星のひとかけ

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山里の記憶とともに…:『土を喰ふ日々 わが精進十二ケ月』水上勉

2022-11-01 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
11月になりました。 

このところお天気も良い日がつづき 朝晩もひんやりしてきて、 暖かいお料理 秋から初冬への味覚が美味しい季節ですね。

以前に書きました(>>)水上勉さんのエッセイ本 『土を喰ふ日々 わが精進十二ケ月』について、 あれから読んでみました。 新しい新潮文庫のほうでも良かったのですけど、 お料理の写真が大きく写っている1978年版 文化出版局の本のほうにしました。

ちょっと話が逸れますが、、 この古書を開いて眼にして、 とても読みやすくほっとすることに気づきました。 紙の手触り、 本文の活字の線の感じや大きさ行間、、 そして白黒写真印刷のきめ、、等。 、、見たら精興社さんの印刷でした。

本づくりに詳しくはないけれど、 活版印刷の時代の本づくりにちょっとだけ関わったこともあるので、 活字のかたちや天・地の空きなど、 細かな違いで読む時の印象がとても変わると思っています。 自分の好みというのもあるし、、。 だから最近読んだ本でも とにかくもうちょっと活字を綺麗にして行間を空けてくれたらいいのに… とそれだけでストレスになって、 ストーリーがうまく頭に入って来ないことがたまにあります。。 

ともかく、 この古い『土を喰ふ日々』は、 本の頁にも精進料理のような滋味を感じる御本でした。 

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軽井沢に住む水上勉さんの、 ひと月ごとの精進料理のかずかず…。 
…あ、、 「精進料理」ということばの意味さえ 私、ちゃんと分っていませんでした。。 お肉などのいきものの食材を使わないお料理、 としか認識していませんでした。 水上さんの書かれている、 日々そのときある食材で工夫をすることや、 素材の声をきいて 昨日つくったものを少し新しく進めてみること、 「先徳の料理からさらによくしろといった意味であること」(二月の章)とあるのを読んで納得しました。。

幸いなことに 山里育ちの自分は、 この本で水上さんが作られているお料理の味を、 実感として 体験として 思い描くことができます。 いろいろな種類のお豆の煮たものも、 山うどや山菜の和え物も、 クルミ味噌や高野豆腐(凍み豆腐)や自家製の梅漬けなども、、。 味覚の記憶というのは、 実際に経験がないと思い描けませんものね、、 料亭でほんの少しいただくのと 田舎の手作りで丼に盛られたのとでは味も異なってきますし。

、、 東京に住んでまもない頃、 初夏のこごみ(水上さんは こごめと書かれています)が食べたくて スーパーで探したら、 パックにほんの8本くらい並べられているのを見て (これじゃ丼いっぱいのこごみのおひたしなんて無理ね…)と諦めました。 あれ以来 都会で故郷の食材を求めるのはやめにして、 その地元の旬のものをいただけば良いのだと思うことにしました。 その地を、 「土を喰らう」ということですね。

、、そんなふうに 少し懐かしく思い返しながら水上勉さんの季節感あふれるお料理を読ませていただいて、、 でも一点だけ、 どうにも可笑しくてふき出してしまったところがありました。

それは「きのこ」について。 九月の章です。

  土の味といったが、しめじほど、土くさくて、山くさい喰いものはない気がする。 落葉松の木が露しずくをたらしてあんな妙なカビを生やすとは、樹木の神秘性をうかがわせてあまりあるが、いつも思うことだけれど、最初に化物じみたカビを喰って、これはうまいぞと人にすすめた人に感謝しなければならぬ。

・・・爆笑しました、、 カビって。。 そりゃキノコは菌類ですけど…

水上さんは 松茸についても 栄養素のなにもない 「水のような松茸の香りだけを喰うのだろう」と書かれていて可笑しくなりました。。 菌活などという言葉は最近ですものね。 70年代のこと、 カロリーの無いキノコは季節感はあっても栄養は無いと考えられていたのかもしれません。 でも山国育ちの私はキノコ大好き、 ほぼ毎日きのこを食べない日はないくらい。。 カビだなんて失礼きわまりないです(笑)

きのこが腸内環境をととのえるとか、 免疫力を高めるとか、 ビタミンDが骨粗鬆症を防ぐとか、 しめじに含まれるオルニチンはしじみの8倍もあるとか、、 どれも最近言われるようになったこと。。 だけど、「化物じみたカビ」の効能を昔のひとはちゃんとわかっていたんでしょうね、、 健康長寿ときのこ、 水上勉さんに教えてさしあげたいくらいです。

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水上勉さんが書いておられる 「零下十五度という寒気」も 「土もねむり樹も草もねむっている」という実感も、 この身で味わってみないとわからないものです。 そうしてみて初めてわかる「真冬の貯蔵庫から、芋一つ撫でさすりながらとり出す気持ち」

いま 検索してみて知ったのですけど、、 「お菜洗い」って言葉は全国区ではないんですね…笑
11月はお菜洗いの季節です。 水上さんの本にはお菜洗いは出てきませんでしたけど、 上記の冬の記述を読みながら、 冷たい水に手をまっ赤にかじかませてお菜を洗い、 真冬の朝、 桶に張った氷の下からお菜を取り出したときの冷たさ、 朝陽にきらきらと光る氷のしずく、、 そういう食の記憶がよみがえってきました。。 いやはや、 都会人は便利な食べ物だけまいにち食べているのですね、、





きょうのお昼ごはん。 昨夜のお味噌汁にカボチャとブロッコリーとピーマンを加えてミルク仕立てに。 しめじとエリンギのマヨ炒め。 フライパンに残ったオイルで焼きおにぎりにしてチーズのせ。 平日はいつもこんな。。 代りに週末はお鍋やお寿司や餃子や食べたいものドーンと頂くの…♡



今月もおいしく


すこやかに。



せめて 毎日ほんの少しの工夫を、、 「精進」のことばの意味を思い出して ご飯支度をしようと思うのでした。。