みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

特定図書排除に関する住民監査請求 補充書(特定図書リストについての分析)-3

2008-12-31 11:00:52 | 「ジェンダー図書排除」事件
この記事は、「特定図書排除に関する住民監査請求」で
12月9日に陳述で提出した「補充書(意見書)」。
 特定図書リストについての分析-2からの続きです。

(特定図書リストについての分析-3)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書
特定図書リストについての分析-2からの続き

<「BL」という無定義なジャンル概念を、無理に、恣意的な基準でくくろうとしたことによる問題‐明らかに問題のある排除がおこなわれ暗黙の差別があらわになっている> 

(6)「BL」ではなく、男性同性愛の恋愛・性描写がないのに指定されている「少女小説」

3077/南図書館/図一般/304375041/保2/8/マエタ/前田珠子/孔雀の庭≪エシュラルト&ロキシム≫/スニーカーブックス/角川書店/

 通常、少女小説に分類される書き手。A5サイズのソフトカバーで、表紙は身体的接触もしていない着衣の男性二人。媒体もBLノベルズではなく、「BL」的描写も一切無い。何故選ばれたのかが完全に不明。おそらく、表紙に男性二人が描かれていることが原因と思われる。
 作中に、男性にストーカーする男性、女性を愛する女性がちょい役で登場するものの、男性同性愛の行為・心理描写は皆無。性行為描写にいたっては、男女のキスと、女性が女性の指を口に含むというシーンがあるのみ。(挿絵で性行為を暗示するのはこのキスシーンのみ)(熱田)

宮乃崎桜子/〔著〕 斎姫異聞 講談社X文庫 講談社
宮乃崎桜子/〔著〕 月光真珠≪斎姫異聞≫ 講談社X文庫 講談社

「斎姫異聞」は第何回だかわからないが、講談社ホワイトハート大賞だか佳作だかを受賞して和風ファンタジーで問題図書にされたとしたら審査員もびっくりだろう。主役である「斎姫」が実は両性具有であり、政略結婚の相手との初夜にそれがばれる、というシーンがちょっとあるけれど、性的描写の中に入れるのも疑問が残るぐらいのもの。(加納真紀さんメール)

(7)セクシュアル・マイノリティの日常を描いた本が指定されている

森奈津子/著 耽美なわしら 1 ASUKAノベルス 角川書店
森奈津子/著 耽美なわしら 2 ASUKAノベルス 角川書店
「耽美なわしら」は、ゲイやレズビアン、アセクシャル等の日常をかいたコメディであり、これをわかって指定したとしたらセクシャルマイノリティに対する差別としてしか考えられない。(加納真紀様メール)

作者はHPでバイセクシャルと自認しており、下ネタが多いことから来るバイアスではないだろうか。(加納真紀様メール)

(8)男性同性愛描写があるから指定された?

小沢淳/〔著〕 金色の少年≪ムーンライト・ホーン5≫ 講談社X文庫
講談社
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる≪誘惑≫ Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第3部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第4・5部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる Eclipsnovel 桜桃書房
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 前編 パレット文庫 小学館
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 後編 パレット文庫 小学館
小沢淳/〔著〕 茜の大陸≪ムーンライト・ホーン6≫ 講談社X文庫
小沢淳/〔著〕 神聖王国の虜≪ムーンライト・ホーン7≫ 講談社X文庫 講談社
小沢淳/〔著〕 密林の聖獣≪ムーンライト・ホーン8≫ 講談社X文庫 講談社

小沢淳のムーンライトシリーズは、国を亡くした王子と従者のゲイカップルが、旅をする話だが、どっちが受・攻かわからず、じれったい思いをしたことがある。
(直接的な描写はない)
あと王子が女好きの浮気性で女性と寝るシーンも少しあったと思うが、直接的ではない。

「僕は君のためにいる」は、作者による「自己流カラマーゾフの兄弟」で、実際にそんな感じ父親殺害をめぐる三兄弟+異母弟の葛藤が話の中心であり、性描写がメインなものではない。
最後に兄弟による性描写が少しあるが、直接的ではないはず。
徳田みどりによる表紙、挿絵が色っぽかったと思うので、そう判断されたのかもしれないが、ありえない。
かわい有美子がパレットに書いたものは青年同士の恋情のほのめかしはあっても基本、BLではない。(加納真紀様メール)

緑なす丘に我らは歌う(パレット文庫),ひかわ 玲子/著; 小学館,2005.4
花の告げし人を称えよ(パレット文庫),ひかわ 玲子/著; 小学館,2005.6
金の果実に祈りを捧げ(パレット文庫),ひかわ 玲子/著; 小学館,2005.8

パレット文庫は、「BL」として売られている作品もあるものの、通常は「少女小説」として売られている。ひかわ玲子は少女小説作家として大御所であり、指定された3作品(同一のシリーズ)も表紙は着衣の男性ばかりで、性描写を匂わせるものも無い。内容を見ていけば、男性同士のキスシーン、抱き合うシーンなどがあることから指定されたのだろうか。
前述の加納真紀さんのご指摘にもあるとおり、こうした性描写が非常に少ない作品も指定されている。男女の性行為であれば、キスシーンや抱擁シーンで有害指定されるとは考えにくい。(熱田)

(9)「BL」とそうでないものをノベルズやレーベル、文庫のシリーズ名で分けることは難しい

花丸ノベルスは初期はBLに特化しておらず、ファンタジーやSFも扱っており、性描写も少なかったはず。
BL作家でBLレーベルには、普通にBLを書く人でも混在するX文庫、パレット等には書かない作家もいる。

ASUKAノベルス/レモン文庫/新書館ウィングス文庫はBLレーベルではない、完全なジュブナイルレーベル。そういうテイストのものを混ぜるかもしれないが、性描写メインになるとは考えにくい。逆に言うと、そこまで子供を純粋培養して、どうするつもりなのか。

