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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

盤上のパラダイス

2023-04-20 18:41:36 | 読んだ本

若島正 二〇二三年四月 河出文庫版
つい最近、っていうか先週か、書店で見かけてつい買ってみた文庫、おもしろそうに思えたんですぐ読んでみた。
単行本は1988年の刊行だという、なぜにいま文庫版が新しく出るんだろうか、謎。
著者の名前だけはさすがに私でも知っていた、いま現在だって「将棋世界」誌に懸賞詰将棋を出題してるくらいだし(私には解けない)。
つーことはタイトルの「盤上」ってのは、詰将棋の話だろうなと手にとったんだが、表紙めくってみて巻頭のいくつかの写真みて、タイトルの「パラダイス」ってのは「詰パラ」のことかい、って気づくのが遅かった。
「詰将棋パラダイス」という専門誌があるらしい、らしいってのは私は本物見たことがないからだけど、あるってことは有名だ。
で、本書は、
>この『詰将棋パラダイスに』には、じつにさまざまな人々が群がっている。(略)
>わたしがこれから綴るのは、そうしたパラダイスの住人たちの、愛の物語である。(p.17)
ということで、マニアな人々が登場するものだった、ちと私にはきびしい。
「詰将棋パラダイス」を立ちあげたひとは、明治45年生まれの鶴田諸兄という愛知のひとだということも、私は知らなかった。
なんでも十代前半の中学生のときに、「大道棋」に出会って夢中になって研究し、景品荒稼ぎしまくってたら怖い筋らしきお兄さんに脅かされた、なんて武勇伝の持ち主だそうで。
ぢゃあアヤシイ稼業にすすんだのかと思いきや、昭和8年には巡査になって、戦時中は大陸にわたったりもしたが、戦後も愛知県で警察署に勤務してたんだという、けっこう意外、酒はよく呑んだらしいけど。
で、警察の仕事のかたわらで専門誌の編集発行をしてたんだが、昭和29年には警察をやめて、一時期休刊にしていた「パラ」を復刊させたんだという、なんかすごいな。
詰将棋はパズルとしては芸術的なものもあるんだけど、ほとんど趣味の世界で、
>(略)詰将棋作家たちは自分たちの作っている詰将棋が一文にもならないということをかえって誇りに思っている節すらある。どんなプロの将棋の名局にも優るとも劣らない、そうした「価値」を持つ詰将棋作品は実際に存在する。しかし、そうした人間の知の限界に達するような大傑作を残したところで、一生暮らせるだけの金が入るわけではない。(略)金銭とはまったく無縁だからこそ詰将棋を趣味として楽しめる――これが詰将棋マニアたちのマゾヒスティックな本音なのである。詰将棋で生活している人など、日本中に誰もいない。その意味で、詰将棋愛好家はすべてアマなのだ。(p.74-75)
ってのが、この独特の世界をよく説明してると思う。
章立ては以下のとおり。
(※著者の書いたものを読んだのは初めてだとばっかり思ってたら、第2章「詰パラとの出会い」を『棋士という人生』というアンソロジーで読んでたことが判明しました。)
1 詰将棋とは何か
2 詰パラとの出会い
3 鶴田主幹
4 詰パラの歩み
5 詰将棋作家
6 解答者
7 検討者
8 読者
9 主幹の死
10 新編集長の誕生

コメント
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