岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

「あなたを探す」  東北の旅31 雄勝町10 石巻市立雄勝病院7

2013-05-22 06:09:22 | 東北 2013年4月
陸の孤島と化した雄勝町になんとかして戻ろうとした人々は、
冬季封鎖中の山道である真野林道を目指した。
石巻市役所に出張中だった雄勝病院の佐藤事務長はこの道をこじ開けるようにして戻ってきた。
市役所で地震にあったすぐ後2時59分に、まり子主査から「帰ってきてほしい」とメールが入っていた。
その後、電話もメールも不通になった。
事務長が、山道を下り、がれきの山を乗り越え、やっとの思いでたどりついた病院は廃墟と化していた。

病院の多くの職員たちの自宅は雄勝町から離れている。
石巻市の中心街からでも釜谷トンネルを通れば、大した時間もかからずに通勤できる。
自宅が雄勝町になくてもなんら不便はなかった。
しかし、いざ雄勝町が孤立状態になってしまうと、
職員と家族はお互いの安否がまったくわからない状態に陥ってしまった。

家族同士で連絡を取り合い、雄勝町の外にある避難所を巡り家族を探し始めた。
病院内に残った28名のうち、生きて家族のもとに帰ってくることができたのは4名だった。
「あなたを探していた」家族にとって耐えがたい結末だった。

このような大災害時の公務員は、自らが被災者でありながら、まず第一に被災者の支援を行う。
家族が行方不明になりながらも公務にまい進する職員の行動がよく報道された。
看護師のように医療従事者が公務員である場合は、避難所になくてはならない存在となる。
自ら過酷な体験をして生還した恵さんのような看護師も避難所に配置されて支援にあたった。
心身ともに疲れ果て体調を崩してしまう人が多かった。

いざという時にあなたを助ける義務があるのが公務員なのだ。
警察、消防がそれにあたる。

しかし、同じ地方公務員である医療従事者や教員が、患者や生徒を守るために自らの命を失っても、
地方公務員災害補償制度の適用はない。
遺族からの申請は却下された。

地方公務員災害補償基金からの遺族への弁明書には、「消防や警察は職務だが、教員などは『職務』としてそういうものはもっていない」という国会答弁を紹介している。

病院で患者を守って命を落とした人々の行為がいわゆる『善行』で片づけられてはたまらない。
遺族の方々の思いであり、新たな闘いが始まっていた。

雄勝病院の記事はこれで終わりたいと思います。
2013年5月17日現在、雄勝病院の大半は解体されてしまいました。
私たちは、この地で患者を守るために尊い命を失ってしまった人々のことを決して忘れてはなりません。
それは生き残ったものとしての義務だと思います。

雄勝の町を離れます。
雄勝病院から398号線を北にとり、釜谷トンネルを通過します。
しばらくすると北上川にかかる新北上大橋見えてきます。

そのたもとに大川小学校がありました。












海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実
辰濃 哲郎
医薬経済社




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