また新書館ディアプラス文庫はBLではあるが、性描写があっさりしているのを売りにしている。全くないものもある。特に菅野彰は少ないはず。(加納真紀さまメール)

(10)「文学」は指定されず、「ライトノベルズ」など若者向けジャンルのみが指定されている

 今回、指定されている図書の媒体・作家は、そのほとんどが若者・女性を読み手と想定しているものである。男性同士の恋愛・性行為描写が描かれた作品は、三島由紀夫や堀達夫などの一部の作品、比留間久夫や三浦しおんをあげるまでも無く、従来「文学」とされてきた分野でも枚挙にいとまない。(外国文学でも、ジョン・フォックス『潮騒の少年』、ジャン・ジュネ『葬儀』 、フォースター『モーリス』など…)しかしながら、こうした作品は一切指定されず、その内容や質的な際も議論・吟味されること無く、「BL」と認識された作品のみが有害と指定された。これは、本の貴賎を恣意的に観念されたジャンルによって決めるという、図書館がおこなうにふさわしくない行為ではないだろうか。
(熱田)

(11)書き手/想定される読み手の性別による選別が、暗黙裡におこなわれているのではないか
筋違いながら安堵致しましたのは、BLに紛れて90年代初頭にBLの萌芽に紛れる様にして紹介されたゲイ文学が排除されていなかった事です。(ぶどううり・くすこ様メール)

(10)との関連であるが、仮に、「ゲイ文学」と呼ばれる小説が指定されず、「BL」が指定される理由が、セクシュアル・マイノリティへの偏見ある表現があるかないかだとしよう。もちろん、BLの中にも、男性同性愛への偏見を含んだ描写のある作品があることは事実である。
しかしながら、その個別の表現が問題にされずに、「BL」というジャンルが有害とされることは、非常にナイーヴに、「ゲイ」という主体を本質化することだといえる。例えば、書き手が「ゲイ」であれば、セクシュアル・マイノリティへの偏見は作品に必ず表れないのだろうか。また、書き手が「ゲイ」でなければ、セクシュアル・マイノリティへの偏見があるということになるのだろうか。(熱田)

(12)「BL」を読んでいるのは女性読者のみとは限らない-読者を一定の範囲に定義するなどということはできない

BL雑誌の投稿欄に勇気を出して投稿して相談をして、幾許か救われた若いゲイの方も居たと言う事実があったとしても、彼等は冷笑をもって顔を背けるのでしょう。
ささやかながら資料の再確認をしている者の一人として、物悲しくなります。
(ぶどううり・くすこ様メール)

<「過激な性描写」を理由に「BL」を排除することの恣意性> 
 
(13)性描写の程度による振り分けがなされていない

西野花さんは、完全に18禁だと思います。綺月陣さんクラスですよ。
高遠 琉加/著 世界の果てで待っていて≪天使の傷痕≫は、同衾はしていますが、それは癒しあう行為のようなもので、これが入っているのは変です。(匿名メール-千田さん経由)

(14)「ストーリー」性や「文学」性があると思われる作家・作品が同性愛表現だというだけで排除されている

榎田尤利さん/BLに偏見持っている人には「夏の塩」シリーズを読んでみて欲しいです。この方は、とにかく人間の温かさということに重点を置かれてBLを書かれていると思います。

木原音瀬さん/人生の不条理ということを書かせたら一級です。三浦しをんさんも、木原さんの作品をBLでも直木賞候補に挙げたいと言っておられました。

英田サキさん/タイトな文体のハードボイルド。まるで映画を観ているようです。プロットの緻密さと甘さを排した内容は、BLという括りに入れて悪書と決め付けないで欲しいです。

栗本薫さん/大御所過ぎて、何もいえません(笑)。

花川戸菖蒲さん・鳩村衣杏さん・烏城あきらさんも、非常に良質な作品を書かれる方です。(匿名メール-千田さん経由)

秋月こおさん/Wikiより:1992年たつみや章名義で児童文学作家デビュー。2003年4月には熊本市議会議員選挙に立候補、初当選を果たしている。

本人も立派な方だし、BLでも芸術性・歴史性の高いお話を書かれる作家さんです。富士見二丁目などは、本当に音楽の薫香の高い作品です。
三浦しをんさんの、記事がありますので、参考にしてください↓。
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20060731bk0e.htm
(匿名メール-千田さん経由)

(15)男女の性描写がある、男性読者向けの本は性行為の度合いにかかわらず今回指定がない

堺市の図書館では、男女の性描写を扱い、表紙にも性描写を示すような絵や写真が使われている本を、開架で貸し出している。なかには、amazonなど、一般市場での流通においてはアダルトカテゴリーに配分され、18歳未満に対して警告が表示されるものもある。
こうした本を、置くなということではない。しかしながら、下記の実例を見れば、性描写の暗示の程度において、これらの本が「BL」よりも問題が無いと、どんな点から言うことができるのか。
また、仮に、こうした本が「官能小説」や「文学」であるという理由だとしたならば、「BL」というジャンルは「官能小説」や「文学」ではないとは、誰にもいえないということは、ここまでにあげた点から既に明らかであると思われる。(熱田)

下記に、2,3例を挙げておく。
異形の宴‐責め絵師伊藤晴雨奇伝/団 鬼六/著/朝日ソノラマ/2000.4/913.6 
1 北 202347233 8//タン/開架 図書一般  在庫
2中801178674 8//タン/開架 図書一般  貸出中

新編愛奴-外道の群れ外伝/団 鬼六/著/Paradigm human adult books/パラダイム/2001.4/913.6
1 南  304482979  8//タン/開架 図書一般 貸出中

