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信濃毎日新聞と日本経済新聞の社説を紹介します。
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社説:国籍法は違憲 価値観の見直し迫る最高裁 毎日新聞 2008.6.5 家族観や結婚観の変化を加速する契機となるに違いない。結婚していない日本人の父とフィリピン人の母から生まれた子どもの国籍をめぐる訴訟で、最高裁大法廷が下した判決だ。 嫡出子なら国籍を得るのに、非嫡出子が出生後に父から認知されても国籍を得ることができないのは、合理的な理由のない差別だと断じた。最高裁にとって戦後8件目の法規定への違憲判決だ。 事情を知る市民には得心のいく判断だ。不合理極まる差別が生じていたからだ。たとえば原告の1人、マサミ・タピルちゃんは父から出生後に認知されたため日本国籍を取得できず、母と同じフィリピン国籍だった。同じ父母を持つ妹は胎児の時に認知を受けたため、日本国籍を得ている。母子3人は日本で一緒に暮らしているのに、認知時期の違いで外国人扱いされた。さまざまな不利益を被り、母子で強制送還されるケースまであるから、ゆるがせにできぬ問題だった。 注目すべきは、最高裁が時代の変化を敏感に読み取ったことだ。争点の国籍法3条1項について、84年の新設当時は合理性があったとした上で、その後は家族生活や親子関係に関する意識が変化し、実態が多様化した、と強調。父母が結婚しているからわが国との密接な結びつきが認められるとする考えは、今日では必ずしも実態に適合しない、との結論を導いた。 判決はまた、諸外国では非嫡出子への法的な差別を解消させ、自国民との父子関係があれば国籍を取得させるのが潮流、と指摘。子どもの権利条約が出生による差別禁止を規定していることにも言及した。 要するに、くだんの条項は時代遅れで、国際化が進む今、通用しないというのである。 判決の影響は大きい。国会が法改正を迫られるだけでない。社会より一歩遅れるとやゆされる司法府が、家族や親子などに関する意識が変化した、と指摘した事実を、市民一人一人が重く受け止めねばならない。 届け出婚に執着する考え方は、結婚形態の多様化を容認する国際世論に、転換を迫られるかもしれない。少子化対策では、自由な結婚観が重要ともいわれている。子どもの人権を優先すれば、嫡出子と非嫡出子との差別は許されない。相続上の差を認める民法の規定も見直しの対象となる。 だが、重婚にも似た内縁関係まで是とすることには異論もある。今回の判決で5人の裁判官が述べた反対意見も、重視されねばならない。新しいコンセンサスを練り上げるため、慎重な論議が必要だ。 国内外で日本人男性と外国人女性との間に生まれ、認知さえ受けられずにいる子どもたちの存在も忘れてはならない。男性側の不誠実さが悲劇を生むことがないよう、身を律する姿勢も求められている。 毎日新聞 2008年6月5日 0時24分 ----------------------------------------------------------------- 【社説】国籍法違憲 時代読んだ画期的判決 中日新聞 2008年6月5日 「父は日本人なのに、日本国籍が取れないのは憲法違反」。そんなフィリピン人母の子の訴えを最高裁が認めた。「不合理な差別を生んでいる」との重い判決だ。国は是正に早急に乗り出すべきだ。 原告の子どもたちは、国籍法の壁に阻まれた境遇にある。父親が日本人でも、両親が結婚しておらず、出生後に認知された子には、日本国籍を認めない。同法にそう定められているからだ。 最高裁大法廷は、この規定を「法の下の平等」を定めた憲法一四条に反するという画期的な判断を下した。その理由として、「家族生活や親子関係の意識変化や多様化」などを挙げたうえで、婚姻を国籍取得の条件としていることは「今日では実態に適合するとはいえない」とした。子の救済へと強く導く結論だった。 さらに「日本国籍は基本的人権の保障を受けるうえで重要な意味を持つ。差別的な取り扱いで、子のこうむる不利益は看過し難い」とも言及した。 確かに日本国籍がないと、将来、就職にも影響が予想され、成人になって選挙権もない。在留資格のままでは、一定期間ごとに更新手続きをして、許可を得なければならない。不安定な暮らしが続くのだ。子どもの立場を考えた判決といえ、高く評価したい。 国際化や少子高齢化という時代変化をとらえても、意義深いといえよう。厚生労働省の統計でも、国際結婚の割合は一九六五年の0・4%から、二〇〇六年の6・1%になった。外国人妻の場合、フィリピン人との婚姻が増加の一途で、〇六年には約一万二千件にのぼり、各国女性の中で最多だ。 両親が結婚をしないで生まれた子どもは、日本人母の場合は2・1%。外国人母で10・7%と約五倍になる。原告のような、認知を受けつつ、日本国籍のない子どもは、約二万人とも推計される。いずれ成人し、出産することも考えれば、今回の判決が与える影響は、決して小さくはない。 日本が批准した条約でも、出生による差別を禁じた趣旨の規定がある。諸外国でも広く国籍取得を認める方向にある。「憲法の番人」による「違憲判断」の重みを受け止めて、政府や国会は早期に是正に取り組んでほしい。 少子高齢化が進めば、外国人の受け入れの課題も避けては通れないはずだ。社会の変化が激しい時代だ。外国人の国籍取得の緩和にも踏み込んで考えるときだ。 (2008.6.5 中日新聞) |
