陽春花形歌舞伎 「通し狂言・南総里見八犬伝」(4月5日・御園座)
半日休みをもらって御園座の歌舞伎4月公演を観覧に。この日はバスで伏見に向かっていたのだが、栄のバス停で停まった際に救急患者が出て、バスの運転手が救急車を呼ぶことに。一連の始末にかかりきりで乗客は途中で降りることも出来ず、仕事の約束や乗り継ぎ時間が決まっていた人は冷や汗をかいただろう。結局30分余り停車していたので自分も劇場に間に合うかヒヤヒヤだった。急いで弁当と酒を買って場内へ。
まだ4月公演は始まったばかりだが客の入りは正直良くない。平日昼間の公演とはいえ2階の自分の席の周りもガラガラだった。この日の演目は「南総里見八犬伝」。この演目を観るのは初めて。ストーリー的には難しくない勧善懲悪、敵討ち物なのであまり予習をしてこなかったが大丈夫かな(歌舞伎を観劇する際は内容を把握してストーリーを知った上で観るのがお勧めです)。幕が開いて役者が登場すると、後ろから「成駒屋!」の掛け声。大向うさん(※「〇✕屋!」等の声を掛ける人、大抵の場合そういう特定のグループに属している)がすぐ後ろに居るようだ。
命を落とした姫が所持した数珠のうち、文字が浮かぶ不思議な水晶の玉8つを持つ勇士が集まって御家の再興を計るストーリー。スモークやSE(音響効果)などの外連(けれん)も沢山あって、勇士が集まっていく過程や、みんなが並んで一人一人台詞と共に見得を切るところは完全に戦隊ヒーローもの(笑)。敵は化け猫だ。分かり易くて楽しい。芝翫と息子達(橋之助、福之助)も揃い踏み。出演陣が豪華なので見せ場も多い。こういう演目はまだあまり歌舞伎を観たことがない人にもとっつきやすいんじゃないかな。
舞台転換が多いので幕が閉まった後の大道具さん達は大変だろうが、今日はえらく裏の声が聞こえた。まだ始まったばかりなので手探りの部分もあるのかも。御刀検めのシーンとした場面ではどこかの席のバーサンが大きな声で会話していてずっこける(笑)。ま、こういうのは年配の客が多い昼間の公演ではよくあることだ(というか、こういう”読めない”人達は必ず一定数存在するようだ)。こういうのは役者側からは「あの人」と、とてもよく分かるのだそう。
幕間は席に座ったまま買ってきた弁当を広げる。沢山観に行ける人なら幕間30分の弁当なんてコンビニのおにぎりでも何でもいいんだろうけれど、こちらは歌舞伎観劇の日は一応”ハレの日”なので、なるべく気分が上がるものを探して買うようにしている。この日は栄の料亭「蔦茂(つたも)」の「料亭弁当」。料亭とはいってもこの弁当はプラスチック容器に入ったキオスクとかに売っているもの。バスの件もあって慌てていたので選ぶ時間もなかったが、ちょこちょこと煮物、焼物をつまみにして酒(守山区の東春酒造の「龍瑞・純米」)で口を湿らせる。そういえば名古屋市の登録建造物資産にも指定されていた「料亭蔦茂」の風情ある店舗は昨年秋にあっけなく取り壊されてしまった。繁華街のど真ん中にあるあの建物こそ100年の歴史を象徴していたと思うが、そんな老舗名門でもあの場所で古い建物を維持するのは困難だったということか…。
勇士が集まってずらりと並び、悪役の首領扇谷定正(彦三郎)と並んで見得を切る場面。悪役も一緒に並んで客席の方を向いて”かっこつける”のが歌舞伎ならでは。伏姫と犬坂毛野の二役の梅枝。毛野ではモモレンジャー的な(←例えが古い)立ち位置だと捉えたが、容姿も、張りのある口跡も抜けていてカッコ良かった。口跡といえば贔屓にしている彦三郎。悪役とはいえ、いや悪役だから彼が台詞を口にするとその迫力で圧倒される。勇士達をも凌駕する存在感はさすが。浜路・雛衣を演じた新悟は今までに何度か観ているがあまり印象に残っていなかった。今回は幸薄そうな役がはまっていて良かった。橋之助、福之助兄弟は端正過ぎてまだ色が出ていないが、これから色んな役をやることによって育っていくのだろう。彼らが主役を張るようになった頃に「そういえば彼がまだ若い時分に観たよ」と言えるのが楽しみだ。
通し狂言 南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)
- 曲亭馬琴 作
- 渥美清太郎 脚色
- 今井豊茂 補綴
- 戸部和久 補綴
- 犬山道節/網干左母二郎 芝翫
- 犬飼現八 松緑
- 犬塚信乃/赤岩一角 愛之助
- 犬村大角 亀蔵
- 伏姫/犬坂毛野 梅枝
- 浜路/雛衣 新悟
- 犬川荘助 橋之助
- 犬田小文吾/安西景連の亡霊 福之助
- 犬江親兵衛 玉太郎
- 伏屋 梅花
- 蟇六/馬加大記 橘太郎
- 扇谷定正 彦三郎
- 丶大法師 松江
- 滸我成氏 友右衛門