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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

打ちのめされるようなすごい本

2021-03-07 18:27:58 | 読んだ本

米原万里 2009年 文春文庫版
丸谷才一が解説で、「一冊の本を相手どるのでなく、本の世界と取組んでゐる」などとその書評の資質をたたえているのを他のところでみたところから、読んでみようと思った書評集、1月ころだったかな中古見つけて買った。
「第一部 私の読書日記」は、2001年から2006年まで週刊文春に連載されたもの。ちなみに著者は2006年に亡くなった。
本書タイトルの元となったと思われる「打ちのめされるようなすごい小説」というのは2002年2月28日の回のタイトルで、その小説こそが丸谷才一の『笹まくら』である。
友人の小説家から「トマス・H・クックの『夜の記憶』を読め」と言われて読んだんだけど、もっとすごい日本の小説を読んだことあるはずだと考えるうちに思い出したのが『笹まくら』。
現在と過去を絶え間なく往復する手法だけぢゃなく、
>書き言葉の日本語は、これほど柔軟で多彩で的確な表現が可能だったのか。(p.94)
という具合に絶賛。
でも、本の話題だけぢゃなくて、世相の切り方のほうがおもしろかったりする。
たとえば、第一次小泉内閣時代の外務省のごたごたをみて、
>そもそもアメリカの属領にすぎない日本に外務省があるのは、あたかも独立国であるかのような錯覚を国民が抱き続けるためのアクセサリーのようなものだから、職員も仕事そのものに使命感ややりがいを見出しにくいこともあろう。(p.97)
とか。
日本でのワールドカップで日本・ロシア戦の通訳に行った横浜の競技場の環境について、
>なのに競技場は田畑と住宅街のど真ん中に蜃気楼みたいに建っていて、サポーターが喜びや落胆に高揚する心身を解き放つ広場や居酒屋がないのは、いかにもハード一辺倒な土建屋国家である。(p.113)
という感想を持ったりとか。
>(略)公立図書館がベストセラーの大量買いをする、つまり貸し本屋化していてこういう資料的価値のある名著を買い置いてくれないので(略)(p.103)
と日本の出版事情とか図書館のありかたを嘆いたりとか。
そんな元気いっぱいみたいだったひとだが、2003年11月のところで卵巣嚢腫を内視鏡で摘出したということを書いて、後半はガンと戦う話になってくるのが痛々しい。
外科手術、抗がん剤、放射線治療のいずれも避けて、ちがう方法で治すことを模索するんだが、いろんな本読んでも、商売の宣伝ぢゃないかとか、成功例しかとりあげてないのは疑わしいとか、厳しい視線を持ち続ける。
そんななかで断食療法の本にであうんだが、そこにガンぢゃなくて感染症のこと書いてあって、
>アメリカの医学者マレイは、飢饉の遊牧民に食糧供給を始めてまもなくマラリア、結核などが発生したことから栄養過多が感染症を誘発するという説を導き出す。第一次大戦中に発生したインフルエンザで最大の死亡率が認められたのは、十分に栄養の行き渡っている人々のグループだった。第二次大戦中、過密状態の収容所で低栄養状態におかれた人々がハシカやチフスに対して最低の罹患率を示した。(略)マレイは多くの事例から、栄養素は、体の維持よりも病原菌の分裂、増殖のほうに利用されると結論する。(p.255)
って箇所は、感染症対策が最大のテーマである現在において、私はちょっと興味をもった。
「第二部 書評 1995~2005」は、いろんなとこ(おもに読売新聞ということになるかな)に書いた、全書評集。
丸谷さんのいうとおり「褒め上手」なので、読んでておもしろい。
とりあげられているうちのいくつかは私もきっと読むことになるんぢゃないかと。


コメント
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