何かっていうと、吸血鬼。SFで吸血鬼って出すかい、って、ちと思ってしまうが。
で、こいつらが夜になると、家のまわりで「出てこい」とか騒いで襲撃してくる、籠城生活も楽ぢゃない。
そう、設定がほんとトラディショナルな吸血鬼なんで、太陽の光には弱いから昼間は動かないし、なんせニンニクとか十字架とか嫌いときてる、いいのか、そんな古めかしいことで。
ところが主人公は、中世の伝説にとらわれちゃだめだ、科学的に理由を探ろう、なんて思い立って、誰もいない図書館から本持ってきて勉強したり、顕微鏡使えるようになって病原体を見つけようとしたりする。
でも、理由がわかるより先に、とりあえず自己防衛のために、昼間は寝ている吸血鬼を見つけては、胸に木の杭を打ち込んで殺してまわったりしてんだけど。
勝ち目ない戦いだ、ひどい気分で酔いつぶれるまで酒を飲むって気持ちはよくわかる。
途中で、家の近くに犬がいるのを見つけて、なんとか手なずけようとするってエピソードがあるんだけど、そういうのはなんとなくいい、長編には短編だと許されないかもしれないゆるさがあって。