みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

国籍法違憲最高裁判決~毎日、中日、朝日、読売、日経、信濃毎日、各社の【社説】-3

2008-06-05 22:18:05 | ほん/新聞/ニュース
国籍法違憲最高裁判決で、今日、三つ目の記事です。

購読している新聞4社、毎日、中日、朝日、読売と、
信濃毎日新聞と日本経済新聞の社説を紹介します。

字数が上限いっぱいなので、余計なコメントはなしでご覧ください。

 社説:国籍法は違憲 価値観の見直し迫る最高裁
毎日新聞 2008.6.5

 家族観や結婚観の変化を加速する契機となるに違いない。結婚していない日本人の父とフィリピン人の母から生まれた子どもの国籍をめぐる訴訟で、最高裁大法廷が下した判決だ。
 嫡出子なら国籍を得るのに、非嫡出子が出生後に父から認知されても国籍を得ることができないのは、合理的な理由のない差別だと断じた。最高裁にとって戦後8件目の法規定への違憲判決だ。
 事情を知る市民には得心のいく判断だ。不合理極まる差別が生じていたからだ。たとえば原告の1人、マサミ・タピルちゃんは父から出生後に認知されたため日本国籍を取得できず、母と同じフィリピン国籍だった。同じ父母を持つ妹は胎児の時に認知を受けたため、日本国籍を得ている。母子3人は日本で一緒に暮らしているのに、認知時期の違いで外国人扱いされた。さまざまな不利益を被り、母子で強制送還されるケースまであるから、ゆるがせにできぬ問題だった。
 注目すべきは、最高裁が時代の変化を敏感に読み取ったことだ。争点の国籍法3条1項について、84年の新設当時は合理性があったとした上で、その後は家族生活や親子関係に関する意識が変化し、実態が多様化した、と強調。父母が結婚しているからわが国との密接な結びつきが認められるとする考えは、今日では必ずしも実態に適合しない、との結論を導いた。
 判決はまた、諸外国では非嫡出子への法的な差別を解消させ、自国民との父子関係があれば国籍を取得させるのが潮流、と指摘。子どもの権利条約が出生による差別禁止を規定していることにも言及した。
 要するに、くだんの条項は時代遅れで、国際化が進む今、通用しないというのである。
 判決の影響は大きい。国会が法改正を迫られるだけでない。社会より一歩遅れるとやゆされる司法府が、家族や親子などに関する意識が変化した、と指摘した事実を、市民一人一人が重く受け止めねばならない。
 届け出婚に執着する考え方は、結婚形態の多様化を容認する国際世論に、転換を迫られるかもしれない。少子化対策では、自由な結婚観が重要ともいわれている。子どもの人権を優先すれば、嫡出子と非嫡出子との差別は許されない。相続上の差を認める民法の規定も見直しの対象となる。
 だが、重婚にも似た内縁関係まで是とすることには異論もある。今回の判決で5人の裁判官が述べた反対意見も、重視されねばならない。新しいコンセンサスを練り上げるため、慎重な論議が必要だ。
 国内外で日本人男性と外国人女性との間に生まれ、認知さえ受けられずにいる子どもたちの存在も忘れてはならない。男性側の不誠実さが悲劇を生むことがないよう、身を律する姿勢も求められている。
毎日新聞 2008年6月5日 0時24分
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【社説】国籍法違憲 時代読んだ画期的判決 
中日新聞 2008年6月5日

 「父は日本人なのに、日本国籍が取れないのは憲法違反」。そんなフィリピン人母の子の訴えを最高裁が認めた。「不合理な差別を生んでいる」との重い判決だ。国は是正に早急に乗り出すべきだ。
 原告の子どもたちは、国籍法の壁に阻まれた境遇にある。父親が日本人でも、両親が結婚しておらず、出生後に認知された子には、日本国籍を認めない。同法にそう定められているからだ。
 最高裁大法廷は、この規定を「法の下の平等」を定めた憲法一四条に反するという画期的な判断を下した。その理由として、「家族生活や親子関係の意識変化や多様化」などを挙げたうえで、婚姻を国籍取得の条件としていることは「今日では実態に適合するとはいえない」とした。子の救済へと強く導く結論だった。
 さらに「日本国籍は基本的人権の保障を受けるうえで重要な意味を持つ。差別的な取り扱いで、子のこうむる不利益は看過し難い」とも言及した。
 確かに日本国籍がないと、将来、就職にも影響が予想され、成人になって選挙権もない。在留資格のままでは、一定期間ごとに更新手続きをして、許可を得なければならない。不安定な暮らしが続くのだ。子どもの立場を考えた判決といえ、高く評価したい。
 国際化や少子高齢化という時代変化をとらえても、意義深いといえよう。厚生労働省の統計でも、国際結婚の割合は一九六五年の0・4%から、二〇〇六年の6・1%になった。外国人妻の場合、フィリピン人との婚姻が増加の一途で、〇六年には約一万二千件にのぼり、各国女性の中で最多だ。
 両親が結婚をしないで生まれた子どもは、日本人母の場合は2・1%。外国人母で10・7%と約五倍になる。原告のような、認知を受けつつ、日本国籍のない子どもは、約二万人とも推計される。いずれ成人し、出産することも考えれば、今回の判決が与える影響は、決して小さくはない。
 日本が批准した条約でも、出生による差別を禁じた趣旨の規定がある。諸外国でも広く国籍取得を認める方向にある。「憲法の番人」による「違憲判断」の重みを受け止めて、政府や国会は早期に是正に取り組んでほしい。
 少子高齢化が進めば、外国人の受け入れの課題も避けては通れないはずだ。社会の変化が激しい時代だ。外国人の国籍取得の緩和にも踏み込んで考えるときだ。 (2008.6.5 中日新聞)