婚外子の国籍―子どもを救った違憲判断 朝日新聞社説 2008年06月05日(木曜日)付 日本人の証しである日本国籍。それを得るには、父親と母親が結婚しているかどうかにかかわらず、生まれたときに親のいずれかが日本人であればいい。国籍法はこう定めている。 結婚していない外国人の母親から生まれた場合、生まれるまでに日本人の父親が認知していれば問題はない。 問題は、生まれたあとに日本人の父親が認知した場合だ。国籍法では、この場合には両親が結婚していなければ、子どもに国籍を認めない。 フィリピン人の母親から生まれ、そのあと日本人の父親から認知されたが、両親は結婚していない。そうした子どもたち10人が、日本国籍の確認を求めて提訴していた。 最高裁が言い渡した判決は、出生後に認知された子だけに両親の結婚を国籍取得の条件とした国籍法の規定は違憲であり、子どもたちに国籍を与えるというものだった。 従来は親が結婚していることが、その子と国家との密接な結びつきを示す根拠と考えられていた。しかし、家族や親子についての意識も実態も変わった。多くの国で、こうした出生による差別をなくすようにもなった。 判決はこのように理由を述べた。極めて妥当な判断である。 原告の子どもたちは日本で生まれ育ち、日本の学校に通っている。日本人として暮らしているのに、日本国籍がないと、社会生活で様々な不利益がある。原告の一人、マサミさんは(10)は警察官になるのが夢だが、それもかなわない。こうした差別と権利の侵害を放置しておくわけにはいかない。 外国人が母親の場合、生まれる子の1割は婚外子だ。様々な事情があるにしても、父親である日本人の姿勢が批判されるべき場合もあるだろう。 だが、子どもに責任はない。母親の胎内にいるときに父親が認知したり、生まれたあとに両親が結婚したりすればいい、といわれても、子どもにはどうすることもできない。外国人の母親から生まれ、日本国籍を取れない子どもは数万人いるとの推計もある。 最高裁判決で注目されるのは、「差別を受けている人を救うため、法律の解釈によって違憲状態を解消することができる」との判断を示したことだ。国籍法の中で、結婚を条件としている違憲部分を除いて条文を読み直すという方法をとった。 この方法については、今回の判決でも「違憲状態の解消は立法によるべきだ」という反対意見がついた。 だが、国籍法は違憲性がこれまでも指摘されてきたのに、国会や政府は法改正を怠ってきた。法改正を待っていては、救済がさらに遅れる。 違憲立法審査権を絵に描いた餅にしないために工夫をこらした最高裁の姿勢を支持したい。 (2008.6.5 朝日新聞) ------------------------------------------------------------------ 「国籍法」違憲 時代に合わない法を正した (6月5日付・読売社説) 社会の変化に呼応し、法律を柔軟に変えていく必要性が改めて示されたということだろう。 最高裁大法廷は、国籍法の規定を憲法違反とする判決を言い渡した。最高裁が法律の規定を違憲と判断したのは、8例目である。 日本人の父、フィリピン人の母を持つフィリピン国籍の子ども10人が、日本国籍の確認を求めていた。10人はいずれも非嫡出子(婚外子)で、日本で生まれた後、父から認知された。 父が日本人、母は外国人という非嫡出子の場合、生まれる前に父から認知されれば、日本国籍を取得できる。だが、原告のように、認知の時期が生まれた後であると、父母が結婚しない限り、日本国籍は得られない。 父母の結婚を条件とした国籍法の規定に対し、判決は、「合理的理由のない差別」と断じ、憲法が保障する法の下の平等に違反するとした。 「家族生活や親子関係に関する意識の変化や多様化を考慮すれば、今日では実態に適合するとはいえない」とも指摘した。 国際結婚や事実婚、シングルマザーなどが増えている現状を考慮した現実的な判断といえる。 一部の裁判官は、補足意見で、認知の時期により区別することについても、「合理性を説明することは困難」と批判した。この区別によって国籍が異なる姉妹もいる。国籍法の規定は、こうした不自然な状態も招いてきた。 政府は、日本国籍を与えるに当たり、日本と密接な結びつきがあるかどうかを重視している。その考え方自体は当然といえる。 判決も、父母の結婚を、日本と子どもの結びつきを示すものとしたことについて、かつては「相応の理由があった」とした。 法務省は、国籍法の改正を迫られる。日本での居住歴など、我が国との結びつきをはかる新たな尺度を早急に検討しなければならない。国籍の取得を目的とした「偽装認知」の対策も必要になってくるだろう。 同様の境遇の外国籍の子どもは、日本国内に数万人いるともいわれる。今回と同じくフィリピン人の国籍が争われた訴訟で、最高裁は2002年、合憲判断を示し、出生後の認知だけでは日本国籍を認めなかった。 その後6年で最高裁は新しい判断を打ち出した。変化する社会情勢に法律が合致しているかどうか--。そのチェックが最高裁に課せられている重い責務である。 (2008年6月5日01時32分 読売新聞) |
