尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「感染症法」改悪に反対する

2021年01月20日 20時24分01秒 |  〃 (新型コロナウイルス問題)
 菅内閣が通常国会に提出を予定している「感染症法」の「改正案」に反対の動きが強まっている。「感染症法」はちゃんと書くと「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」になる。1897年に「伝染病予防法」が制定されたが、この法律は社会防衛的な色彩が強かった。そこで1998年になって「感染症法」に改められ、「予防」だけでなく「患者に対する医療」にも触れられるようになった。そこには近代日本における医療の反省が生かされている。
(感染症法改正の動き)
 自民党総務会で19日に了承された感染症法の改正案は、報道によれば以下のようなものとなっている。「都道府県知事が宿泊療養などを要請できる規定を新たに設け、感染者が応じない場合は入院の勧告を行い、それでも応じない場合や入院先から逃げた場合には「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰を科す」というのである。入院に応じなければ「懲役刑」を科すという、ちょっと常識を逸脱するような案である。感染症ウイルスを病気というよりもテロリストかなんかと思っているような「治安立法」的発想である。

 これに関しては医学界からすでに反対の声明が出されている。僕が書くよりもそれを読んで貰えば十分なので、ちょっと長くなるけれど引用することにする。そして最後に「感染症法」の格調高き前文も引用しておきたい。ここで引用するのは「日本医学会連合」の感染症法等の改正に関する緊急声明である。「日本医学会連合」というのは、医学系の学会の連合体で、136もの学会が集結している。およそ僕らが知っている病気のほとんどに何らかの専門学会がある。中には「日本温泉気候物理医学会」とか「日本肥満学会」なんていうのもある。「日本インターベンショナルラジオロジー学会」になると何だか全然想像も出来ない。

 長くなるが全文引用する。自分で重要と思うところは太字にしておく。
 現在、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)等の改正が検討されています。報道や政府与野党連絡協議会資料によれば、「新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否したりした場合などには刑事罰や罰則を科す」とされています。

 日本医学会連合は、感染症法等の改正に際して、感染者とその関係者の人権と個人情報が守られ、感染者が最適な医療を受けられることを保証するため、次のことが反映されるよう、ここに声明を発します。

1) 感染症の制御は国民の理解と協力によるべきであり、法のもとで患者・感染者の入院強制や検査・情報提供の義務に、刑事罰や罰則を伴わせる条項を設けないこと
2) 患者・感染者を受け入れる医療施設や宿泊施設が十分に確保された上で、入院入所の要否に関する基準を統一し、入院入所の受け入れに施設間格差や地域間格差が無いようにすること
3) 感染拡大の阻止のために入院勧告、もしくは宿泊療養・自宅療養の要請の措置を行う際には、措置に伴って発生する社会的不利益に対して、本人の就労機会の保障、所得保障や医療介護サービス、その家族への育児介護サービスの無償提供などの十分な補償を行うこと
4) 患者・感染者とその関係者に対する偏見・差別行為を防止するために、適切かつ有効な法的規制を行うこと

以下にこの声明を発出するにいたった理由を記します。

 現行の感染症法における諸施策は、「新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進される」ことを基本理念(第2条)としています。この基本理念は、「(前略)我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている(同法・前文)」との認識に基づいています。

 かつて結核・ハンセン病では患者・感染者の強制収容が法的になされ、蔓延防止の名目のもと、科学的根拠が乏しいにもかかわらず、著しい人権侵害が行われてきました。上記のように現行の感染症法は、この歴史的反省のうえに成立した経緯があることを深く認識する必要があります。また、性感染症対策や後天性免疫不全症候群(AIDS)対策において強制的な措置を実施した多くの国が既に経験したことであり、公衆衛生の実践上もデメリットが大きいことが確認済みです。

 入院措置を拒否する感染者には、措置により阻害される社会的役割(たとえば就労や家庭役割の喪失)、周囲からの偏見・差別などの理由があるかもしれません。現に新型コロナウイルス感染症の患者・感染者、あるいは治療にあたる医療従事者への偏見・差別があることが報道されています。これらの状況を抑止する対策を伴わずに、感染者個人に責任を負わせることは、倫理的に受け入れがたいと言わざるをえません。

 罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安・差別を惹起することにもつながり、感染症対策をはじめとするすべての公衆衛生施策において不可欠な、国民の主体的で積極的な参加と協力を得ることを著しく妨げる恐れがあります。刑事罰・罰則が科されることになると、それを恐れるあまり、検査を受けない、あるいは検査結果を隠蔽する可能性があります。結果、感染の抑止が困難になることが想定されます。
 以上から、感染症法等の改正に際しては、感染者とその関係者の人権に最大限の配慮を行うように求めます。

 ここまでが日本医学会連合の声明文である。もう「お説ごもっとも」という以外になく、付け加える言葉は必要ない。何のためにこんな案を出してくるのか、全く理解出来ない。法律によって、新型コロナウイルスの入院費はすべて公費で負担される。だから「経済的理由」で入院を拒む人がいるとは思えない。一人で育児・介護を担っていて代わってくれる家族がいないというようなケースしか僕には思いつかない。そんな場合に刑事罰を科すことは許されない。以下には参考資料として、感染症法の前文をコピーしておきたい。

人類は、これまで、疾病、とりわけ感染症により、多大の苦難を経験してきた。ペスト、痘そう、コレラ等の感染症の流行は、時には文明を存亡の危機に追いやり、感染症を根絶することは、正に人類の悲願と言えるものである。
医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により、多くの感染症が克服されてきたが、新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により、また、国際交流の進展等に伴い、感染症は、新たな形で、今なお人類に脅威を与えている。
一方、我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。
このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。
ここに、このような視点に立って、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため、この法律を制定する。
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