婚外子の国籍―子どもを救った違憲判断
朝日新聞社説 2008年06月05日(木曜日)付

  日本人の証しである日本国籍。それを得るには、父親と母親が結婚しているかどうかにかかわらず、生まれたときに親のいずれかが日本人であればいい。国籍法はこう定めている。
 結婚していない外国人の母親から生まれた場合、生まれるまでに日本人の父親が認知していれば問題はない。
 問題は、生まれたあとに日本人の父親が認知した場合だ。国籍法では、この場合には両親が結婚していなければ、子どもに国籍を認めない。
 フィリピン人の母親から生まれ、そのあと日本人の父親から認知されたが、両親は結婚していない。そうした子どもたち10人が、日本国籍の確認を求めて提訴していた。
 最高裁が言い渡した判決は、出生後に認知された子だけに両親の結婚を国籍取得の条件とした国籍法の規定は違憲であり、子どもたちに国籍を与えるというものだった。
 従来は親が結婚していることが、その子と国家との密接な結びつきを示す根拠と考えられていた。しかし、家族や親子についての意識も実態も変わった。多くの国で、こうした出生による差別をなくすようにもなった。
 判決はこのように理由を述べた。極めて妥当な判断である。
 原告の子どもたちは日本で生まれ育ち、日本の学校に通っている。日本人として暮らしているのに、日本国籍がないと、社会生活で様々な不利益がある。原告の一人、マサミさんは(10)は警察官になるのが夢だが、それもかなわない。こうした差別と権利の侵害を放置しておくわけにはいかない。
 外国人が母親の場合、生まれる子の1割は婚外子だ。様々な事情があるにしても、父親である日本人の姿勢が批判されるべき場合もあるだろう。
 だが、子どもに責任はない。母親の胎内にいるときに父親が認知したり、生まれたあとに両親が結婚したりすればいい、といわれても、子どもにはどうすることもできない。外国人の母親から生まれ、日本国籍を取れない子どもは数万人いるとの推計もある。
 最高裁判決で注目されるのは、「差別を受けている人を救うため、法律の解釈によって違憲状態を解消することができる」との判断を示したことだ。国籍法の中で、結婚を条件としている違憲部分を除いて条文を読み直すという方法をとった。
 この方法については、今回の判決でも「違憲状態の解消は立法によるべきだ」という反対意見がついた。
 だが、国籍法は違憲性がこれまでも指摘されてきたのに、国会や政府は法改正を怠ってきた。法改正を待っていては、救済がさらに遅れる。
 違憲立法審査権を絵に描いた餅にしないために工夫をこらした最高裁の姿勢を支持したい。
(2008.6.5 朝日新聞)
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「国籍法」違憲 時代に合わない法を正した 
(6月5日付・読売社説)

 社会の変化に呼応し、法律を柔軟に変えていく必要性が改めて示されたということだろう。
 最高裁大法廷は、国籍法の規定を憲法違反とする判決を言い渡した。最高裁が法律の規定を違憲と判断したのは、8例目である。
 日本人の父、フィリピン人の母を持つフィリピン国籍の子ども10人が、日本国籍の確認を求めていた。10人はいずれも非嫡出子(婚外子)で、日本で生まれた後、父から認知された。
 父が日本人、母は外国人という非嫡出子の場合、生まれる前に父から認知されれば、日本国籍を取得できる。だが、原告のように、認知の時期が生まれた後であると、父母が結婚しない限り、日本国籍は得られない。
 父母の結婚を条件とした国籍法の規定に対し、判決は、「合理的理由のない差別」と断じ、憲法が保障する法の下の平等に違反するとした。
 「家族生活や親子関係に関する意識の変化や多様化を考慮すれば、今日では実態に適合するとはいえない」とも指摘した。
 国際結婚や事実婚、シングルマザーなどが増えている現状を考慮した現実的な判断といえる。
 一部の裁判官は、補足意見で、認知の時期により区別することについても、「合理性を説明することは困難」と批判した。この区別によって国籍が異なる姉妹もいる。国籍法の規定は、こうした不自然な状態も招いてきた。
 政府は、日本国籍を与えるに当たり、日本と密接な結びつきがあるかどうかを重視している。その考え方自体は当然といえる。
 判決も、父母の結婚を、日本と子どもの結びつきを示すものとしたことについて、かつては「相応の理由があった」とした。
 法務省は、国籍法の改正を迫られる。日本での居住歴など、我が国との結びつきをはかる新たな尺度を早急に検討しなければならない。国籍の取得を目的とした「偽装認知」の対策も必要になってくるだろう。
 同様の境遇の外国籍の子どもは、日本国内に数万人いるともいわれる。今回と同じくフィリピン人の国籍が争われた訴訟で、最高裁は2002年、合憲判断を示し、出生後の認知だけでは日本国籍を認めなかった。
 その後6年で最高裁は新しい判断を打ち出した。変化する社会情勢に法律が合致しているかどうか--。そのチェックが最高裁に課せられている重い責務である。
(2008年6月5日01時32分 読売新聞)



婚外子の国籍 時代に見合った制度に
信濃毎日新聞 6月5日(木)

