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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

氷のような手

2021-12-04 18:36:54 | 読んだ本

E・S・ガードナー/小笠原豊樹訳 一九八三年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
また古いペリイ・メイスンシリーズを読んでみた。
原題「THE CASE OF THE ICE-COLD HANDS」は1963年1962年(※2022年1月9日訂正)の作品。
メイスンの事務所に来たのは、よくある展開で二十代後半の美しい女性、今回はブロンドでも赤毛でもなく「みごとなブリュネット」で、「黒い情熱的なひとみ」の持主。
でも秘書のデラ・ストリートに言わせると、「非常に個性が強くて、いうなれば鉄火の女」というのでひとくせありそう。
依頼内容が変わってて、今日の午後のレースの500ドル分の馬券を持ってきて、買ったときのオッズは50倍だったんだけど、当たってたら払戻金を明日窓口で受け取って、わたしの指示にしたがって手渡してくれというもの。
これは当たってるんだろうなと推測するメイスンたちが、録音の競馬実況放送番組を聞くと、やっぱりその穴馬は勝っていて、翌日受け取るべき現金は14,250ドルと判明。
翌日競馬場に行って、窓口で大金を受け取ってスーツケースに入れてると、神経質そうな五十がらみの男が警察官をつれてやってきて、メイスンのことを逮捕しろとわめく。
男の言うには、その馬券は自分の会社の使用人のロドニー・バンクスが買ったものだ、その賭け金500ドルは自分から横領した金だ、だから自分の金を取り戻すのだ、おまえは共犯だろと。
警察官に聞くと、ロドニー・バンクス自身は前日のレース直後に同じ馬の50ドルの馬券を払い戻しに来たところで逮捕して拘禁中だという。
奴の身柄と50ドル馬券は抑えたが、ほかにも馬券を買ってるに違いないんだ、同じレースの時に奴の姉が100ドル馬券売り場付近にいたのを目撃してるが払い戻しに現れない、おまえはその女のために金とりにきた共犯だろ、というのが相手の言い分。
なんでこんな仕事を依頼されたのかが見えたメイスンだけど、さようでございますかというはずもなく、推論だけの話にはとりあわずその場をやりすごす。
依頼人の女から連絡があり、受け取ったカネのなかから5000ドルを弟の保釈金として払って、残額をいまいるモーテルにもってきてくれという。
乗りかかった船なので保釈手続きまでは済ませたが、やばそうな姉弟なのでこれ以上関わり合いになるのはよそうと思っていると、非常に重大な用件なのでと依頼人からまたメイスンは呼び出される。
モーテルの部屋へ行ってみると彼女は不在で、バスルームで胸を銃で撃たれた死体を見っけちゃう。
そこへ彼女が戻ってくるんだが、彼女の両手は氷のように冷たかった、っていうのがタイトルの由来。
警察が呼ばれて現場検証すると、死体はドライアイス漬けにされてたと判明、物証も出てくる。
具合のわるいことに、メイスンの依頼人は、以前友人たちとの話のなかで、ドライアイス使えば犯行時刻をごまかせるって言ったことがあるし、近くのマスの釣り堀で働いていて持ち帰り用のドライアイスの扱いに慣れているとわかる。
自宅へ戻ってじっとしてろってメイスンの忠告をきかず、依頼人は現場でみつかったドライアイスの容器を処分しようと動いてしまって、警察に殺人容疑でつかまる。
かくして、いつものとおり、圧倒的に不利と思われる状況で事件は裁判に持ち込まれる。
この裁判では、被告の弟が証人として呼び出されるが、別の抜け目ない弁護士がついていて、「わたし自身に不利な証言をすることは拒否します」っていうおなじみの手を使うんだが、検察側が非負罪特権を認めるという声明書が出されるという異例の展開になる。
どっちにしろ、いつもどおり劇的な逆転で裁判はメイスンが勝つのがお約束なんだけど。
裁判シーンより私が気になったのは、横領した金で買った馬券の儲けは誰のものかって議論、メイスンのセリフによれば、
>横領された金の所有権は、依然として元の所有者にある。その金がなにかに投資されて、利益を生んだとすれば、その利潤は元の所有者のものだ(略)
>横領は犯罪だからね(略) 横領者には、金の所有権は生じない。金が横領した人間のものでなければ、その金から生まれた利潤も当然その人間のものじゃないさ(p.71)
っていうんだけど、現在の日本の法律がどうかは知らんが、ガードナーが著作のなかでそう言うんなら当時のカリフォルニアの判例はそれで間違いないんだろうなと思うくらい、シリーズに対する私の信頼は厚い。
どうでもいいけど、日本では横領とかの容疑者が「カネは競馬に使った」とかとんでもないこと言うのは、そう言うもんだと決まりきってるかららしいね。
弁護士がホントにアドバイスするのか、裏社会の都市伝説的な言い伝えなのかは知らんが、なにか高価なモノを買ったとか言っちゃうと、それ売って少しでも返せとか言われちゃうんで、証拠が残らなくて追究されないものとして競馬を持ち出すんだという。
まるで犯罪の動機であるかのように引き合いにだされちゃう、競馬は、何の罪もないはずなのに、イメージがわるくなって、いい迷惑だよね。

コメント
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