みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

『iPS細胞』(八代嘉美)/『細胞の意思―“自発性の源”を見つめる』(団まりな)

2008-12-28 12:00:00 | ほん/新聞/ニュース
ちょっと出かけるので、10時に予約投稿。
こういう時に便利ですね。

サイエンス誌恒例 2008年科学の成果トップ10発表で、1位は「細胞の初期化」。
1位に選ばれたのは、京都大学の山中伸弥教授らによる
人工多能性幹(iPS)細胞研究に基づく細胞の再プログラミング化です。
ヒトiPS細胞の発見は、再生医療に夢と希望を与えると評判になったが、
朝日新聞に研究が遅れている、と載っていた。

山中教授「日本は1勝10敗」 iPS細胞研究で遅れ 
朝日新聞 2008年12月26日

 新型万能細胞(iPS細胞)の開発者の山中伸弥・京都大教授は25日、文部科学省ライフサイエンス委員会の部会に出席し、今年1本しか論文を出せなかったことに触れ、「1勝10敗で負けた」と振り返った。
 iPS細胞研究で、今年は海外から、サルやラットからのiPS細胞作製や、患者の細胞からつくったiPS細胞をもとに神経細胞を作製して病気を細胞レベルで再現するなどの成果が報告された。米科学誌サイエンスは今年の科学成果の1位にiPS細胞づくりで研究が活発化した「細胞の初期化」を選んだが、その中心も海外の成果だった。
 山中教授は「研究は勝ち負けではないというのも、もちろん正しいが、多大な研究費や支援を受けている中で1勝10敗はまずい。自戒をこめて、研究者がふがいないと思っている」と、日本の現状について話した。
 文科省はiPS細胞研究などの再生医療関連研究に今年度、45億円を投じている。京都大、東京大、慶応大、理化学研究所を拠点とする研究ネットワークも構築するなど研究推進態勢も整えたが、海外勢の勢いに圧倒された形だ。
(竹石涼子)
(朝日新聞 2008.12.26)


iPS細胞ってなに?、という方は、以下の本がおすすめ。



 『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』
(八代嘉美/平凡社新書/2008/7/15 )


分かりやすくて、目からうろこ。

目からうろこがポロポロ、といえば、以前読んだ、団まりなさんの
『性のお話をしましょう―死の危機に瀕して、それは始まった 』が面白いです。

この一冊でわたしはすっかり団さんのファンになってしまったのですが、
その団さんの新刊が、「細胞が私たち人間と同じように、思い、悩み、予測し、
相談し、決意し、決行する生き物だということです」という、
「意志を持っている」細胞の不思議をときあかす本。

 
 『細胞の意思―“自発性の源”を見つめる』
(団まりな/NHKブックス)
 

体内に異物が侵入すると、自らをカーペットのように広げ、仲間たちと協力し合いこれを覆ってしまう大食細胞。目的地である生殖巣に向かって、さまざまな困難を乗り越え胚の体内を移動する始原生殖細胞。外的変化にしなやかに対応しながら的確に行動する細胞たちのけなげな姿を生き生きと描き、生命を分子メカニズムの総体ととらえる硬直した発想を超えて、細胞こそが自発性の根源であることを力強く打ち出す。生命という複雑な現象の本質に迫る野心作。 