 結婚していない日本人の父親とフィリピン人の母親との間に生まれ、日本国籍がない状態に置かれていた子どもたちの訴えが、最高裁で認められた。
 日本国籍取得の壁になっている国籍法の規定を違憲とした上で、原告の日本国籍を認める判決である。遅きに失したものの、画期的な判断だ。
 社会情勢の変化に国籍法の規定がついていけず、子どもの人権が置き去りにされてきた。事態を放置してきた政府の責任は重い。判決をしっかりと受け止め、制度の改正を急ぐ必要がある。
 訴えていたのは、日本人を父に、フィリピン人を母に持つ男女10人。父親と母親は結婚しておらず、生まれた後、父親から認知されたが、日本国籍が取れないままになっていた。
 国籍法3条1項は、母親が外国人で日本人の父親が生後認知した場合には、その後に父母が結婚すれば日本国籍を認め、結婚していなければ認めない。父母の結婚の有無が、子どもの国籍取得を左右する仕組みになっている。
 原告は、両親の結婚という事情によって、国籍取得に差が出るのは「法の下の平等」を定めた憲法に反するとし、日本国籍を求めていた。1審は勝訴、2審は逆転敗訴となり、最高裁の判断が注目されていた。
 最高裁大法廷は、婚姻を国籍取得の要件とする国籍法の規定を「憲法に反する」とした。「国内、国際的な社会環境の変化に照らせば、婚姻要件は合理的理由のない差別」と結論付けている。
 裁判官15人のうち、9人の多数意見である。ほかに3人が「適切な立法作業を怠った」として、国籍法が違憲状態にあるとの意見を示している。いまの国籍法が国際化の流れや家族・親子関係の変化とずれていることを、最高裁が認めた意味は大きい。
 原告は、8-14歳の子どもたちである。日本国籍がないことで、学校などで差別された体験もあるという。裁判で勝った喜びはひとしおだろう。
 同様のケースの子どもたちは、国内だけで数万人に上るとの推計もある。制度の谷間で、子どもたちがさまざまな不利益を被っている状態を見過ごすわけにいかない。一刻も早く法律を見直し、子どもたちの権利を保障しなければならない。
 今回の訴訟が提起した問題の根は深い。従来の家族観や親子観についても、一考を迫るものと受け止めたい。
(2008.6.5 信濃毎日新聞)



社説2 速やかに国籍法の手直しを
(日経ネット 6/5)
 父親か母親か、片方でも日本国民であれば、生まれた子は自動的に日本国籍を得る――というのが国籍法の原則だが、例外がある。
 法律上結婚していない日本人男性と外国人女性の間に生まれ、認知が出生後になった子だと、両親が結婚しない限り国籍が付与されない。
 それを定めた国籍法3条が憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁大法廷は3条の一部が違憲で無効とする判決を下した。
 結婚している両親から生まれた嫡出子と、そうでない非嫡出子との間に「合理的な理由のない差別をつける」部分が、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとの判断だ。無効部分を除いた3条を適用して原告に日本国籍を与えるとした法解釈と併せ、評価できる判決だ。
 日本の国籍法は、もともと父親が国民であるのを国籍の条件とする父系優先血統主義をとっていた。それを現行の父母両系血統主義に改めたのが1984年の改正である。3条も同じ改正のときに設けた。改正当時、血統主義をとる諸外国の多くが3条と同趣旨の規定を国籍法に入れており、改正によって広がる、国籍を与える範囲に少しでも枠をはめる効果を期待した条項と考えられる。
 四半世紀がたった現在、国内外とも事情は随分変わった。
 嫡出子と非嫡出子を法律上なるべく平等に扱うことに大多数の国民は賛成するだろうし、認知だけを条件として「父が日本人、母が外国人」の非嫡出子にも嫡出子と同様に国籍を与えるようにしても、抵抗を感じる国民は少ないだろう。
 外国でも、3条と同趣旨の規定をもっていた国々のほとんどが規定をなくした。
 大法廷判決は「3条の規定は改正当時には一定の合理性があった。しかしその後の我が国における家族生活や親子関係の意識の変化、実態の多様化の中で合理的な根拠を失った」旨、指摘している。
 国境を越えた人の行き来は増えるばかりだ。労働力として外国人女性を積極的に迎え入れる必要も高まっている。国籍法3条を適用される例は、これからも増加するだろう。国会は、違憲とされた部分を速やかに手直ししなければならない。
(2008.6.5 日本経済新聞)




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婚姻要件の国籍法規定は違憲/子どもの願い、応えた国籍法違憲判決(毎日新聞)-2

2008-06-05 16:32:23 | ほん/新聞/ニュース
前の記事の続きです。

昨日から、いち早くwebに速報をアップしたのは、毎日新聞。
一面はもちろん、社会面もこの日のために取材をしていたという感じです。

通常、二審判決が敗訴で、最高裁の法廷が開かれる、
という場合、高裁判決が見直される可能性が大なのです。
特に今回のケースは「大法廷」ですから、違憲判決は「想定内」。
ということで、
各社を読み比べてみましたが、中日もいいけど毎日もよいです。
記事を書いていらっしゃる北村和巳さんは、
以前、岐阜支局に見えた優秀な記者さんです。


婚外子:婚姻要件の国籍法規定は違憲 最高裁大法廷判決 
2008.6,4 毎日新聞

 結婚していない日本人父とフィリピン人母10組の間に生まれた子ども10人が、国に日本国籍の確認を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・島田(仁郎、に、ろう)長官)は4日、出生後の国籍取得に両親の婚姻を必要とする国籍法の規定を違憲と初判断した。大法廷は「遅くとも国籍取得を届け出た03年には、規定は合理的理由のない差別を生じさせ、法の下の平等を定めた憲法に反する」と述べ、10人全員の日本国籍を確認した。(社会面に関連記事、9面に判決要旨)

