昨日に続いて、おかたい「選挙の話」。
毎日新聞が、昨年秋から「ネット利用選挙」の解禁に向けて、
特集を時々組んでいて、興味深いです。
わたしも先日、2007年4月の統一自治体選挙に向けて、
選挙運動期間中(告示から投票日まで)の、現行法における
ネット(HP、ブログ、メール)利用についての法解釈を、
「禁止されていること、許容されていること」などを整理して、
総務省選挙課に、電話で問い合わせました。
現行法に関しては、特定の候補者を当選させる意図でのネット利用は、
「文書図画(とが)の制限」と同じで基本的に認められておらず、
「HPの新設・更新はだめ。不特定多数へのメールでの応援依頼もダメ」と
「文書図画」と公選法の理念との関係で、
けっこう明快に答えてくれました。
6月の法改正の具体的な方向性についても尋ねたのですが、
口が堅く「まだ何もきまっていない」とうまく逃げられました。
そんなはずはないのに、と思っていたら、
12月10日朝刊に、公選法改正に関する記事が載りましたので、
以下に、紹介します
ネット選挙(毎日新聞 2006.12.10)
法改正と海外の現状 各党、解禁へ加速
インターネットを選挙運動に利用する「ネット選挙」解禁の動きが注目されている。米国や韓国などでは、ネットが選挙運動に欠かせない手段になっているが、日本では選挙の公示・告示後のネット利用は認められておらず、政党や政治家のホームページ(HP)の新設・更新もできない。インターネットの普及や昨年の衆院選での大勝を契機に、「ネット選挙」に否定的だった自民党も容認に傾いた。民主党は今年6月、公職選挙法の改正案を国会に提出している。国内の法改正の動きと海外のネット選挙の現状を報告する。【横井信洋】
◇誹謗・中傷懸念、どこまで認める?
ネット解禁を求める民主党の公選法改正案の提出は98年以来4回目となる。今回の法案の取りまとめの中心になった党インターネット選挙活動調査会長の鈴木寛参院議員は「インターネットが普及し、政党や議員も政治活動で政策情報の提供や有権者との意見交換のためにネットを活用している。選挙期間中だけ使えないのはおかしい。有権者の情報収集に役立ち、金のかからない選挙にもつながる」と主張する。
総務省によると、昨年末の国内のインターネット利用者は約8500万人。しかし、現行の公選法では、選挙運動のために配布できる文書図画は、法定ビラなどに限定され、HPやメールは配布禁止の文書図画に当たるとみなされている。
6月に提出した民主党の改正案は、原則としてあらゆるネット利用を解禁する内容になっている。選挙期間中のHPやブログ(日記風簡易型ホームページ)だけでなく、電子メールの利用を認める。政党や候補者本人に加え、第三者によるネット利用の選挙運動も制限しない。
悪用を防ぐため、HPやメールで選挙運動をする際に、氏名やメールアドレスの表示を義務付け、違反者に対する罰則を盛り込んだ。懸念される悪質な誹謗(ひぼう)・中傷の書き込み、ウェブサイトの改変への対応には、名誉棄損罪やプロバイダー責任制限法、不正アクセス禁止法などの適用を想定する。
自民党も昨年末に解禁の方針を打ち出し、今年5月には、選挙制度調査会の作業チーム(世耕弘成座長)がHPやブログに限定して解禁する報告書をまとめた。なりすましが懸念されるため、メールの利用は認めない。現在も調査会での検討が続いている。
鈴木議員は「民主党案がベストだと思うが、作業チームの案でも構わないと自民党に伝えている」と、自民党側の対応を促す。
これに対し、調査会事務局長の後藤田正純衆院議員は「公選法改正の論点はネットの利用だけではない。国政選挙でのマニフェストの配布制限の緩和や電子投票の導入、戸別訪問の解禁などもある」と一括処理を強調する。HPの解禁自体は党内に異論はなく、マニフェストについて参院側や公明党との調整がつけば、年明けの通常国会の早い時期に公選法改正案を提出したいという。
改正案が成立し、施行期日で各党が合意すれば、来夏の参院選からでもネットを利用できる。
総務省の研究会も02年の段階で、第三者も含むHP利用の解禁を認める報告書をまとめている。ただし、メールの利用は認めていない。ブログを想定した議論だったかどうかは確認できないという。
◇苦肉の策でメールマガジン
「激戦の火(ひ)蓋(ぶた)が切って落とされました」
