夜な夜なシネマ

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『ボレロ 永遠の旋律』

2024年08月20日 | 映画(は行)
『ボレロ 永遠の旋律』(原題:Bolero)
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ラファエル・ペルソナ,ドリヤ・ティリエ,ジャンヌ・バリバール,ヴァンサン・ペレーズ,エマニュエル・ドゥヴォス,
   ソフィー・ギルマン,アンヌ・アルヴァロ,アレクサンドル・タロー,マリー・ドナルノー,フランソワ・アリュ他
 
なんばグランド花月で“中川家 特大寄席 2024”を観る前に、なんばで2本。
前日に高校の同窓会でしこたま飲んでいるため、この日は酒抜き。
なんばへ行くときの常で黒門市場近くのコインパーキングを狙って行ったら、
この辺りの最安値、10時間最大料金900円のタイムズに1台だけ空きあり。ラッキー。
TOHOシネマズなんば別館へ。
 
フランスの作曲家モーリス・ラヴェルの曲の中で最も有名な“ボレロ”はどのように誕生したかを描く音楽伝記ドラマ
監督は『ボヴァリー夫人とパン屋』 (2014)や『夜明けの祈り』(2016)のアンヌ・フォンテーヌです。
 
1875年生まれのモーリスは、バスク人の母親とスイス人の父親との間に生まれ、幼い頃から音楽の才能を発揮。
ローマ賞(芸術選考の学生に対してフランス国家が授与する奨学金付き留学制度)にエントリーするも落選。
しかし母親や親友シパの支えにより挫折することなく音楽の道を進みつづける。
 
ローマ賞に落選しようとも彼の評価は下がることなく、
特に著名なバレエダンサー、イダ・ルビンシュタインはモーリスに首ったけで、彼の曲で踊ることを切望。
モーリスはその話を引き受けたものの、まったく音が思い浮かばないまま日が経ってゆくのだが……。
 
生涯独身だった彼について、本作のなかでそのセクシュアリティが具体的に描かれているわけではありません。
ただ、彼に想いを寄せるミシア(=シパの姉で既婚者)を好きでありながら、彼女のいかにもなアプローチを躱す。
彼女から遠回しにゲイなのかと聞かれると否定はするけれど、だからと言って女性にも性的な興味はない。
つまり、女性にも男性にも性的な欲望はまったく感じないアセクシャル(無性愛)の人として描かれています。
 
モーリス役のラファエル・ペルソナの美しい顔立ちは、そんな中性的な人物像とよく合っていて、
彼が「官能」について理解できずにいる戸惑いも良い具合に伝わってくる。
自らは性的な関心を持ったことがないからわからないのに、周りの人は自分の曲を官能的と評するのですから。
工場の風景にぴったりだと思った“ボレロ”の舞台を娼館にされて下品だと激怒するけれど、
渋々観に行った初演で絶賛され、下品と官能的は違うのだと初めて知るのですね。
 
偏屈と言えなくもない彼は純粋で、だからこそ彼を支える人が多くいたのかと。
鑑賞中はどういう間柄なのかわからなかった同居人マルグリット・ロングはピアニストなんですね。
シパ、イダ、ミシア、いずれも実在の人物なので、鑑賞後に調べるのもまた面白い。
 
オープニングではジャズやレゲエやヒップホップにアレンジされた“ボレロ”の映像が流れて冒頭からもうウキウキ。
明るい内容の作品ではないのに、音楽に魅了されて切なくも晴れやか。
後世に残した曲は決して多くはなくても、こうして誰もがその旋律を知る曲がある。
15分に一度、世界のどこかで何らかの“ボレロ”が演奏されているそうです。

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