山形市の東にひときわ高く尖った山容を持つ経塚山がある。この山に登山道はなく、土曜山友会が雪の時期にルートを定めた山である。毎年、年末の登山納めはこの山へ登るのが恒例となっている。登山口に神社や寺院があり、頂上に経本を納めた信仰の山でもある。標高840mと里山であるが、頂上へは急登あり、痩せ尾根ありで登山の楽しさを凝縮しているような山である。
この日、昨夜来の雪で山中は膝を越える積雪であった。雪は湿気の多い重い雪で、カンジキに重く着いてきて脚力を消耗する。ラッセルは交代で行うも、頂上まで2時間半の行程であった。食糧も行動食、飲み物はペットボトルに詰めたイオン水である。GPSと前回登ったピンクのリボンを目印に行動する。頂上まではルートを取り違えることもなく到着。
下山は尾根道を送電線の鉄塔を目標に降りる。ルートは尾根を外さないように注意して進むが、鉄塔への転換点を誤り、約30分登り返す。ガスがたち込めている上に霙のような雪も降ってくる。手袋は濡れて、3束を取り替える。下りのルートはアップダウンと岩場回りこむトラバースもあってスリルを味わう。山中での行動時間9時間。予想を超えた厳しい行程であった。
下山もあと少しのところで携帯がなる。孫からの電話。カンジキで雪を踏む音が孫の受話器に聞こえた。「え、いま外?」「そう山のなかだよ」「え、大丈夫?気をつけてね。お肉届いたよ。ありがとう」「うん、もうじき下山だよ」久しぶりの孫の声を、こんな雪山のなかで聞く不思議。携帯でんわという通信がこんなことを実現している。
ふかぶかと眠る山みな無名なり 堀口 星眠