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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ニューヨーク・シティ・マラソン

2015-07-22 17:40:08 | 読んだ本
村上龍 1989年 集英社文庫版
村上龍の短編集。『愛と幻想のファシズム』好きだったからな当時は、文庫の新刊出たらすぐ買ったんだろう。
で、『ラッフルズホテル』とか『トパーズ』はハードカバーで持ってるけど、どうもあんまりおもしろいと思わなかったらしく、そのあとはリアルタイムで追っかけんのヤメたんだよね、村上龍に関しては、たぶん。
読み返してみた、これも、そんなにいいとまでの感想は持てなかった、当時もいまも、私にはあまり合わないのかなあ。
今回これを持ち出したのは、気もちワルイつながりだ、前回から。なんてえ扱いだ、と自分でも思うけど。
ヌルヌル、ベトベト、血とか汗とかヘドとか何だかわかんない液体とか、そういうのに塗れる描写がいっぱいあるからねえ、作者には。
「ニューヨーク・シティ・マラソン」
ニューヨークの黒人売春婦ナンシーは、正規の(?)料金45ドルをもらう代わりに、マラソンで勝ったら二千ドルやるという客のもちかけた賭けにのる。
どうでもいいけど、ナンシーと同居してる語り手の「僕」の職業も、男娼ときてる。口の中に残る不快な味を消すにはタバスコを二、三滴飲むのが一番速い、とかって描写はさすがだ。
「リオ・デ・ジャネイロ・ゲシュタルト・バイブレイション」
事故で身体半分に大やけどを負ったレーサーのニキが主人公。
リオデジャネイロには静養に来たんだけど、知りあったレダと、カーニバルの熱狂に飲み込まれていく。
「蝶乱舞的夜総会(クレイジー・バタフライ・ダンシング・ナイトクラブ)」
今回、これが、いちばん気もちワルイ。
香港のナイトクラブでピアノを弾いている「僕」と、一緒に住んでいるダンサー志望だがまるでぶきっちょなマーヌという28歳の女。
ふたりは、異常に羽虫が多い夜に、虫の発生してる場所を見つけてガソリンで焼いてやろうと、近所を探しに行く。
そこで得たものから、マーヌはものすごいダンスを踊れるように変身し、国際的にも認められるようになる。
あー、気もちワルイ部分は、引用するのもヤだから、書かない。
「ハカタ・ムーン・ドッグ・ナイト」
博多の山笠の時期に出会った、バンドのプロモーション・営業が仕事で出張できてる男と、地元のクラブではたらくユキの話。
「フロリダ・ハリー・ホップマン・テニス・キャンプ」
ボストンで投資コンサルタントをして巨額の富を築いた「わたし」だが、ある日突然妻から離婚を言い渡された。
フロリダの別荘ですることもなく途方にくれていたときに、近くのスクールに来ていた、雨の日の勝手にプールで泳ぎ始めたテニス選手と出会う。
これは、べつに気持ちわるいところのない話。料理って新しい趣味も見つけられて、仕事も再起して、わりとさわやかな話だ。
「メルボルンの北京ダック」
オーストラリアのメンツィス・アト・リアルトというホテルでドアマンとして勤めている「私」は、全豪オープンに出場している長身のスウェーデン人の若い選手が気になった。
12年前に亡くした息子に似ているような気がしたからだが、その話をすると足を不自由にしてから外出しなくなった妻も、その選手の試合を見てみたいと言い出した。
うん、これもさわやかな話だ。
「コート・ダ・ジュールの雨」
シティの金融界で恐れられるほどの成功を成し遂げた「私」がリヴィエラに静養に来ているときの話。
そこで見かけたドイツ人家族四人だが、そのなかで少年だけが父母と姉の会話にまったく加わろうとせず、様子がおかしい。
「私」がコンコルドのコクピットから、楕円に拡がる地球の光景を見て、通貨や穀物相場のことなんかアタマのなかから吹っ飛んぢゃうとこが印象的。
べつに気持ちわるいとこないな。
「パリのアメリカ人」
パリで働くけどアメリカ英語のできる「オレ」の仕事は、世界中からCF撮影とかで来る客たちの出迎えやら夜の案内。
この夜も、もっと過激なショーをやってるクラブはないのかなんて言う、アメリカ人をあちこち案内してまわる。
「ローマの詐欺師」
ローマ市内で、一人旅の観光客を相手に、自分も困っているツーリストの様を演じて、詐欺をはたらく「わたし」の話。
あるとき、東洋人の女性に(女性はこのテの詐欺には引っ掛からないのに)まちがって声をかけてしまう。
ところが、この女性の語るバイオコンピュータの話のほうが途方もなかった。

…よく見りゃ、全部が全部、気もちワルイ話の集まりってわけでもないな。
まあ、それだけ「蝶乱舞的夜総会」の印象が強烈なんで。
なんせ、虫の残してったものを、脳にダイレクトに注入するんだぜ。あ、言っちゃった。
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口のなかの小鳥たち

