prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「生きる」(テレビ版)

2007年09月10日 | 映画
「ゴンドラの歌」ほか細かいところで古くなっているところはもちろんある(たしか大正時代の曲だぞ)が、黒澤作品の基本的な発想がいかに普遍的なものであるかはわかる。役所内でたらいまわしになるのは、最近実際に体験した。
ガンの種類が胃ガンから発見しにくいすい臓ガンになっているのは、予想通り。

ただ、その細かいところが大事なので、オリジナルの演技アンサンブルがいかに凄かったかというのばかり思い出していた。
それにしても「椿三十郎」「用心棒」のリメークなど、なんか遺産の切り売りって観は否めない。


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「天国と地獄」(テレビ版)

2007年09月09日 | 映画
「天国と地獄」テレビ版リメークを見る。
オリジナルでもサングラス、車のフロントグラス、大拘置所の面会室り仕切りのガラスなどさまざまな反射物を頻繁に入れていたれど、今回はCG合成を援用してさまざまな反射像を入れ込み。また光と影を強調した画作りをしている。

主人公の製靴会社の重役の名前が権藤吾で、犯人の名前が竹内次郎という具合に鏡像関係になっているのと対応しているのだろうし、頻繁にマルチ画面を多用しているのも同じ狙いだろう。

身代金を入れる鞄がオリジナルでは皮製だが、ここでは布製、というのは実は結構大きな違い。
「昔は靴屋は鞄も作らされたものです」というセリフがあるが、権藤は革製品を作っていた、ということはもしかしたら権藤は出身者ではないか、と思わせるように出来ているわけ。

嫉妬には自分が上昇しようとするジェラシー型と、人を引きずり下ろそうとするエンビー型というのがあるというが、権藤と竹内はそれぞれの代表で、一見すると上流と下流の対立みたいだけれど、地獄から天国に這い上がった男と、実際はけっこう恵まれているのに不満にまみれている男とのねじれた対立、というのがオリジナルなのだが、ここでは「格差社会」的な一元性が前面に出て、複雑なニュアンスは薄い。

犯人が携帯から脅迫電話をかけてくるのだが、携帯ってすごく足がつきやすいのだけどね。あとドラッグの入手法にせよ、今ではインターネット使えばいいわけで、何も直接接触する必要もない。
細かいところで時代のずれを感じる。


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「13人連続暴行魔」

2007年09月08日 | 映画
若松孝二監督。
主演の掛川正幸が若松の「時効なし」の編集を担当していたり、音楽の阿部薫を主人公にした映画「エンドレス・ワルツ」をのちに製作したりと、なんというか若松人脈の濃さはすごいものがあります。

半ば伝説的となった阿部薫の音楽を聴くために見たようなもの。
中上健二「荒神」の一節を引用して「心臓がむきだしになったような気がする」音。かといってこのひどく安い画面抜きにしてはありえない音。
(☆☆☆)


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「トランスフォーマー」

2007年09月07日 | 映画
途中で出た。
あんまりカット割りがとでかいオモチャの動きがガチャガチャしているのと、宇宙から来た連中でさえ善悪二元論で割り切る作りに不快感を覚えたのと、キャラクター(人間の方ね)たちの頭の悪さと、人間の作ったコンピューターがそのまま地球外に通用するという夜郎自大ぶりとに、ものの例えではなくて頭痛がしてきたもので。

マイケル・ベイの映画(もどき)っていつもそうだから、わざわざ確認しなくてもよさそうだが。

冒頭のヘリコプターに変身していたトランスフォーマーが正体(?)をあらわすシーンで、これだけの映像技術があったら諸星大二郎の「生物都市」も映像化できるな、とは思った。

若者男女二人が色の薄い有色人種、というあたりにアメリカ国内の興行対策が感じられる。
(無星)


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「母娘監禁 牝」

2007年09月06日 | 映画
ひどい話だけれど、主演の加藤善博が今年の4月27日に亡くなっていたことを知らないで見た。はっきりしないが、自殺だともいう。森田芳光「の、ようなもの」で漠然と顔と名前を覚えて、主役はあまりないけれど伊丹十三作品などあちこちに顔を出していてなんか記憶にひっかかる人、という印象で、業界内でも訃報の伝わり方が鈍かったみたい。

それにしても、なんでこの映画見る気になったのだろう。やはり主役の前川麻子が今では小説家として有名ってことも知らなかった。

ともかく、出来の方はアタリだった。
ずいぶん悪どい題名だし(原作は西村望の「紡がれる」)、テレクラで中年男と女子高生が知り合って、という出だしは、今どきのお話にしたらどれだけ殺伐としたのになってもおかしくないのに、「ロマン」ポルノという言葉がぴったりの情感豊かで仕上がり。
(☆☆☆★)


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「マスターズ・オブ・ホラー 魔女の棲む館」

2007年09月05日 | 映画
同じH.Pラブクラフト原作の「ZOMBIO 死霊のしたたり」のスチュアート・ゴードン監督。

呪われた館の部屋を借りた大学院生の青年が、そこに棲む魔女に取り憑かれて隣室のシングルマザーの赤ん坊を生け贄として捧げる片棒を片付かされる。
赤ん坊を殺す展開にまで踏み込んだのが実に陰惨。人の顔をしたネズミのメイクが良く出来ている。
生け贄の捧げた方を記した本が出てきて、ラブクラフト原作だからこれが果たせるかな「ネクロノミカン」。
(☆☆☆)