※amazonではアダルト指定されている本
爛夢-官能アンソロジー/日本文芸家クラブ/編/藍川 京/〔ほか著〕/徳間文庫/徳間書店/2008.8/913.68
1東  401489752  8//ランム/   開架 図書一般 貸出中

(16)「BL」における性描写は恋愛を描くストーリー上、不可欠なものもある
 
仮に、性描写の「中身」が問題だとした場合に、下記のような意見もある。

かなり前に新聞でBLの特集があって、ある方が言っていましたが、男性向けの性描写とBLが決定的に違うのは、そこに『愛』があるかどうかだそうです。

男性向け性描写は、とにかく性的に興奮させることを目的としています。暴力もただの性的支配欲の表れです。

女性向けBLは、暴力やレイプがあっても、全ては愛に繋がっています。つまり、恋愛ごとの延長に全ての行為があるということです。

何故、女性にとって男同士の暴力はOKなのかというと、やはり弱者(女や子供)に暴力が振るわれる場面はリアル過ぎて引いてしまいます。男同士なら、暴力も所詮対岸の火事。そこでは何をやってもOKのある意味想像上の世界ですね。

そして、男同士の愛というものに、女性は男女間にない純粋な愛を夢見ているのかもしれません。
タブーの愛を貫く純愛というものに、心を動かされるのでしょうね。結婚というゴールのない、愛だけで成り立っている世界ですから。

女性向けBLではキャラの年齢が高いのも、特徴ですね。男性向けはとにかく若い娘優先ですから。BLでは、40歳だって立派な主人公です。ロマンチックな男性と違って、女性は現実的ということなのでしょうか。興味深いですね。
(匿名メール-千田さん経由)

参考文献 
Butler,Judith,1997,Excitable Speech: A Politics of the Performative , Routledge, London(=竹村和子訳2004『触発する言葉―言語・権力・行為体』岩波書店)

資料・著作が20冊以上排除図書に指定された作家の、作家別排除図書指定率

※網掛け:有害図書指定率が100%を超えている。何らかの理由で9月11日から蔵書数が減ったか、検索方法が違っていてでてこない可能性あり。
※下線(一件):同姓同名作家がいる可能性が考えられるが、特定できていない/元データの数値に疑問があるなどのケースで、数値が正確ではないのではないかと疑われるケース。また、同姓同名作家の存在の有無については、一部を除いて未対応。

【千田有紀さんの意見】 

 個人的には、表現の自由は、ある一定の制限のなかで、守られる価値であると思っている。ある一定の制限のなかで、という譲歩をつけるのは、表現は無制限に守られるべきものではなく、ある表象が他者を傷つけないかぎりにおいて守られるべきだと思うからである。

 つまりこのボーイズラブ排除が、性的マイノリティからのある種の表現にかんする抗議としてなされたのであるならば、無制限に表現の自由を主張することは、できないだろう。しかし、排除の理由が、「性的な表現が含まれるから」であるというのであれば、首を傾げざるを得ない。性的な表現は、図書館のなかに満ちており、それらは許容できるが、ボーイズラブだけが駄目であるとしたなら、問われるべきは、「同性愛表現を許容できない価値観」のほうだと思うからである。

 この前提を踏まえたうえで、リストをみたときの感想は、やはり排除の基準がよくわからないというものであった。例えばリストには、鹿住槇さんや桜木知沙子さんの作品が多く含まれているが、これらの作家は、どちらかといえば、かなりソフトな古典的少女漫画タッチの作品を書くことで知られている。桜木さんの『金の鎖が支配する』という作品もしっかりリストに入っているが、これも性描写が出ていて桜木さんにしては珍しい挑戦だと思った記憶があるほどで、その他の作品は、家族の絆や愛情や信頼とは何かを問いなおし、ときに息苦しいほど「倫理」をみつめようとする、どちらかといえば「保守」といえなくもない作品群である。これらの作品も排除されるのかと知って、正直にいえば、驚きを禁じえなかった。

 また鹿住槇さんは、昔の少女小説タッチのソフトな作品を量産される作家で、性表現の厳しいアメリカでも漫画化された作品が翻訳されている『ヤバイ気持ち』(英訳『Desire』)などは、相手への性的関心から先に関係を結んだ高校生が息苦しさを感じ、心の絆を結びなおすという、男女であったら性教育の教科書として使われてもおかしくないような作品である。その他の作品も総じてソフトで性表現も過激ではなく、鹿住さんの作品に男性同性愛が描かれている以外の排除される理由が見当たらない。

 また割を食っていると感じられたのが、榎田尤利さんである。
榎田さんは、ボーイズラブとファンタジーを描く作家でもあるのだが、どれもこれも駄目という状態である。『普通の男(ひと)』などは、自分のことを「普通」であると思っていた男が、同性を好きになるという「異常」な事態に驚き戸惑うという過程が丹念に描かれており、セクシュアリティの理論書のような趣がある本である。次作の『普通の恋』でふたりが結ばれ、『普通の男』にはほとんど性描写はなかった(ように記憶している)。これも駄目なのか。また、魚住くんシリーズも、排除されている。魚住くんシリーズは、傷つきやすい魚住くんが巻き起こす青春物語で、1巻ではまったく性描写は出てこない。
 なぜ1巻という限定をつけるかといえば、2巻以降は、あまりの高値に入手を諦めたからである。現在はすべて絶版であり、12月2日現在、某サイト(アマゾン)の中古品で、最終巻は最低でも3200円、最高額で5000円で取引されている。

 ボーイズラブのように消費財的に読まれ、あっとうい間に消えてしまう作品こそを保存することこそが、図書館の使命ではないのか。桜木さんの作品など、ほとんどを読んでいると思っていたが、排除リストに入っているものには、知らないものもたくさんあった。絶版となり、ネットの中古市場からも消えてしまった作品は、図書館がなければ、実際にはまったくといって入手不可能となっているのが現実である。男性同士の恋愛を描いているという理由で、排除するにはあたらないのではないか。

