歌舞伎「錦秋名古屋顔見世」(10月13日 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール・夜の部)
恒例の秋の名古屋での歌舞伎。御園座の完成(2018年予定)はまだまだなので、今年もここ名古屋市民会館(ネーミングライツで上記の名前に)。本当は昼の部も見たかったがなかなか休みを取ることは出来ず、必死に仕事をやりくりして金山へ。自分は片岡仁左衛門を観るのが初めてなので、本当に楽しみにしていた。会場に入ると空席は目立つものの、まあまあの入り。連日昼夜公演なので平日はこんなもんだろう。2階席真ん中辺りだったので、芝居を見るには悪くない席。
まずは「寺子屋」。歌舞伎の演目の中でも特に有名な「菅原伝授手習鑑」の段のひとつなので、話のあらすじも知っているし、少し前にテレビで放映された海老蔵、松緑で演っていたのを見ている。男が見てもカッコイイ仁左衛門が松王丸を演じ、武部源蔵役は染五郎。重い話だし、仁左衛門メインなのだが最後ではなく、初っ端の上演。衣装も化粧も派手なので、あの線の細さというか色気は見づらいが、やっぱりこの人は絵になるなァ(人間国宝になっていたとは知らなかった)。「せまじきものは宮仕え」の有名な台詞のあるこの話、封建時代の理不尽さ(恩義を感じている人間と、仕えている主君の為に自分の子供の首を切らせる)がどうしようもなく厳しいが、話の筋を知っていても迫真の演技を目の前にすると泣けてきてしまった。同じ演目でも屋号が違うと細かい台詞や所作の解釈が違うのがよく分かって、それぞれの役者の(あるいは家の)こだわりの奥深さが興味深い(ちなみに仁左衛門の解釈はこちら)。
「英執着獅子」は時蔵による舞踊。いわゆる「獅子物」。前シテ(役柄)ではお姫様。衣装の早替りでは客からため息が。後シテでは獅子の精が乗り移り、豪快な舞い(有名な毛振り)となる。いったん下がって再登場し、毛振り。歌舞伎では当たり前のことなのかもしれないが、60歳を超えた時蔵が石橋の上で毛振りするのはさぞかし大変だろうと思う。客からやんやの拍手でと思いきや、この日の客は全体的に拍手が薄い。ココ一番拍手するとこでしょ!とばかりに手を叩くが、全体的に何となく冷めたような雰囲気が…(自分の周りだけかな?)。これ、演者にも伝わるよなァ。台詞は無いので、あの特徴的な口跡を聞くことはなかったが、素晴らしい舞踊だった。
最後は落語を基にした世話物「品川心中」。寺子屋と打って変わって楽しい演目なのだが、ちょっと無理やり歌舞伎に入れ込んだ感じがあるのと、この日の客の全体的な雰囲気なのか、くすぐってもなかなか盛り上がらない。それに染五郎が花道に出てきても拍手が起きなかったのにはビックリ…。こういうひょうきんな役を演る染五郎を見ると、故・勘三郎を思い出す。口跡も途中聞き間違ったと思うほどよく似ていた(役柄なのかもしれないが)。誰が演じてもこうなるのか興味が涌く。この日の染五郎は風邪をひいたとみえ、声がかすれて聞き辛く、客席まで届かないのも追い打ちをかけ、終始スベり気味になって今ひとつ盛り上がりに欠けた(ように感じた)のがやや残念だったかな。昼の部も見に行きたいなァ。
一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
寺子屋
松王丸 仁左衛門
武部源蔵 染五郎
戸浪 梅枝
涎くり与太郎 廣太郎
百姓吾作 松之助
園生の前 新悟
春藤玄蕃 亀蔵
千代 孝太郎
二、英執着獅子(はなぶさしゅうちゃくじし)
姫後に獅子の精 時蔵
矢田弥八 作
三、品川心中(しながわしんじゅう)
幇間梅の家一八 染五郎
一八女房おたね 梅枝
城木屋楼若い衆廣吉 廣太郎
城木屋楼女郎おそめ 新悟
大工の棟梁六三 亀鶴