 最高裁が法律の規定を違憲としたのは、在外邦人の選挙権を制限した公職選挙法を巡る訴訟の判決(05年9月)以来で8件目。国会は早急な法改正を迫られる。
 国籍法3条1項は、未婚の日本人父と外国人母の子について、父の出生後認知と両親の婚姻の両方を日本国籍取得の条件とする。原告は関東地方などに住む8~14歳で、父の認知を得て03~05年に国籍取得を届け出たが、認められなかった。
 大法廷は、同項が設けられた84年当時は規定に合理性があったが、その後の家族生活や親子関係の意識変化、多様化で、立法目的にそぐわなくなっていると指摘。「国籍取得は基本的人権の保障を受ける上で重大な意味を持ち、不利益は見過ごせない」と述べた。
 国側は「出生後認知のみで国籍を取得できるとするのは、裁判所が新たな制度を設けることになり、立法権の侵害だ」と主張。大法廷は「原告の救済の観点から、婚姻要件を除いた部分を満たせば国籍取得を認めるというのが合憲的解釈」と退けた。
 裁判官15人中12人が違憲と判断し、このうち9人が多数意見。藤田(宙靖、とき、やす)、甲斐中辰夫、堀籠幸男の3裁判官は、原告の国籍取得を認める規定がない立法不作為を違憲とした。藤田裁判官は「現行法の拡張解釈で救済できる」として日本国籍を認めたが、甲斐中、堀籠両裁判官は「違憲状態の解消は国会に委ねるべきだ」と反対意見を述べた。
 横尾和子、津野修、古田佑紀の3裁判官は「家族の生活状況に顕著な変化があるとは思われず、規定には合理性があり合憲」と反対意見を述べた。
 1審は違憲判断し10人の日本国籍を認めたが、2審は憲法判断をせずに原告逆転敗訴としていた。【北村和巳】

 ◆判決のポイント◆
 ▽婚姻の有無で国籍取得を区別する国籍法3条1項は、遅くとも03年当時には合理的な理由のない差別として憲法に違反する
 ▽出生後認知された子は、同項が定める要件のうち、両親の婚姻以外が満たされれば国籍取得が認められる。原告は取得届提出で日本国籍を取得した

 【ことば】日本国籍の取得 国籍法2条は出生時に法律上の父か母が日本人なら子は日本国籍を取得すると定める。母が日本人ならば無条件に子は日本国籍。日本人父と外国人母の子の場合は、出生時に両親が結婚しているか、未婚でも妊娠中に父が認知していれば日本国籍を取得する。一方、生後認知された婚外子は3条1項の規定で、20歳までに両親が結婚し嫡出子の立場を得た場合に限って法相への届け出で日本国籍を取得できる。この場合、外国籍と日本国籍の二つを持つことになり、22歳までに国籍を選択しなければならない。

 ▽原告側代理人の話 不合理な差別を正面から違憲と認め、高く評価できる。同じ境遇にある多くの子どもたちに希望を与える。
 ▽鳩山邦夫法相の話 国籍法の規定が憲法違反とされたことは厳粛に受け止めている。判決内容を十分に検討して適切に対応したい。

 ◇実情踏まえた判断
 棚村政行・早稲田大大学院教授(家族法)の話 画期的な判決で、婚外子差別を禁じた国際人権B規約や子どもの権利条約を尊重した判断だ。価値観の多様化やグローバル化の中で国際的な家族が増えている日本の実情を踏まえている点も妥当。重要な権利でもある国籍について、結婚しているかどうかという親の事情で差別するのは問題だ。婚外子差別の合理性を問う判決で、民法の相続分の差別などにも大きな影響を与えるだろう。

 ◇家族巡る法制度に影響
 最高裁判決は、民法と同様に法律婚による「家族の結びつき」を重視する国籍法の見直しを迫った。最高裁が婚外子差別を違憲と判断したのは初めてで、家族を巡る法制度にも影響を与える可能性がある。
 夫婦別姓など家族関係の価値観は多様化している。事実婚や婚外子の増加で婚外子差別の見直しを求める声が高まり、住民票や戸籍では婚外子を区別する記載が撤廃された。
 一方で、国籍法の差別規定は維持されてきた。日本人父・外国人母の婚外子で国籍が認められない子どもたちは国内に数万人、海外にも相当数いるとの試算もある。国籍がなければ参政権を得られず、就職や日本在留でも制限を受ける。同法の規定は違憲との学説が有力になっていた。
 判決は救済の道を開いたが、直ちに婚姻要件が無効になるわけではない。原告と同じ境遇の子どもが法務局に届け出ても自動的に国籍は認められないとみられ、法務省は「窓口で混乱が起きないよう対処したい」と話す。同省は法改正に向けた検討を始めたが、どこまでさかのぼって救済するかや婚姻以外の要件を盛り込むかなどが議論になるだろう。
 婚外子差別では、遺産相続を嫡出子の半分とする民法の規定が残る。法制審議会は96年、相続分を同一にするよう法相に答申したが、たなざらしのままだ。最高裁判決の意味は重く、相続規定の論議が再燃するのは必至だ。【北村和巳、坂本高志】
毎日新聞 2008年6月4日 16時08分


