歌舞伎「松竹大歌舞伎」(10月5日 不二羽島文化センター スカイホール)
嫁と一緒に歌舞伎観劇。仕事の関係上、普段はあまり一緒に行けないのだが、嫁も自分ほどではないにせよ、あの非現実的な空間がとても気に入っているようで気楽に楽しんでいる。昼食を済ませ会場へ。会場周辺にいくつかある駐車場は満車状態。皆途方に暮れていて、係員にどこに停めたらいいか訊くと「さぁ、分かりません。」との信じられない返事。路上駐車もやむなしかと思っていたところに、運良く微かなスペースを見つけて強引に駐車(→結局終演後外に出たら路駐の列)。公共交通機関ですっと行けるような場所じゃないんだから何とかしてくれないと…。
開演前のロビーは前回の岐阜よりははるかに活気が見られる。席もほぼ満席の盛況だった。今回は初めての4代目市川猿之助の公演とあってとても楽しみにしていた。しかもお家芸である「宙乗りならびに十三役早替り相勤め申し候」とあって、いやがうえにも期待が高まる。いつもは話の筋をある程度予習して臨むのだが、今回は良いテキストが見つからず、ぶっつけ本番。地方巡業という制約の中で、どんな「外連(けれん)」を見せてくれるのか。
まずは弥次さん、喜多さんが登場して狂言回し。ざっくばらんな感じで賑やかしてくれる。「やらずのお萩」を演じた春猿を見るのは初めてだったが、さすがに、うちの嫁もウットリするほど綺麗。演技の終わりに口上があり、昭和5年生まれ(御年86才!)という寿猿と楽しく絡んで和ませた。今回の演目は副題に「京三條大橋より江戸日本橋まで」とあったので、全段をどうやって演るのかなと思っていたら、やはり途中の段は端折って一気に岡崎まで行き、その後は浄瑠璃で駆け足で見せるという趣向だった。その為に口上である程度の説明が入るという寸法。
短い幕間があって、次はお待ちかね猿之助の登場。老婆「おさん」では客席から「うわぁ…」と声が出るくらい不気味な喋りと老婆らしい動きで引き付けておいて、いざ化け猫の正体を現した時には思い切り跳ね回る、その対比が面白い。血は出るわ、音も出るわ、着ぐるみもあるわ、飛び回るわの大仕掛け。濃い化粧で実際の表情は分からないのだが、猿之助はいかにもこういう「外連」が楽しそう。名前の出ていない相手役も大奮闘。そして最後は宙乗り。巡業公演とあってステージ上だけの宙乗りだったが、色々な演出があるものだ。話の筋や、難しいことは考えず、文句無しに楽しい。
最後の段はまた弥次さん、喜多さんの口上で説明があり、巳之助が浄瑠璃に合わせて十三役の早変わりを見せて、江戸は日本橋までの道程を見せる。女房から、芸者から、弁天小僧、雷、などと様々な手法で、あっという間の変身に次ぐ、変身。舞台裏はさぞかし大変なことになってんだろうな、と思わせる早替りの連続。会場からもため息が漏れる。2階席から見ているから俯瞰するような感じになってしまうけれど、これ1階の正面から見ていたらもっといい感じだろう。これも文句無しに楽しいなァ。三津五郎亡き後、巳之助に対する期待も、責任も大きいだろうが、口跡も分かり易く、安心して観ていられた。これから歳を重ねるにしたがって、更に色んなものを身に着けていくんだろう。
こういう外連味たっぷりの歌舞伎もやはり楽しいものだ。
四世鶴屋南北 作
奈河彰輔 脚本・演出
石川耕士 補綴・演出
市川猿翁 演出
三代猿之助四十八撰の内
獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)
京三條大橋より江戸日本橋まで
浄瑠璃 お半長吉「写書東驛路」(うつしがきあずまのうまやじ)
市川猿之助・坂東巳之助 宙乗りならびに十三役早替り相勤め申し候
おさん実は猫の怪 市川 猿之助
由留木調之助
丹波与八郎 坂東 巳之助
丁稚長吉
信濃屋娘お半
芸者雪野
長吉許嫁お関
弁天小僧菊之助
土手の道哲
長右衛門女房お絹
鳶頭三吉
雷
船頭浪七
江戸兵衛
女房お六重の井姫 市川 笑也
半次郎女房お袖 市川 笑三郎
丹波与惚兵衛/赤星十三郎 市川 寿猿
やらずのお萩 市川 春猿
赤堀水右衛門 市川 猿弥
石井半次郎 市川 門之助