以下は、『細胞の意思―“自発性の源”を見つめる』と『iPS細胞』の書評です。

今週の本棚:養老孟司・評 『細胞の意思--〈自発性の源〉を…』=団まりな・著

 ◇人間のように「思い、悩み、決断する」
 本のタイトルは「細胞の意思」、帯には「思い、悩み、決断する細胞たち」とある。これは文学、それとも哲学の本か。あるいは昔の共産党の話か。そんな風にいわれそうな気がしないでもない。もちろんそうではなくて、れっきとした生物学の本である。著者は長年、大阪市立大学で発生生物学を研究してこられた。
 生物学といっても範囲は広い。本書の主題は、発生学の初歩を習った人なら、懐かしいはずの初期発生が中心である。受精卵が卵割という細胞分裂をして、初期の胚(はい)を作っていく。そのあたりの過程で、細胞たちは、どのようにふるまっているのか。それが記述の中心になっている。
 ただし最初の部分は、細胞には原核細胞、ハプロイド、ディプロイドという三種類があるという説明から始まり、次に一般的な細胞のふるまいをよく示す例として、大食細胞が紹介される。その次に「細胞の思い、人間の思い」として、主題が始まるのである。
 それなら教科書から始まって、これまでにいろいろ書かれているんじゃないのか。いまさらなにを書くことがあるか。いろいろ忙しいんだし、この本に出てくることで、いままで学界に知られていなかった新事実だけ、短くまとめて紹介してくれないか。
 私はそんなことをする気は毛頭ない。まず第一に、それは著者に対して礼を失する。科学者は一人一人が研究をしている。それはいわば文学や芸術と同じである。学界ないし学会が研究をするわけではない。学界が論文を読むわけでもない。それなら学界にとって既知かどうかには、大した意味はない。しかも著者だって、学界の一部かもしれないではないか。じつは「書かれたもの」は、すべて既知だというしかないのである。
 第二に、私が知りたいのは、同じような事実が対象であっても、それに対する著者の見方、考え方である。生物学のあらゆる部門のあらゆる詳細を知る暇なんか、だれにだってあるわけがない。それに私の場合には、もう寿命もない。初期発生をいまさら勉強しようなんて積もりはない。
 ではこの本からなにを読むのか。「私が本書で伝えたいことは、細胞が私たち人間と同じように、思い、悩み、予測し、相談し、決意し、決行する生き物だということです」。著者はまずそう述べる。ここで私は、夢野久作の『ドグラ・マグラ』の主人公を思い出した。精神病院に入院している博士は、「脳髄は電話交換局に過ぎない」「考えているのは個々の脳細胞だ」というのである。
 私は著者をからかおうと思っているのではない。夢野久作と団まりなの違いはどこにあるか。実際の細胞を観察しているか、否か、である。
 あるとき著者が細胞について話すのを聞いたことがある。ふつうの細胞の電子顕微鏡像が映し出された。著者は細胞内部のなにも写っていない地の部分を指し、ここになにがありますか、と訊(き)いた。実際の細胞ではそこに水があり、それに溶け込んださまざまな物質が存在し、流動している。でも頭で勉強した細胞のそこには、「なにもない」のである。
 私も著者と同じように、若い頃(ころ)に細胞を培養していたことがある。その細胞はしばしば平たくなって、培養皿の表面に張り付いてしまっていた。大食細胞がそうなってしまうことについて、著者は「細胞は皿を食べようとしているのです」という。それを読んで、私は笑い出してしまった。私自身もなぜ培養下で細胞が平たくなるのか、不思議に思っていたのだが、それ以上のことは考えたことはない。いわれてみれば、なんとも納得がいったのである。大食細胞が異物を食べようとするとき、小さいものなら、相手を「包み込んでしまう」わけだが、相手が大きいと、その表面に張り付く結果になる。
 「自然科学は、物理学と化学が先行したために、物質の原子・分子構造を解明するものとの印象を、人間の頭に強く植えつけました。このため、細胞を究極的に理解するとは、細胞の分子メカニズムを完璧(かんぺき)に解明することだ、という公理または教義のようなものが蔓延(まんえん)することになってしまいました。この教義は今も現役で、細胞に関する学問を支配しています」
 私もいわばこの教義が社会的に確立していく過程を生きてきたから、著者のいいたいことがよくわかるように思う。ただそんなことはどうでもいい。私がなんとも面白いと思うし、さらに感心することは、「著者にとってまさに細胞は生きものだ」ということなのである。女性の優れた研究者は、しばしば自分の扱う対象が「生きてしまう」らしい。バーバラ・マクリントックは遺伝学の研究で晩年にノーベル賞を受賞したが、「自分がトウモロコシの染色体のなかに立っている」と述べたことがある。中村桂子氏を引き合いに出すなら、おそらくゲノムがそういう存在なのだと思う。昔の先生なら、「仕事をやるなら、そこまで行かなきゃダメなんだよ」と一言いったであろう。
(毎日新聞 2008年9月7日) 



iPS細胞―世紀の発見が医療を変える [著]八代嘉美
[掲載]2008年8月24日 朝日新聞
[評者]瀬名秀明(作家、東北大学機械系特任教授)■SFの想像力と科学の目で迫る生命

