松竹大歌舞伎 「菊畑」「土蜘」(7月30日・春日井市民会館)
松竹大歌舞伎の巡業公演が4年ぶりに開催された。もうそんなになりますか。今回の巡業は尾上松緑がメイン。ゴタゴタが続く歌舞伎界で、あまりメディアでちやほやされないこの人の立ち位置が重要になってくるかも。酷暑の中、昼食を摂った後、「春日井温泉」でひとっ風呂浴びてから会場へ。夕方の部だったがまだまだ暑い。客入りは前と一番後ろの方はまあまあ埋まっているものの、真ん中辺りは空席が目立つ5分の入りといったところ。
ひとつめの演目は「菊畑」。歌舞伎ではお馴染みの源平時代が舞台のお話。五十手前の松緑が、息子の左近を含む若手を引き連れてといった感じ。虎蔵(実は義経)を演じる梅枝の顔立ちの相変わらず綺麗なこと。女形ではひときわ光るが、姫に惚れられてしまう義経役もはまっている。弟の萬太郎はどんな役柄でも器用にこなすなァ。ちょっと貫禄が出てきた。歌舞伎の役名は”○○実は✕✕”という風に”身をやつす”役柄が多い。その場合その背景を知っていないと突然登場人物の態度や扱いが変わったり、解せない部分が多くなってしまう。昔の人がどれほどそういったことを知識として知っていたかは知らないが、演目の筋や役柄はあらかじめ頭に入れておくのが基本。慣れていない人はしっかり予習してかかるとより楽しめますよ(←そういう自分は銭湯で疲れて危うく舟を漕ぎそうに…)。
菊五郎家の家の芸として選定されている「土蜘」は、松羽目物(能を模して舞台正面に老松が描かれている)。何といっても松緑演じる土蜘の精の迫力ある演技と、綺麗に次々と宙に拡がる蜘蛛の糸(←あのモンキーマジックのやつです)が見もの。他の端正な顔付きの演者らと違って一等迫力ある顔付きの松緑(失礼)はこの役にピッタリだ。何とも恐ろしい形相で舞台を右へ左へ。完全にホラーと化している(笑)。松緑の手から蜘蛛の糸がぱっと拡がる度に客席から「わぁ」っと歓声が上がる。あれ、自分も一回投げてみたいナ。亀蔵のキレのある口跡(台詞回し)もいい。
そういえば長唄囃子連中(長唄、三味線、鳴物を舞台で演奏する楽器演奏者ら)は、コロナ禍では黒い口鼻隠しを使っていたが、今回はもう外されたようだ(あれはちょっとかっこよかったけれど)。巡業公演の場合、軽めの演目であっけなく終わることも多いが、今回は2つとも見応えのある演目でしっかりと楽しめた。
鬼一法眼三略巻
一、菊畑(きくばたけ)
吉岡鬼一法眼 尾上 松緑
奴智恵内実は吉岡鬼三太 中村 萬太郎
笠原湛海 尾上 左近
皆鶴姫 坂東 新悟
奴虎蔵実は源牛若丸 中村 梅枝
河竹黙阿弥 作
二、新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)
叡山の僧智籌実は土蜘の精 尾上 松緑
源頼光 中村 梅枝
渡辺源次綱 中村 萬太郎
坂田公時 尾上 左近
侍女胡蝶 坂東 新悟
平井保昌 坂東 亀蔵