日の落ちるほんの少し前、青い空に飛行機が飛んだ。白い機体の後ろには、ふた筋の飛行機雲が美しい。走ってカメラを取って写してみた。写真の中の飛行機雲は雲の間の、爪の痕のような小ささだ。青空の浮かぶ雲を見ていると、地上の自分の存在を忘れる。なぜ空は青いのか、雲を染める夕日が沈んでいくだけに意識が集中してしまう。
ましはりは紙子の切を譲りたり 丈艸
杜甫に「貧交行」という詩がある。「手を翻せば雲となり、手を覆せば雨となる」。人の世の軽薄な人づき合いに苦言を呈したものだ。貧時に助け合った友情はその尊さを失うことはない。昨夜、学生時代をともに過ごした9名の同窓が集まった。72歳でまみえるのは、健康に過ごしていることの証でもある。
丈艸の句は貧しいものが着た紙子を取り上げている。絹や毛糸など温かい織物ではなく、仙花紙と呼ばれる和紙で作った着物である。厚手で丈夫でもあったが所詮は紙、雨にあたれば破れもする。そこを繕うのが切である。「紙子が破れたら、こてで繕いなさい」と渡す。そんな貧者の付き合いを句にした。芭蕉の歌仙『猿蓑』に収められている。