婚外子の国籍 時代に見合った制度に 信濃毎日新聞 6月5日(木) 結婚していない日本人の父親とフィリピン人の母親との間に生まれ、日本国籍がない状態に置かれていた子どもたちの訴えが、最高裁で認められた。 日本国籍取得の壁になっている国籍法の規定を違憲とした上で、原告の日本国籍を認める判決である。遅きに失したものの、画期的な判断だ。 社会情勢の変化に国籍法の規定がついていけず、子どもの人権が置き去りにされてきた。事態を放置してきた政府の責任は重い。判決をしっかりと受け止め、制度の改正を急ぐ必要がある。 訴えていたのは、日本人を父に、フィリピン人を母に持つ男女10人。父親と母親は結婚しておらず、生まれた後、父親から認知されたが、日本国籍が取れないままになっていた。 国籍法3条1項は、母親が外国人で日本人の父親が生後認知した場合には、その後に父母が結婚すれば日本国籍を認め、結婚していなければ認めない。父母の結婚の有無が、子どもの国籍取得を左右する仕組みになっている。 原告は、両親の結婚という事情によって、国籍取得に差が出るのは「法の下の平等」を定めた憲法に反するとし、日本国籍を求めていた。1審は勝訴、2審は逆転敗訴となり、最高裁の判断が注目されていた。 最高裁大法廷は、婚姻を国籍取得の要件とする国籍法の規定を「憲法に反する」とした。「国内、国際的な社会環境の変化に照らせば、婚姻要件は合理的理由のない差別」と結論付けている。 裁判官15人のうち、9人の多数意見である。ほかに3人が「適切な立法作業を怠った」として、国籍法が違憲状態にあるとの意見を示している。いまの国籍法が国際化の流れや家族・親子関係の変化とずれていることを、最高裁が認めた意味は大きい。 原告は、8-14歳の子どもたちである。日本国籍がないことで、学校などで差別された体験もあるという。裁判で勝った喜びはひとしおだろう。 同様のケースの子どもたちは、国内だけで数万人に上るとの推計もある。制度の谷間で、子どもたちがさまざまな不利益を被っている状態を見過ごすわけにいかない。一刻も早く法律を見直し、子どもたちの権利を保障しなければならない。 今回の訴訟が提起した問題の根は深い。従来の家族観や親子観についても、一考を迫るものと受け止めたい。 (2008.6.5 信濃毎日新聞) |
社説2 速やかに国籍法の手直しを (日経ネット 6/5) 父親か母親か、片方でも日本国民であれば、生まれた子は自動的に日本国籍を得る――というのが国籍法の原則だが、例外がある。 法律上結婚していない日本人男性と外国人女性の間に生まれ、認知が出生後になった子だと、両親が結婚しない限り国籍が付与されない。 それを定めた国籍法3条が憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁大法廷は3条の一部が違憲で無効とする判決を下した。 結婚している両親から生まれた嫡出子と、そうでない非嫡出子との間に「合理的な理由のない差別をつける」部分が、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとの判断だ。無効部分を除いた3条を適用して原告に日本国籍を与えるとした法解釈と併せ、評価できる判決だ。 日本の国籍法は、もともと父親が国民であるのを国籍の条件とする父系優先血統主義をとっていた。それを現行の父母両系血統主義に改めたのが1984年の改正である。3条も同じ改正のときに設けた。改正当時、血統主義をとる諸外国の多くが3条と同趣旨の規定を国籍法に入れており、改正によって広がる、国籍を与える範囲に少しでも枠をはめる効果を期待した条項と考えられる。 四半世紀がたった現在、国内外とも事情は随分変わった。 嫡出子と非嫡出子を法律上なるべく平等に扱うことに大多数の国民は賛成するだろうし、認知だけを条件として「父が日本人、母が外国人」の非嫡出子にも嫡出子と同様に国籍を与えるようにしても、抵抗を感じる国民は少ないだろう。 外国でも、3条と同趣旨の規定をもっていた国々のほとんどが規定をなくした。 大法廷判決は「3条の規定は改正当時には一定の合理性があった。しかしその後の我が国における家族生活や親子関係の意識の変化、実態の多様化の中で合理的な根拠を失った」旨、指摘している。 国境を越えた人の行き来は増えるばかりだ。労働力として外国人女性を積極的に迎え入れる必要も高まっている。国籍法3条を適用される例は、これからも増加するだろう。国会は、違憲とされた部分を速やかに手直ししなければならない。 (2008.6.5 日本経済新聞) |
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