山岡です。明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
みなさんはApple製品はお使いですか。Apple社はiPhone,iPad,Macbookなどの魅力的な製品を提供し、最近もiPhone5やiPadminiをヒットさせ、今年はiPhone5の廉価版の発売が噂されるなど、世界的に注目される勢いのある企業です。また、製品以外にもユニークな特徴をたくさん持っていると企業です。そんなApple社のユニークさのうち一つを感じ、考えさせられる体験をしましたのでご紹介したいと思います。の
先日、契約したばかりのiPhone5に初期不良が見つかりました。契約はキャリアを通じ行ったため、私はキャリアに電話し、機種交換の希望を伝えました。しかし、iPhoneの修理や交換はアップルが直接行う決まりになっているためアップルストアに予約をとって行って欲しいとのことを伝えられました。
個人使用ならばともかく、今回は法人契約です。当然キャリアが代替機の送付や引き取り修理などで対応してくれるだろうと思っていた私は、驚くとともに腹が立ちました。忙しい仕事の合間を縫ってわざわざ行かないといけないのは非常に面倒です。まるで調子が悪くなったら見せに来い、といわれているようで、顧客視点に立っていないのではないかと思いました。
そうはいっても仕方が無いので渋谷のアップルストアに予約を取り、初期不良のiphone5を持って行くことにしました。
アップルストアに入ると、一階はショップになつていました。修理コーナーは二階です。もっとも、修理のみならず製品に関する技術的な質問なども受け付ける総合サポートセンターのような位置づけで、Genius Barという名前がついています。天才の酒場か、また随分と偉そうな名前をつけたものだな、と思いながら二階に上がると、そこには意外な光景が広がっていました。
私の経験上、修理センターは長い受付カウンターがあって、相談員と対面でやり取りするような感じなのだろうな、と思っていましたか、目に入ったのはカウンターの中に入るのではなく、立ち飲みの居酒屋で一緒に飲んでいるかのような位置関係でサポート担当者とやり取りをしている多くの顧客の姿でした。さすがにMacのパソコンのような大物に関しては店内最奥に長いカウンターがあり、そこで対面式サポートを行っているようでしたが、iPhoneやiPadに関しては顧客と並ぶような形でサポートをしていました。パッと見ではサポートを受けているのではなくてまるで側面販売お受けているように見えました。
多くのサポート担当者がおり、また渋谷という場所柄なのでしょうか、外国人の顧客に備えて外国人のサポート担当者も何人かいました。予約したこともありさほど待たされることもなく私の番が回ってきました。私は初期不良の症状を説明したのですが、なんと初期不良の症状をその場で再現することができませんでした。機械ものは不具合が出なくていいときに出て、不具合が出てほしいときほど正常に稼働するものです。私はその時点で、「初期不良は認められませんので一切の修理や交換はできません」という担当者の発言を覚悟しました。
サポート担当者はi端末のソフトウェアの状態を一通りテストツールでテストし、ソフトウェアの状態が正常であることを確認しました。ああ、端末には問題がないということで帰らされるな、無駄足だった、、、と思いかけた時に、担当者から出たのは思いがけない一言でした。「ソフトウェアに異常は認められませんでした。したがってお客様のご申告の症状はハードウェアの問題によるものと思われます。初期不良は私共にとっても一番残念な事態です。ご迷惑をおかけし誠に申し訳ありません。端末は新品と交換させていただきます。」え、初期不良はあなたの目の前で再現しませんでしたけど、私の言うことを信じて交換してくれるんですか?端末交換なんて大事なことを上司に相談せずにあなたが決めていいんですか?そんなことを考えているうちに、さっさと新品を出してきて交換をしてくれました。それこそ拍子抜けするくらい早いスピードで。
私は、アップルストアに来る前に感じていた不愉快さはもはや忘れ、非常に満足したいい気分になっていました。クレーム客は適切な対応をすればロイヤルカスタマーになる、という話はよく聞きますが、身をもって理解できた気がします。期待レベルを大きく超えるサポート対応をしてもらうことができました。
担当者は私の主張を全面的に認め、丁寧なお詫びと適切な交換対応を速やかにしてくれました。おそらくオペレーションマニュアルがしっかりしているということはあるのでしょうが、高いレベルで従業員教育が行われ、かつ、新品への交換対応でさえも現場担当者が決定できる大きな権限の委譲がなされているな、と思いました。
さらに、うまい手だと思ったのが、Genius Barの部屋の壁面には多くの商品がつるされていたことです。iPhoneやiPadにはケース・カバーやイヤホン・ヘッドホン・スピーカーなど多くの関連商品が発売されていますが、そうした関連商品が所せましと並んでいました。修理対応では内容確認や調査などで待たされる時間が結構あります。そうした待ち時間に商品をチェックしている方が多くいました。こうした関連商品はすぐにその場で購入できるようにもなっていました。
普通はアフターサポートは手間とコストばかりかかるものです。例えば我が国会計制度においては「製品保証引当金」という、将来のアフターサポートに備えるためのコストを引き当てることが認められてきました。会計的にもアフターサポートにかかるコストが無視できないほど大きい、ということなのです。
このようなアフターサポートは、会社の業績を考えるならばやらないほうがよいかもしれません。アフターサポートを極力やらないで済むように、製品自体の完成度を高め、不良発生率を極限まで低減する、というアプローチもあると思います。日本の製造業はそのような方向に進んできたのではないでしょうか。一方でApple社はまったく異なる発想に立ち、アフターサポートの場をコストではなく顧客との関係性を築く機会としてとらえ、関連商品のついで買いを誘うなど収益獲得の場として位置づけたのではないでしょうか。そのために、顧客に故障品を持って足を運ばせるというリスクも取ったのでしょう。顧客によっては故障の修理で足を運ばされることに不満を持ち、Apple社から離れる方もいるでしょう。しかし、故障修理の体験を通じてますますApple社のファンになる方も多いでしょう。そのような顧客はリピート購買を行う可能性が高く、将来にわたってApple社に収益をもたらしてくれるでしょう。そうした有料顧客を囲い込むために、アフターサポートを利用しようとしたのではないでしょうか。
ここまでユニークな取り組みはなかなか真似することはできないでしょう。Apple社は非常に差別化した取組を行っていると思います。しかし、まったく同じことはできなくても、アフターサポートも収益機会に変えようという発想に関しては非常に参考になるのではないでしょうか。診断士として考えさせられた体験でした。
山岡