晴れ、24度、83%
香港、朝の5時。場所は香港島、ボーエンドー。私が朝走る道です。
前に小さい人影が見えます。今年86歳になる、アポ(広東語でおばあちゃん)です。アポは、毎朝こうしてこの道に散歩にやってきます。背中がしゃんとして、軽やかな足取りです。香港では、これくらいの年になると、お手伝いさんが付いて散歩をします。このアポも、住んでるところ、服装からしてかなりいいお家のアポです。でも、いつだって一人。かっこいいと思います。アポと逢ったときは、必ず立ち止まって、一言二言話します。
今日は、パチり。 アポの背丈は、小さい私のあごくらいです。きっと私もアポの歳になったら、小さくなっているでしょう。
去年の6月頃から、アポの姿を見かけませんでした。15年も同じ道を走っていると、毎朝逢うお年寄りが一人欠け、二人欠けしてきました。あんなに元気だったアポも病気かも、と心配でした。でも、いつも一人でやってくるアポのことを、他の人に聞いてもわかりませんでした。
今年3月、寒かった香港も春らしくなった日に、アポが、ボーエンドーに戻ってきました。
大喜びで、手を取って、「心配していたよ。元気だった?」と聞く私。
アポは、何も答えませんが、涙ぐんでいます。アポも、この道に戻って来れて、うれしいのです。ほかの毎朝会う人たちも、アポを取り囲んで喜んでいました。今までと違って、少しゆっくりとした足取りです。きっと、具合を悪くして、出て来れなかったに違いありません。
それから2ヶ月、5月に入ったら、アポの歩みが以前の様になってきました。軽やかで、歌でも歌っているような歩みです。
さて、Uターンして戻ってきた私、香港、朝の6時前。
もう一枚、明るい日の中でアポをパチリ。
私は、あこがれのおばあちゃんが4人います。みんな、有名な人ではありません。市井の人です。もちろん、このアポも、私のあこがれのおばあちゃんの一人です。