 山中伸弥教授らによるヒトiPS細胞誕生のニュースは再生医療の未来に希望をもたらした。それから半年が過ぎ、一般向けの解説書が相次いで出版されている。世界中の研究者がiPS細胞を少しでも安全に扱えるようしのぎを削り、新たな知見が続出しているいま、自信を持ってこの一冊をお薦めしたい。
 若き幹細胞研究者・八代嘉美は、この分野のおもしろさを多くの人にわかりやすい言葉で伝えたいという熱意にあふれている。何よりすばらしいのは、ES細胞やiPS細胞を学ぶことは医療の未来を開くばかりでなく、生命の根源を探求することであり、それはわくわくすることなのだというスタンスに貫かれていることだ。類書にない大きな特長である。
 私たちの体は日々再生されている。新しい細胞が生まれ、古い細胞は剥(は)がれ落ち、傷口は治る。さまざまな細胞へ分化してゆく「幹細胞」のおかげである。神経幹細胞はニューロンをつくり、造血幹細胞は赤血球をつくる。ただし会社員がいきなりプロ野球選手になれないように、成長した体の幹細胞はまったく違う細胞には分化しにくい。だが私たちが赤ん坊のころ無限の可能性を秘めていたように、胚(はい)の幹細胞は多能性を持つのだ。どうすれば細胞をリセットし、別の人生を歩ませることができるのだろう。細胞が分化し体をつくってゆくとはいったいどういうことなのか?
 無数の可能性の根源となる幹細胞の秘密を解き明かすことは、生命の本質に迫ることに他ならない。クローン羊ドリーも、ES細胞も、その謎に迫るための足跡であり、iPS細胞はそれらの研究の延長上にある。著者の八代は本書の半分以上をかけてこれまでの幹細胞の研究を丹念に振り返る。誰もが読みたいと願うiPS細胞の話をあえてタメにタメて、ES細胞や体性幹細胞の理解を積み重ねてゆく。だからこそついにiPS細胞の解説が始まったとき、読者は生命の本質というロマンを共有して、さらなるビジョンへと飛翔(ひしょう)できる。それは私たちの「知」がタブーさえ超えてゆく未来だ。ES細胞は倫理的問題があったとされた。しかしiPS細胞ができたのは、ES細胞やクローン研究で科学の成果を培ってきたからだ。著者はSFの想像力を引きつつ科学の目で生命を見据え、従来の価値観を変えてゆく。そこまで描き切ろうとする著者の意気に大きな拍手を送りたい。
 別の構成力で語る新鋭の良書としては、他に田中幹人編著『iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?』(日本実業出版社)がジャーナリスティックな筆致で重要点を見事にまとめて手堅い。そしてやはり若き研究者・古谷美央の『iPS細胞って、なんだろう』(アイカム)は患者の側に立った細やかな優しい視線がよい。この本に収録されている写真群は、私たちの体にこれほど多様な細胞があることを改めて教えてくれる。iPS細胞がこれらの美しい細胞へ分化するのだと思うと、生命の源に触れて胸打たれるだろう。それにしても次々と新たな才能がまっすぐな情熱で生命の本質を伝え始めたことは感動的だ。科学の本はますますおもしろくなってきた。
    ◇
 やしろ・よしみ 76年生まれ、東京大学大学院博士課程在籍中。研究テーマは造血幹細胞の老化・ストレスにかかわる分子機構の解明。共著に『再生医療のしくみ』。
(朝日新聞 2008.8.24)