「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」

2007年09月04日 | 映画
ぽかっと時間が空いたので見たが(約100分っていうのは手頃)、テレビシリーズを途中でおっぽり出した者とすると、ついていけるかどうか微妙。
良く入っていたけれど、新宿のミラノ座という今では珍しい戦艦クラスの大劇場なので席にこだわらなければ十分座れる。最近はやたら日時指定制が普及したけれど、途中から入って途中から出て行くような見方もいいなと思えてきた。

あちこちにちりばめられた十字架のデザインとか「使徒」といったネーミング、死海文書といったギミック、何より「エヴァンゲリオン」って題名自体evangelism=福音伝道なわけで、別に作り手がキリスト教徒でもないのに黙示的・秘教的ムードを出す(そこがウケたのか?)っていうのは、なんかヤだな。
思わせぶりが過ぎはしませんか。

主人公がとにかくやる気がないのをなんとかエヴァに乗せて戦わせなくてならないのだから、ファンでない人間からすると、見てて結構イライラしてくる。

赤を強調した色彩設計、使徒六号のCGを大々的に取り入れた抽象的な形態のメタモルフォーゼは魅力的。
(☆☆☆)


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「日本のいちばん長い日」

2007年09月03日 | 映画
後半で天皇の「御聖断」に対して納得せず、あくまで徹底抗戦・本土決戦を唱えて叛乱を起こす青年将校たちは2.26事件の亡霊の蘇りのよう。

昭和天皇が姿をはっきりと見せず、現実とも抽象ともつかないぼかした形で描かれているのは、メジャー系映画で天皇を表現する時の慣習的な「逃げ」なのだろうが、現実の天皇というものが見えなくなっていてあるいは見ようとしないで、自分の観念の中の天皇に方に忠誠を捧げてしまう青年将校の心性の反映ともとれる。

将校たちのファナティシズムに映画そのものが調子を合わせている感じで、黒沢年男の脳の血管が切れそうな芝居は見ものには違いないけれど、ちょっとついていけない。
こういう「純粋さ」を美しいとは感じないよう心がけている。

力作には違いないが、岡本喜八監督の作品としては全然ユーモアがないのは物足りない。「真面目くさっている」分、逆に俗受け狙いとも見える。事実、岡本作品で最大のヒット作のはず。
怪奇大作戦「狂鬼人間」の「日本刀の狂人」役でも有名な大村千吉の狂いっぷりご愛嬌だが。

オールスターキャストには違いないのだけれど、わずかに新珠三千代を除いて全員が男、というのも閉鎖的。
(☆☆☆)


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「マスターズ・オブ・ホラー ヘッケルの死霊」

2007年09月02日 | 映画
ジョン・マクノートン監督。

主人公の父親が病気という設定からフランケンシュタイン風に話が行くのかと思うと、ゾンビものに方向転換してしまい、後は必ずしも悪い意味ではないが全部予想通りに話が展開する。
エロスとタナトスという言葉を絵にかいたようなクライマックス。
(☆☆☆)


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「シッコ」

2007年09月01日 | 映画
マイケル・ムーアのことだから情報の選び方に相当にバイアスのかかってるのではないかなあ、という疑問はある。
カナダとフランスがアメリカに比べて国民皆保険制度がしっかりしているのは確かだろうが、財源が無尽蔵でありえない以上、何らかの問題がないとは思えない。

日本も国民皆保険制度は機能してはいるが、つい最近、老人保健の負担率が一割から三割に引き上げられたばかりで、まあ他人事ではない。ほぼ満員の場内は年配客が多かった(「不都合な真実」の時も多かったなあ)が、どう思って見ていたろう。

CBSドキュメントでもアメリカの医療保険制度問題について取り上げたのがあったが、あれでは上流はもちろん問題ないが、下流はあまりに貧しいので政府も保障をせざるを得ず、教育費や住宅ローンを抱えた中産階級が運を天に任せて保険に入らないでいたらその運に見放されて高額の医療費を抱えてどうしようもなくなる不当さを取り上げたものだった。
つまり中産階級というのが事実上滅びつつあるということはこの映画でもはっきり感じられる。

アメリカというのも「先進国」代表みたいな顔をしているが、れっきとしたキリスト教原理主義の発祥地でもあるわけで、実はものすごく「変」な国じゃないのか、という印象が最近、特にブッシュが「顔」になってから強くなってきた。

金額の数字にいちいち大体の日本円換算がルビにつく字幕というのは初めて見たが、いい工夫。ぱっと見てドルならともかくフランやポンド(ユーロではなかったぞ?)はわからないから。
「華氏911」はアメリカの次に日本で当たったというが、反米とまではいかなくてもアメリカ式独善的正義の押し付けに反感を持っている人は多いのは当然。

デンゼル・ワシントン主演「ジョン・Q」でもアメリカの医療保険の悪辣さは批判されていたが、あそこのラストでもちらっと皆保険制導入の旗手として出てきたヒラリー・クリントンが金をもらって転んだと知りげっそり。

社会主義国の労働礼賛のプロパガンダ映画の引用に笑う。グアンタナモ基地の捕虜の「待遇の良さ」を宣伝する場面はウソがミエミエだが、どうせなら北朝鮮式に捕虜に演技させたらどうだったか。
(☆☆☆★)


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