 また秋月こおさんの『フジミ』シリーズ、『要人警護』シリーズ、『ロマンセ』シリーズなどは、どれも排除の対象であった。権威主義的なことをいう気はないが、秋月さんは、別名で児童文学も書かれており、熊本市議も務められた方である。  『フジミ』シリーズは、わずかながら性描写こそあるものの、基本は優れた音楽家を目指す二人の成長譚であり、栗本薫さんは「少女マンガ的構造」をもつ物語であると論じている。この評価は同意できるものであり、決して過激なポルノなどではない。
 またロマンセシリーズなどは、性描写も少なく控えめであり、平安時代を舞台としたスリリングな作品に仕上がっている。他にも、たけうちりうとさんの『薔薇とボディガード』シリーズやごとうしのぶさんの『タクミ君』シリーズなど、すぐれた長編が排除の対象になっているのは、いかにも惜しい。

 製造業で働く男たちのロマンを中心にすえた、烏城あきらさんの『許可証をください』のシリーズも排除の対象であった。また人間味あるドラマを描くことで定評のある木原音瀬さんも、絶版になった作品も多いにもかかわらず、排除の対象である。
 これらの作品に性描写がないとはいわないが、軽い味付け程度のものであり、この程度が排除の対象であるというのだったら、ボーイズラブ以外のほとんどの作品が排除の対象となるのではないかと思われる。

 そもそも、ボーイズラブは作家買いが難しい珍しいジャンルである。というのは、どの出版社のどのノベルズから出るのかという、ノベルズに作品のテイストが大きく規定されるからである。堺市のリストを見ると、上位から、角川ルビー文庫、リーフノベルズ(倒産)、白泉社花丸文庫、講談社X文庫、Beboynovels、徳間書店キャラ文庫、小学館パレット文庫、集英社コバルト文庫と大手の出版社の性描写も大人しい作品ばかりであり、(個人的に)ポルノ的な作品が多いと思い浮かぶプリズム文庫などは、2冊(3冊?)にすぎない。つまりは購入の際に、購入図書がかなり吟味されたうえで、決定されていたことが伺える。

 これらの作品を、ただ男性同士の関係が描かれているという理由で、図書館から排除するのは、いかにも行き過ぎであると思われる。
                               以 上


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特定図書排除に関する住民監査請求 補充書(特定図書リストについての分析-2)

2008-12-31 09:22:16 | 「ジェンダー図書排除」事件
この記事は、「特定図書排除に関する住民監査請求」で
12月9日に陳述で提出した「補充書(意見書)」です。

 特定図書リストについての分析-1からの続きです。
「住民監査請求書の監査結果はこちら。 


(特定図書リストについての分析-2)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書
特定図書リストについての分析-1からの続き

<選定基準に一貫性が無い>


(1)「挿絵」がないハードカバーのシリーズが指定されている例
(2)同じ、「BL」とされる媒体でも指定されているものといないものがある
(3)同じ作家の「BL」作品で、媒体や出版社が変わると「BL」指定されなくなっている例
(4)同じ作家の続きもののシリーズの中で指定されているものといないものがある
(5)性描写がほとんどないか、まったくない本が指定されている

<「BL」という無定義なジャンル概念を、無理に、恣意的な基準でくくろうとしたことによる問題‐明らかに問題のある排除がおこなわれ暗黙裡の差別があらわになっている>

(6)「BL」ではなく、男性同性愛の恋愛・性描写がないのに指定されている「少女小説」
(7)セクシュアル・マイノリティの日常を描いた本が指定されている
(8)男性同性愛の描写があるから指定されたとしか思えない本がある
(9)「文学」は指定されず、「ライトノベルズ」など若者向けジャンルのみが指定されている
(10)「BL」とそうでないものをノベルズやレーベル、文庫のシリーズ名で分けることは難しい
(11)書き手/想定される読み手の性別による選別が、暗黙のうちにおこなわれているのではないか
(12)「BL」を読んでいるのは女性読者のみとは限らない-読者を一定の範囲に定義するなどということはできない

<「過激な性描写」を理由に「BL」を排除することの恣意性>


(13)性描写の程度による振り分けがなされていない
(14)「ストーリー」性や「文学」性があると思われる作家・作品が同性愛表現だというだけで排除されている
(15)男女の性描写がある、男性読者向けの本は性行為の度合いにかかわらず今回指定がない
(16)「BL」における性描写は恋愛を描くストーリー上、不可欠なものもある

<選定基準に一貫性が無い>

(1)「挿絵」がないハードカバーのシリーズが指定されている例


『耽美小説SERIES』
神崎春子/著 オイディプス・ソナタ 勁文社
神崎春子/著 心裂けても - 勁文社
神崎春子/著 被虐の荒野 - 勁文社
神崎春子/著 聖らかな夜の娼夫 勁文社
神崎春子/著 瞳に星降る - 勁文社
神崎春子/著 心裂けても - 勁文社
神崎春子/著 泪色した韋弯 - 勁文社
神崎春子/著 夢郭恋道行 - 勁文社
神崎春子/著 月に踊る - 勁文社
神崎春子/著 少年人形 - 勁文社

こちらにリストアップして戴きました分、全て『耽美小説SERIES』であると言う認識でよろしいかと思われます。挿絵は無いとお考え下さい。
装丁はハードカバーノベルズ版一段組となっております。申し添えますならばこの叢書は呼称こそ耽美小説でありますが全てのBL小説専用レーベルの先駆と認識して差し支え無きものか、と思われます。