社会面の
「婚外子国籍確認訴訟:国籍法違憲判決(その1) 子どもの願い、応えた」は、
中部本社版(岐阜)でも見つけたのですが、
{婚外子国籍確認訴訟:国籍法違憲判決(その2) 家族の結びつき、重い」は、
我が家に届いた新聞では見当たらず、東京本社版のようです。
今日の夕刊に載るかもしれません。

婚外子国籍確認訴訟:国籍法違憲判決(その1) 子どもの願い、応えた

 ◇夢じゃない?やっと日本人 
 日本人と認めてほしい--素朴で当然の願いに、司法が応えた。日本人父と外国人
母の婚外子に国籍を認めない法の規定を違憲と断じた4日の最高裁判決。日本人の血
が流れ、日本で生まれ育ち、日本語を話しながら、日本国籍を認められなかった子ど
もたち。判決後、母と一緒に抱き合って涙を浮かべ、はじけるような笑顔をみせた。
【北村和巳、銭場裕司】

 原告の子どもたちは母とともに傍聴席で判決を聞いた。主文の意味を弁護団から知
らされると大きな拍手がわき起こり、東海地方に住む原告のマサミさん(10)=小
学5年=は「マジで勝ったの? 夢じゃない?」と笑った。
 母ロサーナさん(43)は88年にフィリピンから来日し、仕事で知り合った日本
人男性との間にマサミさんが生まれた。1年後、父の認知が得られ市役所に「正美」
の名で出生届を出した。担当者は「日本国籍ではない」と冷たくローマ字への書き直
しを命じた。
 「何で私は日本人じゃないの?」。小学2年のころ、マサミさんは日本国籍でない
ことを知って驚き、泣いた。「外国人」と友達にからかわれ、「学校に行きたくな
い。転校したい」と漏らしたこともあった。
 妹の直美ちゃん(6)=小学1年=は、出生前に父の認知を受けたため日本国籍。
同じ両親を持つのに、国籍法の規定が姉妹の境遇を冷たく分けた。「私は日本人と呼
ばれたい。妹と同じ国籍になりたい」。控訴審の法廷でマサミさんは訴えた。
 日本国籍が必要な警察官になる夢を持つマサミさん。判決後の会見で「うれしくて
言葉にできない。日本人でしかかなえられない夢をかなえたい」と笑顔をみせた。直
美ちゃんも「お姉ちゃんと一緒の国籍になってうれしい」とほほ笑んだ。
 同じく日本国籍が認められたジュリアンさん(14)の母チャーレッテさん(4
6)は「親の都合で結婚しないで子供を産んで、娘に申し訳ない気持ちでいっぱいで
した。今日やっと日本人になって幸せで安心です」とほっとした表情をみせた。

 ◇実情踏まえた判断--棚村政行・早稲田大大学院教授(家族法)の話 
 画期的な判決で、婚外子差別を禁じた国際人権B規約や子どもの権利条約を尊重し
た判断だ。価値観の多様化やグローバル化の中で国際的な家族が増えている日本の実
情を踏まえている点も妥当。重要な権利でもある国籍について、結婚しているかどう
かという親の事情で差別するのは問題だ。婚外子差別の合理性を問う判決で、民法の
相続分の差別などにも大きな影響を与えるだろう。

 ◇国籍取りに行きたい--マニラ在住の母子も歓迎 
 【マニラ矢野純一】フィリピンでも判決を歓迎する声が上がった。「すぐにでもこ
の子を(国籍取得のため)日本に連れて行きたい」。マニラ近郊に住むエロイサ・ス
エリイラさん(37)はリュウタロウ君(6)の手を握りしめた。
 01年に興行ビザで日本に渡り、常連客の日本人男性(59)と知り合い、妊娠し
た。ビザの期限切れ前に帰国し、リュウタロウ君を出産した。しかし、男性の妻は離
婚に同意せず、男性は子供の認知だけしかできなかった。
 「今の生活を抜け出したい」とエロイサさん。実家に居候する代わりに、両親や兄
弟の子供ら計10人の食事や身の回りの世話をする生活だ。自由に使える金もなく、
肩身の狭い暮らしをしている。
 エロイサさんが、日本行きを希望するもう一つの理由を話してくれた。今年1月電
話で男性ががんを患い余命1年と知った。「子供の将来と男性のためにも早く日本行
きが実現できれば」と話した。
 フィリピンのNPO「新日系人ネットワーク」の川平健一専務理事によると、同国
内で確認できた日本人とフィリピン人の間に生まれた子供は約700人。うち約2割
は父母が婚姻していないが、フィリピンの出生証明書には日本人父の名前があるとい
う。
毎日新聞 2008年6月5日 東京朝刊
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婚外子国籍確認訴訟:国籍法違憲判決(その2) 家族の結びつき、重い

 ◇「婚姻要件」主要国では異例 
 国籍制度には、親と同じ国籍を得る「血統主義」と、生まれた国の国籍を得る「生
地主義」がある。日本は血統主義を採用し、単純な「血のつながり」だけでなく家族
の結びつきを重視してきた。
 1950年施行の国籍法は父系優先主義で、出生時に日本人父と法律上の親子関係
がある子は国籍を得るが、日本人母と外国人父の子には「帰化」しか認めていなかっ
た。84年に法改正され、現行の父母両系主義が採用された。外国人定住者や国際結
婚の増加も背景にあり、日本人母と外国人父の子に常に国籍が認められるようになっ
た。
 この際に設けられたのが3条1項で、両親の婚姻が出生の前か後かで日本人父の子
の国籍に差が生じないようにするためだった。しかし、生後認知の子を婚姻の有無で
区別することには、国会審議でも疑問が示され、国連子どもの権利委員会が懸念を表
明した。
 国は「父母が婚姻している子の方が父とのつながりが強く、法律婚尊重主義が国民
感情に沿う」と説明。(1)父の認知があれば「帰化」の許可条件が緩和される
(2)婚姻要件を外すと、不法滞在の外国人母が偽装認知で子の日本国籍を得て、違
法に在留特別許可を受けるケースが増える--とも主張した。
 主要国のうち、日本と同様に血統主義を採用しているのはフランス、ドイツ、イタ
リア、ベルギーなどだが、婚姻要件は必要としていない。米国やオーストラリアなど
は生地主義を採用している。