共産党の佐々木憲昭衆院議員は01年9月29日から毎日欠かさず、自身のHP上で活動報告「奮戦記」を掲載している。昨年8月30日の衆院選公示日の奮戦記もこんな書き出しで始まり、期間中も遊説の様子などを書き続けた。HPの更新は公選法違反になるため、HP上で誰でも見られるようにしたのは選挙後だ。ただし、メールマガジンの読者には選挙期間中も連日送り続けた。特定の人を対象にした「事務連絡」としてのメールの利用は認められていることに着目した。
佐々木議員は「選挙戦の終盤に争点について有権者に知ってほしいことも出てくる。中傷はネットの利用にかかわらず以前からあり、悪質なものは刑事告発してきた」とネット利用の解禁を求める。障害者にとっても政策を知る利点があるという。
◇海外で進む利用普及
インターネットの利用方法や頻度には差があるものの、米国をはじめ英国やドイツでは、原則としてネットによる選挙運動の規制はない。
フランスの国民議会選挙では、選挙運動に使うサイトの更新が投票日前日の午前0時から禁止されるなど若干の規制がある。またドイツでは、政府の一部門の政治教育センターが02年の総選挙から有権者向けに政党の政策を比較し、自分の考え方がどの政党に近いかが分かるサイトを開設している。
一方、02年の盧武鉉(ノムヒョン)大統領の誕生にインターネットが大きな役割を果たした韓国では、公職選挙法に詳細な規定が盛り込まれている。HPやメールを利用した選挙運動を認めつつ、ネット広告掲載の申告や虚偽事実の流布の禁止などを定めている。またオーマイニュースをはじめとするインターネット報道の公正さを審議する委員会や、ネット利用の選挙不正を監視するサイバー監視団が設置されている。
◇相手候補批判から資金集めまで 手法、大きく変換へ
◇米国のネット運用
【ワシントン大治朋子】米国の選挙に、もはやインターネットは欠かせない存在だ。特に今回の中間選挙(11月7日投開票)では、各陣営が相手候補の批判にインターネットの動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」を活用する動きが目立った。
東部バージニア州では8月、選挙集会を開いた現職の共和党上院議員、ジョージ・アレン氏が敵情視察でビデオカメラを回していた民主党陣営のボランティア学生(20)=インド系=を見つけ「ようこそマカカ」などと挑発した。マカカは北アフリカやアジアに生息するサルの学術用語で、欧州ではアフリカ移民に対し使われた差別用語だ。
学生は民主党の陣営からアレン氏の言動を撮影するため派遣された「追跡者」(トラッカー)で、発言内容は瞬く間にユーチューブに配信され、閲覧件数は11月初めまでに27万回以上にのぼった。再選が確実視されていたアレン氏はこの事件で支持率を下げ、結局、民主党の候補者に敗れた。
ユーチューブは昨年設立され、無料で投稿、閲覧できる手軽さが人気を呼び1日の閲覧数は全世界で1億回を超すという。
一方、米国ではテレビCMを使った批判広告が選挙の主戦場ともいわれ、今回の中間選挙でも選挙資金の8割近くが投じられた。しかし「実映像」としてインパクトの強いユーチューブの登場で、「金持ちでなければ立候補できない」とされた候補者像を変える可能性も指摘されている。
米国でインターネットの影響力を生かした選挙手法を確立したのは04年の大統領選に向け民主党予備選に出馬したハワード・ディーン元バーモント州知事だった。同氏は洗練されたウェブサイトで人気を集め、インターネットを通じた小口献金で巨額の資金を集めた。インターネットで地域の集会を呼びかける「ミートアップ」という手法も開拓し、インターネットの集金力、動員力を駆使した「草の根運動」(ネットルーツ)を実現した。
では実際にインターネットを通じ政治に参加しているのはどのような人々なのか。米民間調査機関「政治、民主主義とインターネットのための協会」が7800人の回答を得て今年10月発表した調査によると、「政治的なウェブサイトをほぼ毎日見る」と答えたのは9%で、大半が35歳以上の大卒かそれ以上の高学歴の男性だった。さらに別の調査では、サイトが呼びかける選挙活動に参加し、知人などにも呼びかけると回答したのも同様の男性層で「大半が地域のリーダー的存在」と分かった。いずれも予想以上に高い年齢層が「核」をなし、協会のジュリー・ジャーマン副会長は「政治に関心が強く、地域に影響力を持つ人々が末端で運動を広げている」と指摘する。
インターネットを使った選挙運動が米国で広がる背景には、こうした政治への関心の強さ、地域社会とのつながりがあるといえそうだ。