又、神崎春子女史の作品で二見書房・VelvetRomanに収録された『センチメンタル・シティ』もリスト上に上がっているのを再確認しましたが、この二見書房・VelvetRomanも又『耽美小説SERIES』と装丁を同じくする叢書です。真珠光沢をかけたカバーが特徴であるこの叢書も又耽美小説専用レーベルとして存在しておりました。こちらにも挿絵はございません。(ぶどううり・くすこ様)

 上記にあがっている該当作品は、表紙も、図1、2に示したとおり、とくに過激な性描写を暗示するものは無い。シリーズ名が『耽美小説SERIES』であるから指定されたのか。
他にも、表紙にも挿絵にも、具体的な性描写のない作品が多く指定されている。(熱田)

(2)同じ、「BL」とされる媒体でも指定されているものといないものがある

・『耽美小説SERIES』及び二見書房『VelvetRoman』の例
先のメールで触れました勁文社の『耽美小説SERIES』及び二見書房『VelvetRoman』の他の蔵書が気に掛かりましたので。

結果から申し上げますと、両者共に911リストに掲載されていない蔵書が存在しました。
VelvetRomanで11点、耽美小説SERIESで13点です。
VelvetRomanに関しましては書名検索で抽出出来ますので擱くとしまして、問題は耽美小説SERIESです。
以下に当方が抽出したものを簡略に記します。

青の迷夢/森内景生
くれない焔鬼/森内景生
くれない炎舞/森内景生
くれない幻花/森内景生
残月/森内景生
紅かんざし/深沢梨絵
残照の瞬間/原田千尋
君が蒼き天涯の玻璃/原田千尋
華王伝説/神崎春子
青薔薇の街/小沢淳

又、耽美小説SERIESと銘打たれては居りませんが勁文社からは以下の書も発行されております。

黄昏のバイヨン/榊原姿保美
胡蝶の夢/榊原姿保美
さくらさくら/榊原姿保美
荊の冠 上・下/榊原姿保美

これらを視る限り、あのリスト上に上がっていた作品群を選別した基準はなんなのかと気に掛かる所です。勁文社で言えば江上冴子さんの『エデンを遠く離れて』もリストに掲載されておりますが、蔵書全てが網羅されている訳ではありません。差異が7冊ございます。
(ぶどううり・くすこ様メール)

Velvet romanで指定されているもの
保2 8 カ 神崎春子/著 ベイシティ・ブルース Velvetroman
二見書房 1992 1993/4/3
保2 8 ス 菅野彰/著 死にゆく夏の、喘ぎにも似て Velvetroman
二見書房 1994 1994/4/19
保2 8 カ 神崎春子/著 センチメンタル・シティ Velvetroman
二見書房 1993 1993/9/11
保2 8 マ 真野朋子/著 ナルシスたちの憂鬱 Velvetroman
二見書房 1993 1993/6/16
以上、4冊。

堺市で蔵書しているvelvet roman
1青の蠱惑/尾花 有理/著/二見書房 1994.5 913.6
2雨夜の月/今岳 華子/著 /二見書房 1993.10 913.6
3アラン 真夜中の少年/ジョゼフ・ハンセン/著 二見書房 1993.8 933
4クライ・オブ・ソウル/いちえん咲子/著 二見書房 1993.5 913.6
5死にゆく夏の、喘ぎにも似て/菅野彰/著 二見書房 1994.3 913.6
6 聖少年/森薔子/著 二見書房 1993.12 913.6
7 センチメンタル・シティ/神崎春子/著 二見書房 1993.7 913.6
8 抱きしめて、硝子の花/藍川京/著 二見書房 1992.12 913.6
9 ナルシスたちの憂鬱/真野朋子/著 二見書房 1993.3 913.6
10烏珠抄/七条沙耶/著 二見書房 1993.11 913.6
11背徳の召喚歌/朝松健/著 二見書房 1993.9 913.6
12花を買う男/有田 万里/著 二見書房 1993.6 913.6
13ベイシティ・ブルース/神崎 春子/著 二見書房 1992.12 913.6
14頬に風、唇に恋歌を/飛雁 有紀/著 二見書房 1993.2 913.6
15僕たちの夏時間/西蓮寺 佑/著 二見書房 1993.4
以上15冊。

ぶどううり・くすこさんによると、指定されたものとされていないものの間に、性描写の程度を含め、質的な差異は見出せないとのこと。(熱田)

> ぶどううり様の方では、リスト上に上がっていた作品と、あがっていなかった作品の間に、質的な差異は見出せないということでよろしいでしょうか?(熱田)

はい。
むしろリストから取りこぼした作品の方が扇情的である可能性を否定する事が出来ないと愚考します。(ぶどううり・くすこ様メール)

  また、同じ絵の表現でも、たとえば、項目(12)であげた成人男性向け官能・ポルノ小説の表紙が問題にならないのだとしたら、「BL」の表紙に使われている、いわゆる「漫画絵」に対する偏見があるのではないか。(熱田)

(3)同じ作家の作品で、媒体や出版社が変わると「BL」指定されなくなっている例‐野阿梓

このリスト中では野阿梓氏のBL作品は『ミッドナイト・コール』一点のみと言う事になっておりますが、実際には後4点(内1点は版型変更による既作)が中央公論社から刊行されております。
又、早川書房から刊行されたSF作品にもBL描写を含む作品がございます。
それらについてはしっかり回避されておりますね。
(ぶどううり・くすこ様メール)

すみません、この点、もう少し伺いたいのですが、つまり、野阿梓さんは、ルビー文庫以外の作品でも、「BL」と認定できるような作品を書かれているということでしょうか?
だとしたら、選別者は「BL」かどうかを、媒体で判断している(実質的にその本がBLかどうかではなく)ということで、それも大変恣意的と言えるのではないかと思うのですが...。 (仮に、とてもいい本がルビー文庫に入っていたとしても、ルビー文庫だと排除されてしまうというような)(熱田よりぶどううり・くすこ様へのメール)

