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北尾トロ『気分はもう、裁判長』

2008-04-27 16:18:38 | ノンジャンル
 北尾トロさんが'05年に書いた「気分はもう、裁判長」を読みました。小中学生向けに書かれた、裁判傍聴を勧めるガイドブックです。
 まず「キミが法廷に入る前に」と題して、裁判を傍聴する面白さを紹介します。新聞やニュース番組が取り上げない事件はその何十倍も何百倍もあって、それらに対する裁判が全国で無料で見られ、裁判ほどエキサイティングで、さまざまな人間模様が見学できるところはめったにない、と語られます。そして傍聴のルールを確認した上で、一番分かりやすい地方裁判所の刑事事件を中心に実際に傍聴して見られる裁判の様子が語られていきます。
 最初は窃盗事件の裁判。ここで裁判の基本的な事柄が述べられ、被告が罪を認めている場合、弁護側はなるべく刑を軽くするように、検察側はなるべく刑を重くするように証人を立てて争い、裁判官が最終的な判断を前例に準じて下すという裁判の基本的な流れが述べられます。ここではデパートで3万円相当の商品を万引きした、以前に一度やはり万引きで捕まったことのある男の裁判の様子が描写されています。
 2番目は強制わいせつの事件。電車の中で下着の中にまで手をつっこんで痴漢をした男の裁判です。男が仕事の疲れからやってしまったと言い、妻が涙ながらに今後は私が絶対にさせません、と証言したのが効いたのか、執行猶予がつきました。また、この裁判には社会見学の女子中学生が大挙して傍聴していたので、裁判官が張りきり、普通はしない被告本人への説教もするというおまけつきでした。
 3番目は民事裁判の離婚裁判。離婚には双方同意しているのですが、親権で争っています。妻は情緒不安定でそれまでも育児をさぼることがあり、夫は経済的にも恵まれていて、妻の言っている不倫も彼女の妄想だと言っています。
 4番目はサギ事件。コンビニの倉庫から商品を持ち出し、それをレジに持って行って返すから返金してくれ、というおまぬけな犯罪。裁判を進めるうちに、妻と子供を名古屋に置いて、東京の養母を訪ねるつもりが、なかなか養母の家が見つからず、仕事も行き詰まり、家族に心配させまいと連絡もせず、結局一文無しになり衝動的に行った犯行ということが分かります。
 5番目は強盗事件。ナイフで被害者を脅して大金を奪った容疑で捕まった被告ですが、決定的な物証はなく、一度は罪を認めた被告も、警察で無理矢理言わせられたもので無実だと言い出し、紛糾している裁判です。その結果、この裁判は1年も続いています。
 6番目の裁判は殺人事件。老人をナイフで刺し、家を漁って金を盗んだとして逮捕された被告。計画的な犯行だとうする検察に対し、衝動的に殺してしまったという弁護側。どこから見ても普通の青年に見える被告。無期懲役が求刑され、最後に行われる被告に与えられた話す機会に、彼は「罪のない方の命を奪ってしまい、本当に反省しています。刑務所に行って罪を償い、出所したときには、まず被害者の墓参りに行きたいと思います」と話し、被害者の遺族の涙を誘います。
 最後に著者は、裁判の面白さを再度説き、また公正な裁判が行われるためには傍聴という「開かれた裁判の制度」がぜひ必要だと主張し、それだけにそこでは必ず守られなければならないマナーが存在するとも言います。そして6番目の裁判の紹介の最後で「裁判は、犯人を刑務所に入れて、この社会から追い出すために行うんじゃない。裁判の真の目的は、法律を破った人に一定の罰を与えるだけじゃなくて、罪を償ったら再び社会に復帰できるように導くことなのだ。」とし、我々が前科のある人たちに抱く偏見を糾弾します。
 これ以外にも、裁判に関するミニ知識のコラムやマナーに関すること(「裁判が終わって法廷を出てすぐに軽々しいことは言わない事。なぜならすぐそばに被告の家族や被害者の家族がいる可能性もあるのだから。」といったような実用的なもの)が書かれています。
 今まで北尾トロさんの著作を多数読んできましたが、この本が一番感動しました。まだ読んでない方がいらっしゃいましたら、是非手に取ってください。一日で読める量ですし、子供向けに字も大きく、とても読みやすいので、本当にオススメです。私はこの本は売らずに、手許に残して置くことにしました。皆さんもそうしてくだされば、幸いです。