板倉(吉岡秀隆)のスケッチブックに書かれた絵に、女中のタキの顔が見える、それをタキ自身が見ているのかどうかはっきりしない。描き忘れた、というより、どこか年取ったタキが記憶から消し去った部分のような感じもする。
家の子供に絵を教えるシーンがあったら、ラストにもっとすんなりつながったと思う。
若者代表である妻夫木聡が昭和十年代の歴史について、妙に左翼公式主義的な認識を振り回す。日教組の教師に学んだのか、と思ったくらい。いまどきの若者の昔のことに対する認識を描こうとすると、「永遠の0」にしてもそうだが、政治的立場関係なくどうにも型通りになる。
山田洋次はれっきとした日本共産党のシンパだが(選挙の時にしばしば応援している)、公式史観ではすり抜けてしまう実際に当時生きていた人の微妙な感情を暗示と省略を巧みに使って掬い上げようとしている。
ラスト近くに出てくる絵本ショップ、エンドタイトルと照合するとクレヨンハウスだろう。「風が吹くとき」(核戦争を老夫婦の視点から描いた作品)が画面の手前にピンボケにして写っているのは狙いと思える。
エンドタイトルで出るが、フィルムがコダックというのが不思議な感じ。フジではフィルムは作っていない、あるいは現像できないというわけでもないはずだが、長編映画では使う量が違うか。
スコセッシが「ウルフ・オブ・ウォールストリート」をあくまでフィルムで撮ったというが、こだわる監督はこだわる。
戦争中の停電している夜の場面など思い切って暗くして撮っている。本当に見えるか見えないかぎりぎりで、それが時代の暗さと一致していた。デジタルだともっと鮮明に写りすぎたのではないか。
「寅さん」(ほとんど高羽哲夫撮影)だと基本夜の場面でも明るく鮮明に撮っていたが、高羽が亡くなって長沼六男が撮影を担当するようになって、かなり画面が暗くなった印象がある。
オープニングの火葬場の煙突から出てくる煙(「小早川家の秋」ね)から、小さいおうちに置いてある赤いヤカンまで小津印を配しているのが妙な感じ。
セット撮影の利点を利用してか、おうちの外景などちょっとづつ作り物っぽく、主がおもちゃメーカーの重役ということもあって何かおもちゃじみて見えたりする。空襲シーンなど、ミニチュアくささをむしろ積極的に出している。
(☆☆☆★★)
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