根津美術館の庭園のカキツバタが真っ盛りのとき、国宝・燕子花図屏風を観にいった。去年は尾形光琳300年忌ということで、MOA美術館の光琳の名作、国宝・紅白梅図屏風と二度にわたって同時展示された。その大仕事を終えて、今年は通常展示で、我が家で気楽に接客しているという感じだった。ぼくも、毎年、会っているので、やあ、こんにちわ、という感じで鑑賞した。
今年は、”歌をまとう絵の系譜”ということで、それぞれの絵画に関連した歌が添えられていて、その物語の世界へ誘ってくれる。燕子花図屏風では、唐衣きつつなれにしつましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ(伊勢物語より)が、桜と紅葉の華やかな吉野瀧田図屏風(江戸時代、17世紀)では、ことしより春しりそむるさくらはな散るという事はならはざらなむ(古今和歌集)というふうに。
屏風の展示が多く、豪華である。武蔵野の原野に日と月の出入りが描かれる、武蔵野図屏風は、武蔵野は月の入るべき山もなし 草よりいでて草にこそ入(万葉集)。誰が袖図屏風には色よりも香こそあわれこそあはれと思ほゆれたが袖ふれし宿の梅ぞ(古今和歌集)
そして、特別出品の伊勢物語絵巻(室町時代、16世紀、個人蔵)がまたよかった。”伊勢物語”125段の本文と、そのうち40段分の絵からなる絵巻。絵は稚拙ながら雅味に富み、大ぶりな草花の表現も魅力的である。物語そのものではなく、そこで詠まれた和歌の内容を絵画化している場面が多いのも特徴である、ということだが、わかりやすい解説もあり、楽しく読ませてもらった。
庭のカキツバタが素晴らしく、よいときに燕子花図屏風を鑑賞することができ、すばらしいひとときだった。
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燕子花図屏風
吉野瀧田図屏風
伊勢物語絵巻
庭園の素晴らしいカキツバタ(5月1日)