さて、続きまして野阿梓氏の著作について。
お訊ねの通り、野阿梓氏はルビー文庫収録の『ミッドナイト・コール』以外にもBL(≒耽美)と認識できる著作を残されております。
なおそれらの作品は『ミッドナイト・コール』とは異なる物語でございます。
それ故看過された可能性もございますね。
又ご指摘の通り、選別者が媒体によってBLであるや否やを選別していた証左ともなり得るかと。

月光のイドラ 野阿梓/著 中央公論社1993.2
緑色研究上 野阿梓/著 中央公論社 1993.11
緑色研究下 野阿梓/著 中央公論社 1993.11

この3点の野阿梓氏の作品はBLである、と申し上げます。
『月光のイドラ』から『緑色研究』へ続くこの3冊は作品の世界観にSFとある種の主義が巧みに織り込まれておりますのでそれ故看過された可能性もございます。
版型はごく一般的な単行本と同じものとお考え下さい。

又、BL描写を含む作品としましては
少年サロメ 野阿梓/著 講談社 1998.12
バベルの薫り 野阿梓/著 早川書房 1991.1

当方が記憶する限りこの二点が該当するかと。
前者は短編集であり、後者は長編小説でございます。
(ぶどううり・くすこ様メール)

堺市所蔵野阿梓 作品リスト
黄昏郷  野阿梓/著    早川書房 1994.4
兇天使上 野阿梓/著    早川書房 1986.6
兇天使下 野阿梓/著   早川書房 1986.6
銀河赤道祭上 野阿梓/著  早川書房 1988.5
銀河赤道祭下 野阿梓/著 早川書房 1988.5
月光のイドラ 野阿梓/著 中央公論社1993.2
五月ゲーム  野阿梓/著 早川書房 1992.7
少年サロメ 野阿梓/著 講談社 1998.12
ソドムの林檎 野阿梓/著 早川書房 2001.9
花狩人  野阿梓/著 早川書房 1984.5
バベルの薫り 野阿梓/著 早川書房 1991.1
武装音楽祭  野阿梓/著 早川書房 1984.11
伯林星列 野阿梓/著 徳間書店 2008.1
ミッドナイト・コール 野阿梓/〔著〕 角川書店(角川ルビー文庫)1996.6
緑色研究上 野阿梓/著 中央公論社 1993.11
緑色研究下 野阿梓/著 中央公論社 1993.11

※「ミッドナイト・コール」は通常「BL」の媒体とされるルビー文庫だから指定された?

(4)同じ作家のシリーズで指定されているものといないものがある

宮乃崎桜子/〔著〕 斎姫異聞 講談社X文庫 講談社
宮乃崎桜子/〔著〕 月光真珠≪斎姫異聞≫ 講談社X文庫 講談社
宮乃崎桜子「斎姫異聞」シリーズは、堺市に16件所蔵されている。何故この2冊のみが指定され、他のものは指定されないのか。

堺市所蔵「斎姫異聞」シリーズ
1 図書 暁闇新皇(あかときやみのしんのう) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 1999.8 913.6
2 図書 貴人花葬(あてびとをはなにほうむる) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2002.8 913.6
3 図書 天離(あまさかる)熾火 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2001.5 913.6
4 図書 斎庭穂垂(いつきにわにほのたれる) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2002.2 913.6
5 図書 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1998.4 913.6
6 図書 うたかた 斎姫異聞外伝 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2003.8 913.6
7 図書 陽炎羽交(かげろうにはねをかわす) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2000.5 913.6
8 図書 月光真珠 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1998.8 913.6
9 図書 幻月影睡(げんげつのかげにねむる) 斎姫異聞
 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 2003.5 913.6
10 図書 花衣(はなのえ)花戦 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2000.9 913.6
11 図書 宝珠双璧(にたまをならぶ) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2000.12 913.6
12 図書 満天星降(まんてんにほしのふる) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕 講談社 1999.5 913.6
13 図書 夢幻調伏 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1999.2 913.6
14 図書 六花風舞(かぜにまう) 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1998.11 913.6
15 図書 諒闇無明 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 2000.2 913.6
16 図書 燐火鎮魂 斎姫異聞 講談社X文庫 宮乃崎 桜子/〔著〕
講談社 1999.11 913.6
(熱田)

(5)性描写がほとんどないか、まったくない本が指定されている

小沢淳/〔著〕 金色の少年≪ムーンライト・ホーン5≫ 講談社X文庫 講談社
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる≪誘惑≫ Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第3部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる 第4・5部 Eclipsnovel 桜桃書房
皆川ゆか/著 僕は君のためにいる Eclipsnovel 桜桃書房
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 前編 パレット文庫 小学館
かわい有美子/著 今、風が梢を渡る時 後編 パレット文庫 小学館
小沢淳/〔著〕 茜の大陸≪ムーンライト・ホーン6≫ 講談社X文庫
小沢淳/〔著〕 神聖王国の虜≪ムーンライト・ホーン7≫ 講談社X文庫 講談社
小沢淳/〔著〕 密林の聖獣≪ムーンライト・ホーン8≫ 講談社X文庫 講談社

小沢淳のムーンライトシリーズは、国を亡くした王子と従者のゲイカップルが、旅をする話だが、どっちが受・攻かわからず、じれったい思いをしたことがある。
(直接的な描写はない)
あと王子が女好きの浮気性で女性と寝るシーンも少しあったと思うが、直接的ではない。