◇ネット選挙解禁、少数意見に触れる機会増える--高瀬淳一・名古屋外国語大教授(情報政治学)の話
以前からインターネット利用の選挙運動を解禁すべきだと主張してきた。その理由は、まず有権者が小さい政党や少数意見に触れる機会が増えるからだ。現在も政治活動の形で政党の政治CMは可能だが、金持ち政党が有利だ。例えば、環境問題について各党や候補者の政策を知りたいといった場合も便利になる。投票率が低い若者の政治参加にもつながる。解禁の範囲は、ホームページなら問題ないが、メールには一定の制約が必要だろう。第三者による書き込みも含め、利用を規制すべきでない。実施して不都合があれば直していけばいい。
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◇ネット選挙解禁案の比較
自民党のチーム案 民主党の提出法案 総務省の研究会報告
HP・ブログ 〇 〇 〇
電子メール × 〇 ×
(毎日新聞 2006年12月10日)
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=========================================================(2006年)
12月10日 法改正と海外の現状 各党、解禁へ加速
5月23日 第12回「ネットは未来を変えるのか」(最終回)
4月13日 第11回 ネットは未来を変えるのか
2月21日 第10回 ネットは行政を変えるのか(その2)
2月13日 第9回 ネットは行政を変えるのか(その1)
1月1日 政治は変わる? 3者座談会
(2005年)
12月13日 第8回 ネットはナショナリズムを増幅させるのか
12月6日 第7回 ネットはナショナリズムを増幅させるのか
11月21日 第6回 ネットはメディアを変えるのか
11月15日 第5回 ネットはメディアを変えるのか
11月8日 第4回 ネットはメディアを変えるのか
10月31日 第3回 ブログは選挙を変えるのか
10月24日 第2回 ブログは選挙を変えるのか
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ここ数年、IT利用者が爆発的にふえているので、
ネットを一律に禁止するのもどうかと思っていましたが、
ネットを解禁にするのなら、当然その制限の根拠になっていた、
「文書図画(とが)の制限」の規制も緩めるのでしょう。
メッセージを有権者に届けたい市民派の候補者にとっては、
情報発信が広がるのは歓迎ですが、法改正が、
「政党や特定の候補者に有利になる」かどうかは、
じっさいの文案を見てみないと分かりません。
自民党や民主党が積極的ということですから、大政党に有利なのでしょう。
先行するアメリカでは
「インターネットの集金力、動員力を駆使した
『草の根運動』(ネットルーツ)を実現した」
そうですから、大政党だけが有利ではなさそうです。
とはいえ、
ネットをしない候補者(有権者)には決定的に不利で、
デジタルデバイド(情報格差)が発生することは間違いなさそうです。
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デジタルデバイド問題解決への試みより
例えばアリゾナ州知事選挙でインターネットでの投票を可能としたことである。これによって投票率は上がったものの、これはインターネットにアクセスできる階層にとってのみのサービス向上であり、逆にアクセスできないものにとっては不利となるというように投票機会の階層別不平等をもたらす結果になったのでは、という指摘がなされている。
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公選法は、選挙の自由(選挙権/被選挙権)をすべての人に
公平に保障するという理念を基本とし、
そのために様々な制限を設けているのですから、
情報にアクセスできるよう問題が起きる前の対応が必要です。
いずれにして、「法は法でもザル法」の使いにくい公選法が、
どのように変わるのかは、個人的には興味深深。
「文書図画(とが)」の理解はただでさえ難解といわれる公選法のこと、
よほどすっきりとさせないと、現場では解釈と運用をめぐって、
かなりの混乱が起きると思います。
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