星のひとかけ

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新しかったイギリスの小説は…

2020-10-17 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)



前回の ジュリアン・バーンズ『人生の段階』を読んで以降、 ジュリアン・バーンズ氏の作品をまとめて読み直している。 、、と同時に、 なぜか A・S・バイアット(アントニア・スーザン・バイアット)女史の作品のことも想い出して まだ読んでいないものもあるので読みたいなと思っている。。

どうして一緒に思い出したかというと たぶん、 かつて白水社の《新しいイギリスの小説》シリーズでバーンズとバイアットが並んでいたからだと思う(上のフォト)。。 この《新しいイギリスの小説》シリーズの装丁は印象的で、 バーンズの『太陽をみつめて』の飛行機乗りのゴーグルも、 バイアットの『シュガー』の薔薇と本も、 とってもセンスが良い。 それに比べて文庫の『抱擁』はいくら映画化された作品とはいえもうちょっと詩的な装丁が出来なかったのかしら…と残念な、、

でも《新しいイギリスの小説》シリーズは90年代前半の出版だけれど、 今となっては早くも絶版なのか Amazonに書影すらない。。 

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前回、 『人生の段階』で、 奥さまを亡くされてからのバーンズ氏の想いを読んで、 訳者さんの解説などを読んで、 そのあとで『太陽をみつめて』(86年著)を開いて見て、、 それから『10 1/2章で書かれた世界の歴史』(89年著)も開いて見て、、 あと『ここだけの話』(91年著)も開いて見て、、 全部、 献辞が奥さまの名前になっていることに気づいて胸がつまった…

言うまでもなくジュリアン・バーンズさんはすごく知的な作家で、 語り口もシニカルというか、 ユーモアたっぷりだけど皮肉っぽいいかにも英国の知識階級の文学者、という感じで決して好きな作家ではありませんでした。。 献辞「~~へ」という言葉だって今まで気にしたことすら無かったです。

けど、、 バーンズさんは全ての作品をもしかしたら奥さまたった独りの為に書いていたんじゃないかなと今は思う。。 言い方は悪いけど、 一般の読者や ましてや翻訳されて読む海外の読者とか、 そんなことは全然念頭に無くて、 あの一風変わった作品を奥さまが読んでくれて (エージェントを務めていたというからには)有能な読み手だった彼女が辛辣な感想とか言ってくれる、 或はヘンテコなウィットに笑ってくれる、 それだけを楽しみにして書いていたんじゃないかな、、と そんな気がした。。

昔(バーンズ氏がデビューした頃)はね、、 書き手のプロフィールとか 執筆時の個人的な出来事とかを作品に投影するなんて小説としてすごーくつまらない事、と思っていて、 あくまでフィクションはフィクションでしょ、、 という感じで 献辞だの 謝辞だの、 解説だの、、って全然関心を持って読むことがなかった(いじけた読者でした)

でもバーンズさんの本に書かれている 「パットへ」 「カヴァナへ」 という短い献辞が、、(奥さま亡きあとの『人生の段階』にも書かれている) 、、これから先 どう書かれるんだろう、、 この先もパットの為に本を書いていくんだろうか、、と、  来年75歳になるというバーンズさんの(個人的な背景の)ことを 今は想っている。。

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A・S・バイアット女史もすばらしく知的な作家さん。 『抱擁』は19世紀の架空の詩人の、 誰も知らなかった恋文を現代の研究者が偶然見つけ、 その恋のミステリーを解き明かしていく、という 英文学に興味がある人には断然オススメの 文学ミステリー&ラブロマンス小説。 この作品も20年近く読んでないから 再び読み返したいと思っているところ。。

、、 バーンズ氏が75歳になるのだから バイアット女史はおいくつになるのだろう…と 検索してみたら、 もう84歳と、、


《新しいイギリスの小説》は、 20世紀の英文学としてもう新しくはなくなって、、 (図書館では地下とか書庫とかに保管されて、もう開架書棚にすら置いてなかったりして) 翻訳書も淘汰されていくのでしょう。。

でも この秋は ジュリアン・バーンズ氏と A・S・バイアット女史の作品をあらためて読みたいと思っています。

と同時に、


自分の過去の30年間くらいも、、 そこに読むことになるのかもしれないと、、

思ったりしています。



寒くなってきましたね、、



よい週末を。