「僕は君のためにいる」は、作者による「自己流カラマーゾフの兄弟」で、実際にそんな感じ父親殺害をめぐる三兄弟+異母弟の葛藤が話の中心であり、性描写がメインなものではない。
最後に兄弟による性描写が少しあるが、直接的ではないはず。
徳田みどりによる表紙、挿絵が色っぽかったと思うので、そう判断されたのかもしれないが、ありえない。
かわい有美子がパレットに書いたものは青年同士の恋情のほのめかしはあっても基本、BLではない。(加納真紀様メール)


特定図書リストについての分析-3 につづく。


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特定図書排除に関する住民監査請求 補充書(特定図書リストについての分析-1)

2008-12-31 00:00:00 | 「ジェンダー図書排除」事件
「特定図書排除に関する住民監査請求」で
12月9日に陳述で提出した「補充書(意見書)」です。

わたしは、監査請求提出後の事実経過などを「補充書」として提出・説明し、
この意見書は寺町知正さんが説明しました。

排除された5706冊の「特定図書リストについての分析-1」で、
内容は研究者や当該書籍に詳しい人たちがリストを分析したもので
非常に詳細な講評です。
全部で25,000字ほどありますので3回に分けてアップします。
今日は大晦日なので、今年中に一挙公開です。

分量が多いですが、関心のある方はお読みになってください。


(特定図書リストについての分析-1)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書
2008.12.09

堺市から情報公開された今回の排除本のリスト(9月11日分)につき、恣意的なリストアップがされているので、研究者や当該書籍に詳しい人たちが分析した講評を補充の一部とする。
 自治体図書館が公費で取得した書籍等を、下記分析で明らかなように安易に「排除リスト」もしくは「排除すべきかどうか検討するリスト」として整理すること自体が財産の管理を怠る事実というべきである。
以下は、基本的には熱田敬子さんがご自身の意見や他の方の意見をまとめる形で構成されており、他の方の意見は氏名やペンネーム等を記載している。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以下、意見の本文)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※いただいたご意見に関して、熱田個人の意見とは異なるものも、原文ママで掲載し、それぞれの項目につけたタイトルで、その意見にから何が読み取れるかを示している。

※本文中作品名など以外で「」をつけている語句(例えば「BL」)については、その語句の示す範囲が極めて曖昧であり、本文の記述上便宜的にその後を用いるに過ぎないという認識を示す。

1. 選定基準の不明確さと非一貫性
 堺市のリストを確認した複数の意見を総合すると、本リストは統一された基準のもとに選ばれたのではないことがほぼあきらかである。
 個別の作品、シリーズを見ていくと、選別の基準とされたと推測可能なのは下記の通り。

・表紙と挿絵
・タイトルの与える印象
・ノベルズ・文庫
・作家(いわゆる「BL」作家とされているか否か)
・出版社
・性描写の程度や有無
・ジャンル(ライトノベルズか「文学」小説かなど)
・男性同性愛描写であるかないか(性描写の程度・有無と関係なし)
・女性読者向けであるかないかという、出版社の指定するターゲット・セグメント
・本の形態。ハードカバーかソフトカバーかなど。

 ただし、個々の基準はそれぞれ部分的に適用されているのみで、貫徹されているとは言いがたい(後の項目に実例を示したとおり)。
これらの基準が適用されたことにより、実際に問題のある排除が行われている例は後に示すが、すこし考えても次のような問題がある。

・表紙と挿絵…
今回のリストには、絵での性描写が全くないものも多い。
また、「BL」として指定された本の表紙や挿絵の描き手は、少女漫画やライトノベルズの挿絵との描き手と重なり合う部分がある。絵柄や画家での指定が難しいことは次の項目の作家と同様である。実際に、後の項目では、男性二人が表紙に描かれた少女小説が誤って排除されたと思われる事例(画家は波津彬子 )があがっている。(3節・項目(6))
また、同じ性行為描写を暗示する表紙があっても、3節の項目(15)にあげたような作品は、「有害」指定を受けない。「漫画」的絵画表現に対し、偏見があるのではないだろうか。

・作家…作家ごとに排除図書指定率を出してみると、蔵書が100%指定されている作家も数多く存在する 。ある作家の作品だから問題があるという発想だとすれば、表現の自由の抑圧以外の何者でもない。

・出版社…
 いわゆる「BL」を主力商品とする出版社が高い指定率を軒並み誇っている。同じ作家の男性同士の性行為描写を含む作品でも、出版社が変われば指定されていない例もある。(3節項目(3))ある出版社からでている本だから、図書館に置かない/開架に置かないという指定がされるとしたら、それは検閲に等しいのではないか。

などなど…。
そして、上記のような多様な要素が「BL」を判断する基準として、用いられ、その適用のされ方に統一した基準が無い中で図書を排除することが許されれば、非常に多くの本を恣意的に「BL」として排除することも可能になってしまう。実際に、今回のリストでは、排除された理由さえ分からない本が多数ある。3節に具体例を挙げてあるが、図書館はそれぞれの作品に関して、何故この作品を指定したのかを説明する必要があるのではないだろうか。

2. 「BL」を定義すること自体の恣意性

 「BL」という本の範囲を決めることは、一体誰に可能なのだろうか。今回、TV番組「ムーブ」(大阪・朝日放送、2008年11月20日)に見られるように、「BL」をゾーニングすることが問題の解決になるという意見もあるようだが、「BL」というジャンルは、そのようなゾーニングを問題なくおこなえるほど、はっきりした定義を持っているのだろうか。「文学」の範囲に関する誰もが納得する定義が未だおこなわれていないのと同じく、「BL」に関しても定義は難しい問題だ。今回のリストを検討した結果、この定義の曖昧さが引起す、様々な問題が明らかになっている。(3節で詳述)