 ◇「多様化」を考慮 
 国籍法3条1項の規定を巡っては、最高裁第2小法廷が02年に出した判決でも、
合憲性に強い疑問が示されていた。今回と同様に、婚姻関係のない日本人父とフィリ
ピン人母の子が日本国籍を求めた訴訟で、小法廷は請求を退けたものの、5人中3人
の裁判官が補足意見で3条の規定を疑問視した。
 うち2人は「国際化と価値観の多様化で家族の在り方は一様でなく、婚姻で親子関
係の緊密さを判断するのは現実に合わない」と、違憲の疑いが極めて濃いと指摘し
た。別の1人も「合理性に疑問がある」と述べた。
 今回の大法廷判決はこの判断に沿ったものとも言え、「家族生活や親子関係に関す
る意識の変化やその実態の多様化を考慮すれば、日本人父と外国人母の子が、両親の
婚姻で日本との密接な結びつきを認められるというのは、現在の実態に合わない」と
指摘している。
 さらに(1)諸外国は婚外子への差別を解消したり、認知による父子関係成立で国
籍を認めている(2)同じ婚外子でも、出生前に認知されていれば国籍が認められる
--ことも違憲判断の理由とした。
 判決は裁判官15人中9人の多数意見だが、国籍法がもたらす婚外子差別の憲法判
断では、「違憲」が12人で「合憲」の3人を大きく上回った。婚外子差別が問題視
される中、司法も社会情勢や国際的な潮流を意識したとみられる。
毎日新聞 2008年6月5日 



記事はまだまだつづきます。

毎日新聞は、関連の記事が多いので、社説と解説は、
各社のきょうの【社説】の記事といっしょに紹介します。


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最高裁違憲判決!!国籍法の差別は違憲と日本国籍認める(中日/共同)-1

2008-06-05 09:03:40 | ほん/新聞/ニュース

昨日、フィリピン人の母と「結婚してない」日本人の父から生まれ、
出生後に認知された10人の子どもたちが、
「日本国籍を取得できないのは違憲」として国を訴えていた上告審で、
最高裁が、「両親が結婚していないことを理由に日本国籍を認めない
国籍法の規定は不合理な差別で、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」
との初判断を示しました。

夕刊には間に合わなかったようですが、TVでは大きく扱っていました。
以下は、6時からのNHKニュースです。
  

  

  


わたしも7年前同じ状況のフィリピン人女性のアリシアさんと子どもたちを
2ヶ月ほど受け入れていたことがあるので、とてもうれしいです。
名古屋の友人は、今回の母子をサポートしています。

個人的なわたしの、市民「論」~寺町みどり/
『ことばは届くか』上野千鶴子 (2007.11.4)


一夜明けて、新聞各紙には一面や社会面に大きな記事。
これから、関連の朝刊記事を、順番に紹介します。
まずは、中日新聞から。

【社会】国籍法の婚外子差別違憲 最高裁、日本国籍認める 
中日新聞 2008年6月5日 朝刊

国籍法の規定を憲法違反とした判決を受け、大喜びで最高裁を後にする母子=4日午後

 結婚していない日本人の父とフィリピン人の母から生まれ、出生後に父に認知された子どもたちが、日本国籍を取得できないのは違憲として国を訴えた2件の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・島田仁郎(にろう)長官)は4日、「両親が結婚していないことを理由に日本国籍を認めない国籍法の規定は不合理な差別で、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」との判断を示し、2審判決を破棄、10人の原告全員に日本国籍を認めた。
 国籍法の規定を違憲とした最高裁判決は初めて。大法廷の違憲判決は、海外に住む日本人の選挙権を制限する公職選挙法を違憲とした2005年9月以来、戦後8件目。
 結婚していない日本人の父と外国人の母から生まれた子(婚外子)が日本国籍を取得するには、出生後認知の場合、父母の結婚が要件とされる。裁判では国籍法のこの要件が違憲かどうかが争点となり、大法廷は違憲無効と判断した。国会は法改正へ早急な対応を迫られる。
 15裁判官のうち9人の多数意見。ほかに3人が「適切な立法作業を怠った」と、立法不作為による違憲状態と判断したが、うち2人は立法措置での対応を求めて請求を退けるよう主張。合憲と判断したのは行政官出身の横尾和子裁判官ら3人だった。
 多数意見は、両親の結婚要件は1984年の法改正当時は合理的だったとしたが、家族生活や親子関係の意識が変わり、実態も多様化したことを踏まえ▽婚外子差別を禁じる条約を日本が批准▽諸外国は同様の要件を廃止-など社会的変化を指摘。原告らが国籍取得届を出した03年当時には、要件の合理性は失われていたと判断した。
 さらに「国籍取得は基本的人権の保障に重大な意味があり、子の不利益は見過ごせない」と言及。「同じ婚外子でも胎児認知や日本人の母から生まれた子には国籍が認められていることを考えれば、日本人の父の婚外子にだけ国籍を認めないのは不合理な差別で違憲」と結論付けた。
 上告していたのは、関東と東海地方に住んでいる8-14歳の子ども10人。法務局に国籍取得を届けたが、受理されず提訴した。
 1審の東京地裁はいずれも「国籍法の規定は違憲」として日本国籍を認め、原告側が勝訴。しかし2審の東京高裁は憲法判断をせず、原告側の逆転敗訴とした。
(中日新聞 2008.6.5)
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【社会】 婚外子訴訟逆転勝訴 『これ、夢だよね』 
中日新聞 2008年6月5日 07時07分

