横浜美術館の”蔡國強展:帰去来”を猛暑の中、訪ねた。この現代美術家について、ぼくは何も知らなかったが、あの北京五輪の開会式の花火装飾を手がけた人だと聞いて、興味をもったノダ。展覧会をみて、ぶったまげた、意表をつかれたというか、とにかく、異色な作品群に驚き、感服した。十分、楽しませてもらいましたよ。
いきなり、巨大な作品が目に前に拡がる。入場前の、エントランスホールに展示してあり、これだけは撮影可能となっている。どれだけ大きな作品か、百聞は一見にしかず。これをご覧ください。
みみずくがいて、
桜の花が咲く。
画題は夜桜。墨絵のようだが、火薬と和紙を使った作品。展示室内で作成過程がビデオでみることができる。火薬を散らし、それに火を入れ、燃やしながら、消していく。焦げた跡がまるで、墨のよう。まず、この作品に度肝を抜かれ、このあと、どんな作品が待っているのかわくわくどきどき。
はじめに入った部屋。ホールの作品とはまるで違うイメージ。春画のようだと思ったら、江戸の月岡雪鼎の春画を下敷きにしているという。人生四季:春、夏、秋、冬という四つの巨大作品から成り立っている。オブラートにつつまれたように描かれた男女のからみと花札の絵柄が散らばっている。一応、中学生以下は父兄同伴となっているが、そうする必要もないくらいのもの。たとえていえば、花のおしべとめしべを描いているような感じ。色も明るく、むしろ、ほのぼのとするほどだ。火薬とカンヴァスの作品。
そして、一転、磁器タイルと火薬をつかった作品が現れる。春夏秋冬。焼け焦げた四面の壁に、やはり焦げついた季節の花々が咲いている。細密に細工をされた花弁をたくさんつけた菊をはじめ、梅、桜、桔梗、蓮など。そして、部屋の真ん中には、朝顔(陶、藤蔓、鉄)の蔓が伸びている。墨絵の花畑に迷い込んでしまったような不思議な感じ。
そして、最後の部屋でまた、チョー度肝を抜かれる。剥製の狼が無数に群れを成して、向こうの白い壁に飛んでゆく。剥製かと思ったら、これも作品で、鉄芯、藁、石膏、着色された羊の毛皮でつくったものだそうだ。99匹いるという。この狼の間を自由に歩くことができる。皆、それぞれ、個性のある顔をしていて、ほんとうに可愛い。口の中に手を入れたいくらいだったが、監視人がこちらをにらんでいたのでやめた。白い壁はベルリンの壁と同じ高さだという。故国への想い、批判が込められているのかも。日本初公開となる近年の代表作とのこと。壁撞き(かべつき)。
タイトルの”帰去来(ききょらい)”は、中国の詩人、陶淵明の”帰去来辞”から引用しているとのこと。官職を辞して、故郷で、自然に身をゆだね、自由な精神で生きようと決めた詩。蔡國強の心でもあるのだろう。
常設展示室に、平櫛田中作の”陶淵明”が展示されている。
うしろの屏風は大観作”江上舟遊”。蔡國強は大観作品に惹かれるという。
大カラス。蔡國強作品をみて、もっと、もっと巨大にならねばと思ったかもしれない。
素晴らしい展覧会だった。