晴、6度、70%
お仏壇の始末をして2年が経ちました。どこにいても、お仏壇がなくても、心の中で手を合わせ先祖を思うことが祈りの原点だと考えます。一人っ子の私の次の代はたった一人の息子です。大きなお仏壇はお祓いをしてもらい引き取ってもらいました。それでも父母二人の並ぶ写真を書棚の中に入れています。その前には小机を置き、果物、お菓子、庭の花を供えています。その座敷に朝一番入るときは「お父様、お母様、おはようございます。」と写真に語ります。
先日、暮れかかる住宅街を歩いていました。するとどこからともなく「お線香」の香りがして来ました。「お香」ではありません。「蚊取り線香」でもありません。間違いなく「お線香」の香りです。「お寺でもあるのかしら?」見回しても普通の家が並んでいるだけです。どこかのお宅がお仏壇にお線香をあげたのだと思います。夕方の冷たい空気の中にその香りは私の胸をすっと下りて行きました。
父が亡くなったのは中学の1年の終わり、2月です。その日以来、我が家の座敷では朝一番に母が「お線香」をあげるようになりました。とりわけ寒い座敷の空気に線香の香りが広がりました。お寺でもそうですが、「お線香」の香りは部屋の隅にずっと居座ります。「お線香」を焚いていないときでもかすかにその残り香がします。
歩いていてふと香った「お線香」です。父はとりわけ「香」が好きな人でした。「毎日、お線香をあげなくては。」と思い帰宅しました。「お線香たて」もお仏壇と一緒に始末しています。使わない香炉を出して来て、蓋を取り線香たてにしました。父の好きな「お線香」を選びました。
毎朝「お線香」をあげるようになって、まだ3日ですが座敷のドアを開けると部屋の隅に寝ていた香りがそっと目を覚まし私の鼻腔をくすぐります。「お線香」の煙をわずかの間眺めます。数秒のことですが、心がすっと平らになるのを感じます。