木村威夫の「映画美術 擬景・借景・嘘百景」を読んだ直後だったので、三つのスタジオの壁をぶち抜いてつなげて作ったという無縁坂の大セット(美術監督・伊藤熹朔 美術・木村威夫)を楽しみにしていて、予想以上の手のかかり方にびっくり。木の枝葉の間から朝日がのぞいているロングショットを外景セットで作っているのだから。
絶妙なグレイトーンに、ときどき照明で隈取りのようなアクセントをつけたアップを入れたりする三浦光雄の白黒撮影の迫力。
雨が降ってくる前の明るくなったり暗くなったりする光を再現したスタッフワークの充実ぶり。
東野英治郎の高利貸しの妾になった高峰秀子の家に浦辺粂子の本妻が訪れるところで、二人の女の日傘の柄がまったく同じなのを真上から撮って一瞬に見せる演出の冴え。
どしゃぶりの雨の中、本妻が路地にすーっと立っている図の怪談そこのけの恐さ。
しかし、借金のかたに取り上げた反物で妾の着物をこさえたりしている(それでこっちでも女同志の喧嘩になる)のだから、この高利貸しの女に対する無神経ぶりは相当なもの。
口で吹きながら飴細工を作っている高峰のアップから始まるのだが、そのぷうっと膨れたような無言の顔に、飯田蝶子の長々としたクドキがかぶさるあたりから、まことにいわく言いがたい微妙なニュアンスの塊みたいな表現の連続。
日本映画全盛期('53)の総合的な技術力を堪能する。
(☆☆☆★★★)
絶妙なグレイトーンに、ときどき照明で隈取りのようなアクセントをつけたアップを入れたりする三浦光雄の白黒撮影の迫力。
雨が降ってくる前の明るくなったり暗くなったりする光を再現したスタッフワークの充実ぶり。
東野英治郎の高利貸しの妾になった高峰秀子の家に浦辺粂子の本妻が訪れるところで、二人の女の日傘の柄がまったく同じなのを真上から撮って一瞬に見せる演出の冴え。
どしゃぶりの雨の中、本妻が路地にすーっと立っている図の怪談そこのけの恐さ。
しかし、借金のかたに取り上げた反物で妾の着物をこさえたりしている(それでこっちでも女同志の喧嘩になる)のだから、この高利貸しの女に対する無神経ぶりは相当なもの。
口で吹きながら飴細工を作っている高峰のアップから始まるのだが、そのぷうっと膨れたような無言の顔に、飯田蝶子の長々としたクドキがかぶさるあたりから、まことにいわく言いがたい微妙なニュアンスの塊みたいな表現の連続。
日本映画全盛期('53)の総合的な技術力を堪能する。
(☆☆☆★★★)