prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「血と骨」

2004年12月08日 | 映画
原作の金俊平は巨体と怪力の持ち主であり本当は若い時の三國連太郎でも難しい役なので、たけしではどうかなと思っていたのは必ずしも杞憂に終わっていなかった。若くて図体の大きい相手と真っ向から取っ組み合いして勝つのがどうしても不自然に見える。炭火を顔に押し付けたりするヒキョウな真似をするあたりは似合っていたが。
全編緊張感が途切れることはないが、息子の正雄が父親に対して弱すぎるのでドラマチックにはなりにくく、とにかく重苦しい。

在日が住んでいる地域の大がかりなオープンセットが、真っ昼間の場面ではわずかに古色不足なのを除いてよくできている。エンドタイトルだと大道具係の名前が数え違いでなければ76人ずらりと並んだ。市電のレールが彼方にまで伸びている画はデジタル技術を使ったものだろうが、(外の世界との接点)のような一種象徴的なニュアンスが出た。

これくらいボカシが入る映画も近頃珍しい。前貼りつけてないってことか。いいかげんすっぱり解禁したらどうです。役人はあくまで既得権を手放さないってことね。
(☆☆☆★)


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「隠し剣鬼の爪」

2004年12月08日 | 映画
完全主義的な作り方は一段と磨きがかかった観。

雪解け道を歩いて城に出仕する時、下駄を履いていって門で草履に履き替える。子供が家に上がる時足の裏の汚れを拭いてから上がる。障子のつくろいに字の書いた(永瀬正敏の主人公・片桐が勉強に使ったものだろう)紙が使われている、といった調子。片桐が手足を互い違いに出す西洋式の行進の教練を受ける時に一番へたくそなのは、剣術の修行で右手右足を同時に出すナンバ式の動きが身についているからだろう。

「たそがれ清兵衛」のスタッフの座談会で、本当は茅葺きの家のオープンセットをもっと雨風にさらして古色をつけたかったとあったが、戸田先生(田中泯・今回も出てくると空気が変わる)の家の屋根などみっしりと重そうに苔が生えている。真田広之と違って立回りの訓練を受けていない永瀬正敏がちゃんと剣術の達人に見える。松たか子は見る前はやや陰影の乏しいのではないかと思ったが、さすがに監督が違うと変わる。

ドラマの方は「たそがれ」と似て微妙に違う。西洋式の戦い方が入って来ていることが書き込まれ(腕が銃で吹っ飛ばされるなど、今までの山田洋次ではやらなかったタイプの描写だ)、戦いたくない相手と戦わなくてはいけないドラマの上に殺したい相手を殺す要素が加えられている。監督が二つある原作のうち「雪あかり」ではなく「隠し剣鬼の爪」の題名にこだわって採用してのはこのせいかと思った。この鬼の爪を使う一瞬の演出美。
(☆☆☆★★★)


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