 出廷した十四人の裁判官が退出し壇上の扉が閉まると、大法廷を埋めた原告や支持者に拍手が広がった。親の事情で日本国籍が得られず、差別され続けた子どもたちに四日、国籍取得の道を開いた最高裁大法廷判決。「これ、夢だよね」。原告の女の子は喜びのあまり、信じられないという表情を見せた。数万人に上るとされる同じ境遇の子どもたちに、ようやく光が差す。
 「すごくうれしくて言葉にできない」。日本国籍の取得が認められた子どもたちは判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見。こぼれそうな笑みを浮かべたり、目を潤ませたりしながら、裁判を戦ってきた母親や支援者らに謝意を表した。
 可能性が広がった子どもたちの将来。小学五年マサミ・タピルさん(10)は「日本人でしかかなえられない夢。警察官になりたい」とほおを緩め、時折涙ぐんでいた中学三年ジュリアン・チットゥムさん(14)が「結婚が楽しみになった」と照れると、母親のチャーレッテさん(46)が「まだ十四歳だよ」とたしなめ、笑いを誘った。
 女優になりたいという小学六年ジェイサ・アンティキエラさん(11)は「私のために頑張ってくれてありがとう」と母親への感謝の言葉を口にした。会見の終わりには、子どもと母親らがフィリピンのタガログ語で「フィリピン人移民、万歳」と心を一つにするように声を上げた。

■国籍法の改正 法務省検討へ
 「真正面から違憲と言われたものをそのままには…」。父母が結婚していないことを理由に日本国籍を認めないとした国籍法の規定を憲法違反とした四日の最高裁大法廷判決の判断を受け、法務省は法改正を含め検討に乗り出した。
 ただすぐに法改正できるわけではない。今回の原告と同様に日本国籍ではない子どもは数万人いるとされるが、現時点で国籍取得申請をしても法務局では当面、窓口で申請書を預かるしかないとみられる。
 最高裁で一九七三年に違憲判決が出た尊属殺人罪の規定は、九五年の刑法改正で削除されるまで条文上は残っていた。「尊属殺人罪を適用せずに、殺人罪で起訴すればよかった」(法務省幹部)との事情があった。だが今回のようなケースでは、法改正まで違憲とされた国籍法三条一項を適用し国籍を認める必要があり、通達などによる救済は困難とみられる。同省民事局は「トラブルにならないよう対応したい」としている。

■認知に3年以上 母の願いかなう
 食品包装工場で働くリリベス・アンティキエラさん(41)=神奈川県相模原市=は、小学六年の長女ジェイサさんの日本国籍が認められたことに「良かった」と涙を流し支援者と抱き合った。
 マニラ近郊の生まれ。母は病身で、家計を助けようと一九九一年に観光ビザで来日。不法滞在して働いていた先で、日本人男性と知り合った。
 妻子の存在を隠していた男性は、結婚するとうそをついた。妊娠が分かると「おれの邪魔をするな。おまえとは関係ない」と音信不通に。おなかの中にジェイサさんを宿していたリリベスさんは途方に暮れた。
 故郷の家族にも言えず、独りぼっちで出産。二カ月で夜の仕事に復帰し、必死で働いた。逃げた男性に胎児認知をさせることなど思いも寄らなかった。支援団体が男性を捜しだし、裁判で認知させたのはジェイサさんが生まれてから三年以上たっていた。
 八〇年代に入ると興行ビザの発給やバブル景気で、アジアを中心に大勢の外国人女性が出稼ぎで来日するようになった。ジェイサさんと同じ境遇の子が数多く生まれ、その数は数万人以上ともいわれる。
 同じ日本人の父から生まれたのに、なぜ妊娠中の認知だと日本人と認められ、生まれた後の認知だと認められないのか。今もどう考えても分からない。
 リリベスさんは、ジェイサさんを一人で育てている。祖国には母子家庭で食べていける仕事はない。日本で生まれ育った娘はフィリピンでの生活になじめない。
 自分に何かがあったら日本国籍のない娘が生きていけるか、不安で胸が張り裂けそうだった。学校で「ガイジン」と仲間外れにされて泣かされても、自分には心配をかけまいと黙っている、歌とダンスが好きな優しい娘が無事に生きていけるように…。その母の願いがかなった。

<過去の大法廷違憲判決>
 最高裁大法廷がこれまでに、法律について憲法違反と判断した判決は次の通り。

■尊属殺人を死刑または無期懲役にするとした刑法の重罰規定は、一般の殺人に比べ刑が極端に重すぎ不平等とした判決(1973年4月4日)
■薬局の新規開設を制限する薬事法の規定が職業選択の自由を侵害するとした判決(75・4・30)
■衆院選で選挙区により著しい「一票の格差」が生じたとして、公選法の定数配分規定が不平等だとした2件の判決(76・4・14、85・7・17)
■森林の細分化を抑えるために共有林の分割を制限した森林法の規定は財産権を侵害するとした判決(87・4・22)
■郵便法の規定が、損害に対する賠償の範囲を一部制限しているのは、国に対する賠償請求権の保障に反するとした判決(2002・9・11)
■海外在住の日本人が衆院選の小選挙区と参院選の選挙区で投票できないのは選挙権を保障した憲法に反するとした判決(05・9・14)
(2008.6.5 中日新聞)