しかも、今回は、従来の猥褻表現に関する議論とは異なり、個別の本、個別の表現に関して問題が提起されたのではない。「BL」というジャンル自体が問題とされたのである。「BL」に関しては、「文学」よりもはるかに批評が少なく、表現に関する議論がつくされていない。それにしては、堺市における「BL」定義の仕方はあまりにもナイーヴであり、少女小説、同性愛を描いた文学作品、ライトノベルズなどの若者向け小説、官能小説など、隣接する様々な分野の表現までを抑圧する可能性に満ちている。「BL」とされる作品、今回のリストに掲載された作品の書き手、挿絵画家、出版社などは、こうした隣接分野と弁図のように重なり合っている。ある作品は「BL」であって、「少女小説」ではないという基準はなんだろうか。

例えば、「男性同士の性行為描写を描いた、女性向けの作品」を排除したのだとしよう。しかし、「男性同士の性行為描写」があればすべて排除されているというわけではないことは、後に載せる項目(6) (4) (9) (10) (14)からわかる。この差異は何によるものなのか。項目(6)であげた作品など、少女小説の中にも、同性同士の思わせぶりな仲のよさを描く、いわゆる「耽美的」とされる描写が存在する。今回のリストを見る限り、「BL」が、性表現のほぼ皆無な作品までリストアップされ、「耽美的」描写が不問にふされる理由は不明である。

もちろん、「男性同士の性行為描写」をもって本が排除されるとしたら、これはセクシュアル・マイノリティへの差別に他ならないことは、項目(7) (8) (12) (14)、また千田有紀さんの具体的な作品に基づいたご意見からも明らかだ。また、「女性向け」という部分を持って排除したとすれば、図書館が本の読者層を規定する行為であり、やはりするべきではないだろう。

 また、今回、性行為描写の「過激さ」の程度によって「BL」が問題とされたのではないことは、項目(2) (3) (9)(10)(13)(15)から分かる。ほとんど性行為描写の無い作品も、作家・ノベルズ・シリーズなどで判断されて、もしくは「男性同性愛」である、図書館の想定する読者層が女性であるという理由で排除されているとしか思えない事例がある。

 これは、リストを精査していないことによる一時的な混乱、混同なのであろうか? そうではない、と信じる理由がある。仮に、性行為描写が問題なのであれば、それこそ(12)にあるような男女の性描写も問題とするべきであろう。また、「文学」の性表現を問題の無いものとし、若者向け・女性向けとされる小説の性表現のみを問題とする、ジャンル差別が今回のリストからは透けて見える(項目(10))。ジャンル差別をおこなわないのであれば、「文学」の男性同士の性表現も問題とされるはずである。しかし、そのように、「BL」・「ポルノ」…と図書館が本に「有害」レッテルを張り、書庫にしまいこんでいくことが、「表現の自由」を侵すことは明らかであるはずだ。

 このような恣意的としか言いようの無いリストに対し、図書館の言う、「内容に踏み込んだ」精査が仮に今後おこなわれるとすれば、その「内容」とはなんだろう。「性表現」を基準に作中の行為者の性別や、出版社、ノベルズ名などを問わず「精査」するのだろうか。その際に、その性表現が作中のストーリーに不可欠なものであったとしたらどうなのだろう。3節の項目(14)や、千田有紀さんご意見では、男性同士の性行為表現がストーリー上不可欠と思われる事例が挙げられている。しかし、こうした「不可欠かどうか」の判断は、常に読み手にゆだねられるべきではないか。その本に性行為描写を必要とする、ストーリー性や文学性があるかどうかを、図書館が判断するのだろうか? (例えば、渡辺淳一の『失楽園』や『愛の流刑地』のsex描写はストーリー上不可欠で、「BL」のsex描写はストーリー上不可欠ではないのだろうか。)

また、図書館の使命の一つであるはずの、資料収集についても、後に掲載する千田有紀さんが述べておられるように、「BL」という消費され、消え去ってしまう本を、資料として留めることは必要であろう。同時代的に評価されない作品が、時間の経過とともに資料的価値を高める場合が少なくないことは、大宅荘一文庫などの例を挙げるまでも無い。

今回の、堺市での「BL」本排除に関して最大の問題は、この「BL」というジャンルを、図書館が一貫性を持たず、公の議論も経ていない、独自の基準によって、恣意的に定義し、かつそれを排斥したということにあると思われる。「BL」作品の中に、問題の無い表現が無いわけではない。男性同性愛を描きながら、書き手の同性愛嫌悪と受け取れる表現を含んでいる事例や、既存の極めて保守的で抑圧的な結婚・恋愛観を再生産していると受け取れる表現も存在する。こうした表現については、個別に取りあげて議論をおこなうことが必要であるかもしれない。しかし、「BL」作品の表現について、生産的で実りある議論をするためには、作品が誰にとってもアクセス可能であることが必須条件であろう。(Butler1997=2004)
ジャンル自体をいわば、「禁書」にするという発想、そして3節で詳述するリストを検討していた際に明らかになった問題群からは、大変残念なことに、今回のリストを作成した者の(おそらく無自覚な)偏見や差別意識が透けて見える。

3. 今回のリストに見られる具体的な問題例

下記、16項目にわたり、リストをご覧になった方からの実例を挙げた問題点の指摘や、ご意見をまとめておく。今回の分析にあたっては、ぶどううり・くすこさん、加納真紀さん、匿名のご協力者の方のご意見を参照させていただいた。それぞれの方のご意見については、ご本人に了解を取った上で、誰の発言かが分かるよう表記している。
また、社会学者の千田有紀さんからもご意見をお寄せいただいたが、これは一つのまとまりある主張となっていたために、切り張りはせず、末尾に掲載した。図書館の役割や、指定された作品の背後にある思想や主張を問わず、リストが作られている状況へのご批判など、大変貴重なご指摘がある。参照されたい。



特定図書リストについての分析-2につづく。

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