ハリーの「聴いて食べて呑んで」

日々増殖を続ける音源や、訪問した店、訪れた近代建築などの備忘録

日本橋 お多幸本店 @東京・日本橋

2015年05月30日 | 東京都(老舗)

現在おでんは全国的に関西風の澄んだつゆのものが席巻している。大手コンビニがこぞって採用しているものも関西風。自分の地元である東海地方では他所と違う「味噌おでん」がまだ頑張っているが、あまり自宅では作ることがないし(自宅で作る場合はどちらかというと関西風)、古い呑み屋以外では見る事も少なくなってきてしまった。自分の子供達も、もう味噌おでんの味は知らないかもしれない。一方、東京のおでんは元々つゆは甘めで、醤油の色濃いもの。以前に東大前にある明治創業の「呑喜」へ伺った事があったが、都内をはじめ、いくつもある「お多幸(おたこう)」には初めて。

この「お多幸」の暖簾の歴史はいまひとつ分かりにくく、その本筋がどこになるのかは判然としない。「銀座八丁目店」(野田屋グループ)はHPで「大正12年(1923)に銀座に初めて暖簾をだして」と標榜しているが、今回訪問した「日本橋 お多幸本店」はぐるなびに、創業を大正13年(1924)とし、「昭和23年(1948)に銀座でスタート」との記述がある。役者の故・殿山泰司氏が自著三文役者あなあきい伝」などで、銀座の服部時計店(現・和光)の裏にあったという創業店の長男だったと記述しているし、なぎら健壱氏の「東京酒場漂流記」には銀座の古株の話として、3丁目にあった「お多幸」(閉店)が戦前からで、6丁目の「お多幸」(現・日本橋)が戦後からと書かれている。また、森まゆみ氏の「「懐かしの昭和」を食べ歩く」には、新橋お多幸の話として、創業店を4丁目(和光の裏)とし、5丁目(=6丁目?)が「第二お多幸」で日本橋に移転し、新橋お多幸は「第三お多幸」として出店との記述がある。「〇丁目」の記述が錯綜しているし、現在8丁目にある「お多幸」との間柄も不明。きっと創業店から暖簾分けしたそれぞれが、創業年は元の店のものを使っているのだろう(だが、なぜ1年違う?・笑)。新橋の「お多幸」(昭和7年創業)は創業店の暖簾分けで間違いなさそう。いつも記事に老舗の創業年を書き加えている自分が言うのもなんだが、「創業」とか「発祥」とか「元祖」とかの主張は、しっかりした記録が残っていない店も多いだろうし、暖簾分けでゴタゴタするのは世の常なので、それぞれの店の誇りとして捉えてあげるのが一番だろうと思う。どちらも「太田こう」という女性の名前をもじって付けられた店名だという事には異説はなさそう。ただし、この「オオタコウ」さんが殿山泰司氏の義母なのかどうかはよく分からなかった(そういう記述もあるにはあったが…)。

それはさておき、店に行くと満員の盛況で、並びも出来ている。並んでまで…とは思ったが、わりと早く並びが動いたので少し待ってみた。10分程経って呼ばれ、カウンターに腰を下ろす。カウンターの中には大きな鍋にたくさんのおでん種が浮かんでおり、職人が箸でひっくり返したり、つゆを注ぎ足したりとめんどうを見ている。日本酒(菊正宗)を頼み、大根とちくわぶをお願いした。寡黙な職人は注文の入ったタネを順に赤いプラスチックの平皿に載せていく。店の様子を眺めつつ、自分の分はまだかな?なんて思って待っていたが、自分が少し目を離した隙に、とっくに自分の前には皿が置かれていたのだった(寡黙過ぎるよ…)。皿に盛られた大根とちくわぶはしっかり濃い色に染まっていて、味も濃いめで、旨い。酒にも合うなァ。あっという間に平らげて、はんぺんとつみいれ(ママ)を追加。全てを平らげたあとに、こちらの名物でもある「とうめし」で締めた(ちなみに酒呑みにうれしい「小」もある)。今やこの店の代名詞ともなっているとうめしだが、意外にもその歴史は古くないそうだ。茶飯の上に豆腐が1丁、どんっとのっているだけ。豆腐は人形町の老舗「双葉」の特注だそうだが、つるっとして口当たり良く、甘辛いつゆがしっかり滲みていて文句なしに旨い。淡白で食べ飽きるんじゃないかと思っていたが、濃いつゆでちょうど塩梅が良く、あっという間に食べきってしまった。やっぱりいいね、東京おでん。(勘定は¥1,800程)

 ↓ お店のマッチの表・裏

 

  ↓ 昔、以前の建物が「建築探偵術入門」(文春ヴィジュアル文庫)という本の表紙にもなった「日比谷ダイビル(旧・大阪ビル東京分館一号館)」(鬼面、獣面のみ昭和2年・1927のもの)。

 

 ↓ こんな奇面が新しいビル壁面のあちらこちらに移植されている。テラコッタ製で、全部で125個もあったとか。なんという酔狂。前の建物を見てみたかったナ…。

 

 

日本橋 お多幸本店

東京都中央区日本橋2-2-3

( おたこう おたこうほんてん おでん 東京おでん 関東風おでん 銀座お多幸 元祖お多幸 日本橋お多幸 太田コウ 呑喜 のんき )

コメント
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