以下は、共同配信の判決要旨(各裁判官の意見)です。

ニュース詳細
判決要旨 婚外子国籍訴訟

(47News 共同)
 婚外子国籍訴訟で最高裁大法廷が4日言い渡した判決の要旨は以下の通り。

 【多数意見】
 国籍の得失に関する要件をどう定めるかは立法府の裁量に委ねられているが、国籍の取得に関する法律の要件により生じた区別については、立法目的に根拠がなかったり、その区別と立法目的に関連がなかったりする場合には合理的な理由のない差別として憲法14条1項に違反する。
 国籍法3条1項は日本国民の父と日本国民でない母の間に生まれ、父が出生後認知した子について、父母が結婚し、嫡出子の身分を得た場合にだけ日本国籍を認めており、そうでない婚外子との間に区別がある。
 この規定は血統主義を基調に日本と密接な結び付きを示す一定要件を満たす場合に限り出生後の日本国籍を認めるもので、立法目的に合理的な根拠がある。規定が設けられた1984年当時には父母の結婚をその結び付きとみることに相応の理由があったので、要件と立法目的の合理的関連もあった。
 しかし家族生活や親子関係に対するその後の意識の変化や実態の多様化を考えれば、この要件は今日の実態に適さない。諸外国でも法改正などで婚外子への法的差別を解消する方向にあり、もはやこの要件と立法目的との間に合理的関連を見いだすのは困難だ。
 日本人の両親から生まれた嫡出子らは生まれながらに日本国籍が得られるが、同じく日本人を血統上の親に持ち、法律上の親子関係があっても、父母が結婚していない婚外子だけは届け出によっても日本国籍を得ることができない。日本国籍の取得は基本的人権の保障を受ける上で重要な意味を持つことから、この差別で受ける不利益は看過しがたく、立法目的との関連性も見いだし難い。
 したがってこの規定は今日、立法目的と合理的関連が認められる範囲を著しく超える手段で、不合理な差別を生じさせているといわざるを得ない。遅くとも2003年に原告が法相あてに国籍取得届を提出した時点では、この区別は立法府の裁量権を考えても不合理な差別になっており、国籍法の規定は憲法14条1項に違反していた。
 国籍法の基本原則である父母両系血統主義を踏まえると、こうした婚外子の国籍取得の要件から父母の結婚を除けば、国籍法の規定を合理的、合憲的に解釈することが可能で、不合理な差別を解消し、違憲状態を是正することができる。
 この解釈は不合理な差別を生む過剰な要件だけを除いているだけで、裁判所が新たな要件を創設して立法作用をしていることにはならない。原告は法相に国籍取得届を提出したことで日本国籍を得たとするのが相当だ。

 【泉徳治裁判官の補足意見】
 「父母の婚姻」がない限り日本社会との結合関係が希薄とするのは、型にはまった画一的な見方だ。「父母の婚姻」の部分を除いて国籍法3条1項を適用し、日本国籍を付与することが、国際人権規約や児童の権利条約の趣旨に適合する。

 【今井功裁判官の補足意見】
 立法に対し裁判所が平等原則に反し違憲と判断した場合、本来ならば与えられるべき保護を受けることができない者に保護を与えることは、裁判所の責務であって、司法権の範囲を超えない。

 【田原睦夫裁判官の補足意見】
 国籍法3条1項自体を無効とし、生後認知子について、認知の効力を国籍取得にも及ぼす見解は多くの法的な問題を生じ、多数意見の通り、同項を限定的に解釈することが至当だ。

 【近藤崇晴裁判官の補足意見】
 国籍法改正でほかの要件を加えることは立法政策上の裁量権行使として許される。日本国民の父による出生後認知に加え、出生地が国内であることや国内に一定期間居住していることを要件とすることは選択肢になる。

 【藤田宙靖裁判官の意見】
 看過できない差別が生じているのは、条文が「不十分」だからだ。違憲状態の解消には不十分な部分を補充しなければならない。それには婚外子の場合も父母が結婚している子と同様に扱うことが自然だ。

 【横尾和子、津野修、古田佑紀裁判官の反対意見】
 家族の生活状況に顕著な変化があるとも思われない。西欧を中心に非婚でも国籍取得を認める例が多くなっているが、わが国とは社会状況が大きく違う。婚外子の場合は帰化制度が合理的で、条件も大幅に緩和されていることなどから、規定は合憲。仮に違憲としても、認知を受けた子全般に拡大するのは条文の用語や趣旨の解釈の域を超えている。

 【甲斐中辰夫、堀籠幸男裁判官の反対意見】
 国籍法が規定する要件を満たさない場合、国籍取得との関係では白紙の状態が存在するにすぎず、婚外子については、立法不存在、立法不作為の状態であるにすぎない。この状態は違憲だが、規定自体は合憲で、多数意見は法解釈の限界を超えている。違憲状態の是正は国会の立法措置によるのが憲法の原則だ。


アップできる記事は、上限が1万字なので、
毎日新聞の記事は、次に続きます。


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