2015-07-21 18:42:17 | 読んだ本
サマンタ・シュウェブリン/松本健二訳 2014年 東宣出版
きのうから何か妖怪つながりはないかと思ったけど見当たらないので、「日常空間に見え隠れする幻想と現実」(←カバー袖の紹介による)が描かれた短編集にしてみよう、“ちょっと気味悪い”つながりってとこだ。
「はじめて出逢う世界のおはなし」シリーズの、アルゼンチン編。
同じシリーズのイタリア編である『逃げてゆく水平線』を探すときに、だいぶ苦労したんで、そのとき、その横に並んでた本書をいっしょに買ってみた。
どうせ後で欲しくなるんだったら、その場でゲットしちゃったほうがよい。
片一方もまだ全然読んでない段階では、勇気のある決断だったけど、まあ本に関してはそんなカン外れないだろうし、ムダにはならない。
で、たしかもう一冊あったと思うんだけど、なんつってもアルゼンチンってのが気になったんで、本書を選んだ。
だから買ったのは3月ころかな、読んだのはもうちょっとあとになったと思うけど。
さてさて、ところが読んでみたら、ずいぶんイタリア編とはおもむきが違った。
児童文学とか童話って類ぢゃないよ、これ。
なんかモヤっとしてるし、後味がわるい。
読まなきゃよかった、とすら思わされるようなものもいくつか。
(そこがいいんだけど。オチがあってとかハッピーエンドでとかってだけぢゃ物語はつまらない。)
たとえば表題作「口の中の小鳥たち」。
別居してた妻シルビアが娘サラのことで話があるといって、夫はそっちの家まで引っ張って連れてかれる。
ひさしぶりに再会したサラは、前より顔色がよくて健康そうに見えた。
「いいこと、これから起きることを落ち着いて受け止めなきゃだめよ(略)あなたにその目で見てもらいたいの」なんて妻は言う。
で、やおら、雀を一羽、鳥かごに入れて、娘に与えるんだけど。
>サラは私たちに背を向けたまま、つま先立ちになってかごの扉を開けると、雀をつかみ出した。娘がなにをしたかは見えなかった。(略)
>サラが私たちのほうへ振り返ったとき、先ほどの雀はもういなかった。サラの口、鼻、顎、両手はどこも血まみれになっていた。(略)
あまりの光景に、父親はその場を逃げ出して、トイレで嘔吐しちゃう。
妻は「あなたのところへ連れて行ってちょうだいね(略)もう私には無理」と宣告する。
これだけでも、非常に、きもちわるい、救いがない。
(しかし、なんだね、こういうのホントに諸星大二郎の画で見てみたいよねって気がしてきた、いま突然。)
それで終わりならいいんだけど。(パンチのあるホラー、ってだけで終わればね。)こんどは父と娘ふたりでの生活が始まるんだ、これが。
そんなおはなし。
その他、コンテンツは以下のとおり。「穴掘り男」なんてえのもいいねえ、意味わかんないとこが不気味さとして引っ掛かる。
「イルマン」
「蝶」
「保存期間」
「穴掘り男」
「サンタがうちで寝ている」
「口のなかの小鳥たち」
「最後の一周」
「人魚男」
「疫病のごとく」
「ものごとの尺度」
「弟のバルテル」
「地の底」
「アスファルトに頭を叩きつけろ」
「スピードを失って」
「草原地帯」
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諸星大二郎『妖怪ハンター』異界への旅

2015-07-20 17:26:14 | 諸星大二郎
太陽の地図帖_031 2015年7月 平凡社
このシリーズで、前に「諸星大二郎『暗黒神話』と古代史の旅」ってのを読んだことがあるんだが。
今回は、妖怪ハンターだという。買うっきゃない。
ただし出不精な私、いくら好きな作品だとはいえ、そんなテーマで旅なんかするわけないけど。
巻頭言は、京極夏彦である。書店で開いて、それ見て、迷わず買った。
うれしいことに、特別描き下ろしマンガで、シリーズ最新作として、稗田礼二郎が登場する『雪の祭』っていう16ページの作品が載ってる。満足!
で、あとは「キーワードで旅する『妖怪ハンター』」っていうあたりがメインとなっている。
・『妖怪ハンター』論序説
・登場人物の紹介
・稗田物怪図鑑
・『妖怪ハンター』の背景を推察する
Special Edition 「生命の木」と長崎かくれキリシタンの里
Keyword1 装飾古墳
Keyword2 鳥居
Keyword3 洞窟
Keyword4 環状列石
などなどといったところ。
どうでもいいけど、「稗田物怪図鑑」は、ぜひこれだけで一冊つくってほしい、『幻獣辞典』みたいに。
(というとこが強引に前回からのつながりってとこか。)
やっぱいいねえ、妖怪ハンター、稗田礼二郎のフィールド・ノートは。
なんかマッドメンのほうでも特集本みたいのが出てるらしいけど、そっちはどうしようかなあ、それほど興味が持てないんだよねえ。
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幻獣辞典