再生医療の最前線へようこそ~『iPS細胞』
八代嘉美著(評:栗原裕一郎)
平凡社新書、660円

2008年10月27日 nikkeibp

南部陽一郎、小林誠、益川敏英三氏の物理学賞に下村脩氏の化学賞が続きノーベル賞フィーバーが巻き起こっているさなかの10月10日、京都大学の山中伸弥教授が、ウイルスを使わないiPS細胞製作に世界ではじめて成功したというニュースが流れた。
 再生医療の実現に向けた大きな一歩と報じられたのだけれど、ウイルスを使わないことがどうして「大きな一歩」になるのか、即座に理解できるでしょうか。
 iPS細胞は現在進行中の科学的イノベーションとしてはもっともホットなもののひとつだが、なにしろ生命科学の最先端であり、「クローンが出来ちゃうんでしょ、すごーい。それでES細胞と何が違うんですか?」といったアバウトな理解にとどまっている人が多いんじゃないだろうか。いや、自分がそうだったのだが。
 そこで本書である。一読すれば、技術的な仕組みとそれを支える生命科学のバックボーン、生命倫理問題および先端科学技術をめぐる特許争い、そして──ここが筒井康隆が帯に推薦文を寄せている由縁だろう──「iPS細胞とはいったい何なのか?」というSFチックな形而上的問いまで、この発明を取り巻く事象の全体像をおおよそつかむことができるだろう。
 「iPS細胞」というタイトルながら、全9章のうち第5章まで、ページ数でも半分以上が、じつはES細胞に割かれている。ES細胞を乗り越えるためにつくられたのがiPS細胞であるという歴史がふまえられているためだ。
 ES細胞の正式名称は「胚性幹細胞(Embryonic Stem cells)」。「胚」という文字に注目。「胚」とは子宮に着床する直前の受精卵を指す。ES細胞は胚から採取した幹細胞を培養したものなのだ。
 一方、iPS細胞の正式名称は「人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cells)」。「pluripotent」は「多能性の」という意味で、それを人為的に「induced=誘導された」幹細胞だということだ。
 どちらもほぼ無限に増やせて、身体を構成するほとんどの細胞に分化させることができる。ゆえに「万能細胞」という呼び名がなかば定着してしまっているのだけれど、それは正しくない。ES細胞を子宮に戻しても胎児にはならないし、iPS細胞も同様である。ES細胞は胎盤をつくれないのだ。「万能」と呼びうるのは受精卵だけであって、それよりちょっと能力が落ちるので「多能性」と呼ぶのが正確だそうだ。
 さて、ES細胞には致命的な欠点がふたつあった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(略)

 終章は最初に触れたとおり、「人類にとってiPS細胞とは何か?」という著者の思索である。なかでも、ES細胞をあれほど激しく拒否したブッシュ大統領とローマ法王が、iPS細胞については「胚を壊さないから」と諸手をあげて歓迎したことの皮相さを暴いたくだりは、生命倫理というものの根深い難しさをよく象徴していると思う。

〈なぜiPS細胞が胚を壊さないで済んだのか。それはローマ法王庁などが〈大罪〉と称する〈遺伝子導入〉という技術が存在したからである。(……)
 つまり、気づかないうちにブッシュ大統領らは彼らが斥けてきた価値観を是認させられ、その結果、彼らが希求する〈神が与えたもうた自然〉という幻想は彼方に去った〉
 最後になってしまったが、本書の著者、八代嘉美氏は、現在東大大学院医学系博士課程に在学する大学院生なのだ(前回の後藤氏に続きまたしても大学院生!)。ちなみに男である。そこ、がっかりしないように。
 iPS細胞自体の解説が実質1章しかなくて構成のバランスがちょっと悪かったり、それにつられてか「山中ファクター」と「nanog遺伝子」のところなど書き込みが足りないんじゃないか思う部分もあるものの、人文にも造詣が深いことをうかがわせつつも研究者らしい論理的な文章で整理されていて、今後も続々とつづくに違いないiPS細胞関連の成果を理解するための入門書として、しばらく定番の位置を占めることになるだろう。
(文/栗原裕一郎、企画・編集/須藤輝&連結社)


どちらもおススめの本です。

お次は、関連で遺伝子レベルで、女と男の不思議な関係を解く、
福岡伸一さんの『できそこないの男たち』。

 生命の基本仕様
「それは女である」
「弱きもの、汝の名は男なり」
 

つ ・ づ ・ く ・・・・・

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