2015-07-16 20:31:33 | 読んだ本
ホルヘ・ルイス・ボルヘス/柳瀬尚紀訳 2015年5月 河出文庫版
前回、「餓蟇」なんてモノノケが出てきた小説だったんで、それからのつながり、というほどのことでもないが。
ちなみに、餓蟇(がこ)ってのは、無数の手脚を持つ、胴の長い蝦蟇の姿をしたもののけで、これに取り憑かれた人間は、相手の人間の内臓を食ってしまう。うーむ、グロテスクだ。
さて、『幻獣辞典』の存在については、私にとっては『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読んだときからだから、ずいぶんと前から知ってることになる。
何度か買って読もうかと思ったんだけど(なかなか素敵な装丁の本だったと記憶している)、そのたびに何故か見送ってしまった。
学校通ってたころに、図書館でパラパラと見たことはあるんだけど、それで終わりにしてしまった。
で、ことし5月に入ってからだったかな、書店で文庫が出てんのを見かけて、これはさすがにと思って、買った。1188円って値段、わりと高めだよね。
内容はあらためて言うまでもなく、文学とかに登場した架空の動物たちを集めたもの、たとえば一角獣とかね。
その数120、アタマっから読んでったら、けっこう読みごたえはあった。
知ってるもの(名前を聞いたことがあるという意味だ、あたりまえだけど、見たわけぢゃない)も、まったく知らなかったものもあって、いろいろ。
どこまでが世界中の文献から蒐集してきたもので、どこからが著者が素知らぬ顔でさも昔からあったかのように創作しちゃったのかは、わかんないけど。
ヨーロッパの神話に出てくるやつなんかよりも、中国のものなんかのほうがいいね、私の趣味としては。
読むたび感想変わりそうな気はするけど、今回のいちばんのフェイバリットを選ぶとしたら、そーだなー、「墨猴」かな。短いので全文引いちゃう。
>北方では珍しくないこの動物は、体長が四、五インチある。目は深紅、皮は漆黒で、絹のようにすべすべして、枕のように柔らかい。奇妙な本能がその特徴である――墨を好むのだ。人が座って書き物をしようとすると、この猿はそのそばに胡坐をかき、手を重ね合わせてうずくまり、書き終るのを待つ。それから墨汁の残りを舐めつくすと、満足して静かに尻をついて座る。 ――王大海『海島逸志』(一七九一)
この、役立たなさが、なんともいい。
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美空曼陀羅

2015-07-14 19:07:32 | 読んだ本
夢枕獏 昭和62年 祥伝社ノン・ノベル
サイコダイバー・シリーズの第七弾。
サブタイトルが「魔獣狩り外伝」ってなってて、スピンオフ作品と思わせといて、やがて他の登場人物たちと合流していく序章に過ぎないんだと。いつものパターン。
シリーズ登場人物たちも一堂に会する新たな本流みたいなもの、それ、まだ読んでないけど。(それに読み進もうかどうかというのが、このシリーズを読み返してる理由ではある。)なんか想像するだに「大甲子園」みたいになってるんぢゃないかという気もするなあw
とは言うものの、外伝のなかでは、私はこれがいちばん好きだと思う。
それはストーリーどうこうというよりも、登場人物のなかで、今回の主人公である美空(びくう)がいちばん魅力的だと感じているからではないかと。
高野山で修行したんだけど、才能がありすぎて、禁じられてる秘法にまで手を出してしまったがため、追放されてお山を降りてはいるんだが、ヤミで事件を処理する稼業を担っている男。
男とは思えぬほど白い肌をして、並はずれた美貌を有する、っていうその外見に興味があるわけぢゃないんだ、私は。
針で突かれても指を折られても、痛みをまったく感じない、無痛症っていう先天性の体質っていう、その設定が気に入っている。
拳法のようなものを使って、ケンカも滅法強いんだけど、何があっても平然としてるのは、痛みを感じないので、(それってイコール?)恐怖を想像しないとこからきてる、ただのクールを通り越した超人。
んで、今回の高野山からの密命は、「空海が密教の経典を唐から日本に持ち込んだ時に、一緒に持って来たもの、人を殺すための四匹の獣、というか“もののけ”」である「四殺」の抹殺。
四殺とは、「飛狗」「餓蟇」「外法炉」「金剛拳」だっていうんだけど、詳しいことは美空も知らない。
日本国内の四つの寺に分けて封印されてたんだけど、誰かがそれを開けちゃったんで、始末しろというのがミッション。
で、当然のことながら、この一冊で話が完結しないで、続く、続きはほかのひとも巻き込んだ新たな展開に乞うご期待、って毎度のパターン。困ったもんだ。
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