goo blog サービス終了のお知らせ 

夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『あしたのパスタはアルデンテ』

2011年09月13日 | 映画(あ行)
『あしたのパスタはアルデンテ』(原題:Mine Vaganti)
監督:フェルザン・オズペテク
出演:リッカルド・スカマルチョ,ニコール・グリマウド,アレッサンドロ・プレツィオージ,
   エンニオ・ファンタスティキーニ,ルネッタ・サヴィーノ,イラリア・オッキーニ他

先週末の公開初日、来場者記念に配られたのは、
イタリア最大の食品会社バリラのカペッリーニ500g、
冷製パスタのレシピとともに、ロゴマーク入りのバッグに詰められて。
箱にもレシピにも「カッペリーニ」と書いてありますが、
以前、敬愛する某店のシェフが「カペッリーニが正解」とおっしゃっていたので、あえて。

ローマの大学の文学部を卒業したトンマーゾ。
実家は南イタリアのレッチェにある老舗のパスタ会社。
トンマーゾの兄アントニオの新社長就任が決定し、
一族そろってその祝賀晩餐会を開くことに。

帰郷したトンマーゾはアントニオに秘密を打ち明ける。
まず、大学では経営学を学んでいると両親に偽っていたこと。
そして、自分は家業を継ぐ気はなく、作家になりたいということ。
とどめは、自分はゲイであるということ。
晩餐会の席でこれらをカミングアウトしようと思っている。
自分はまちがいなく勘当されるから、会社は兄さん一人に任せると。

ところが、晩餐会当日、トンマーゾがカミングアウトしようとした瞬間、
先にアントニオが立ち上がる。「僕はゲイだ」。
唖然とするトンマーゾの前で、父親はアントニオを勘当して卒倒。
病床の父親から懇願されたトンマーゾは、何も言い出せないまま、
共同経営者の娘で奔放な美女アルバとともに、
工場の運営に当たることになってしまい……。

「弱り目に祟り目」の表情に笑わされるイタリアンコメディです。
当日の客層は吉本新喜劇に来たかのようなおばちゃんが多くて、
笑いのハードルがたぶん低め。
笑うつもり十分で来ている人たちに引っぱられ、
そんなつもりじゃなかったこちらまで大笑いしてしまうのでした。
劇場全体がガハハ笑いに包まれてとてもいい感じ。

世間体を気にする両親と噂好きの住民の様子、
特に母親といけ好かない婦人の応酬は最高。
トンマーゾの姉の器の大きさにはシビれます。
「ナポリの男」の言われようも興味深く。

ローマになかなか戻ってこないトンマーゾを心配して、
口実を見つけて会いにくる友人たちは全員ゲイ。
トンマーゾの家族たちにゲイだとバレないようにと頑張りますが、
それがことごとく可笑しい。愛すべき男どもです。

原題は“Mine Vaganti”で、「浮遊機雷」の意だそうな。
これは、何をしでかすかわからないおばあちゃんに一族が付けていたあだ名。
そんなおばあちゃんの助言は、「他人の望む人生なんて、つまらない」。

観終わって、バリラの袋をぶら下げて入ったお店でひとりランチ。
手打ちのパスタがいつも以上に美味しかったです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ホームカミング』

2011年09月10日 | 映画(は行)
『ホームカミング』
監督:飯島敏宏
出演:高田純次,高橋惠子,麗奈,秋野太作,黒部進,森次晃嗣,
   木野花,高橋ひとみ,林隆三,竜雷太他

「平成の無責任男」の異名をとる高田純次のレンタル新作。
監督は『金曜日の妻たちへ』のプロデューサーで、
金妻(キンツマ)の全期にわたって演出を手がけてきた人。
本作もスケール的に映画というよりはTVドラマっぽい気がしますが、
この顔ぶれが織り成すドラマは、人情味に溢れていました。

定年を迎えた鴇田(トキタ)は、職場を華々しくあとにする。
仕事一筋だったサラリーマン人生を終え、
これから妻とふたり、第二の人生をスタートさせるつもりだが、
その妻は社交ダンスやらなんやかや、勝手に忙しそう。

とりあえずジョギングでも始めるかと町内を一周すると、
すでに定年後の人生を送って長い先輩諸氏と遭遇。
61歳の鴇田はいちばん若手ということで、みんなの期待が集まる。

実は、鴇田の住む“虹の丘タウン”は、かつては理想の街と謳われたニュータウン。
しかし、若者が次々と出てゆき、いまや住民の平均年齢は68歳。
街に活気を取り戻すべく、鴇田たちはお祭りの開催を企画するのだが……。

観始めたとき、まっさきに思い出したのは、重松清の『定年ゴジラ』。
定年を迎えた主人公がまっさきに始めるのは散歩でした。
そこでやはり定年組の男たちに出会います。
この『ホームカミング』同様、寂れゆくニュータウンの開発に関わった人もいて、
そんな人たちの話がなかなか興味深いです。

自治会の活動にはいっさい参加したくないと言う住民も増えて、
お祭りを企画したものの、思うように進めることができません。
住民の中にヤクザを生業とする男がいて、露店の上がりはすべて自分へと言い出したり。
林隆三演じるこのヤクザが、そんな調子のいいことを言いながらも、
焼きそばに使う安物ソースを美味しくする秘法を伝授するシーンが○。

また、この街出身の元ヤンキー、べっぴん女子が婦警となって交番へ。
この街が好きでたまらないという彼女は、街の活性化に一役も二役も買います。
彼女とは逆に、街を嫌って出て行った息子に見せる父親の勇姿。
悪人が一人もいないドラマというのは安心感100%。

なお、監督はウルトラマンシリーズにも頻繁に関わっているため、
出演陣にモロボシ・ダンとハヤタ隊員もいらっしゃいます。(^o^)

余談ですが、『定年ゴジラ』で「ほ~」と思ったのは、
ニュータウン内のスーパーの立地に関する話でした。
ジャージで行くにはちょっと躊躇する距離。
その微妙な距離にスーパーを建設することで、
ニュータウンのレベルが維持されるというような。なるほどなのでした。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『四畳半神話大系』と闇鍋と。

2011年09月06日 | 映画(番外編:映画と読み物)
ファンの方には何をいまさらと言われそうですが、
いまいちばんお気に入りの作家は森見登美彦氏です。

『太陽の塔』で惹きつけられ、摩訶不思議な『きつねのはなし』にハマり、
『夜は短し歩けよ乙女』を読み終えたときは満面の笑みに。
「幸せだぁ!」と叫びたくなるほどでした。

その後、文庫化されている作品は買い揃えたものの、
気に入った作家の著作を一気読みすると、必ずとてつもない寂しさに襲われます。
あの寂しさを思うとなかなか手をつけられずにいましたが、
視界にちらちらし続けていることにも耐えられなくなり、
ついに『四畳半神話大系』を読むことに。
これがまた……やられました。

京都の大学にかよう男子学生の一人称による小説で、4話構成。
前知識がないまま第1話を読み終えたときは、「ふーん」てな感じ。
ところが、第2話に入って、何でしょう、この既視感(デジャヴ)。
しかも、会話中に「デジャヴですよデジャヴ」なんて台詞まであるし。
構成の妙に気づいたとき、ニンマリしてしまいました。

もしかして未読で、読んでみようかなと思った方には、
何も知らずに読んでいただきたい気もするのですが、とりあえずはご紹介。

第1話から第4話まで、すべて同じ一文で始まり、同じ一文で終わります。
主人公が入学時に選んだサークルによって、大学生活がどう変わったか。
3回生になった彼がそれを語っています。

第1話は、映画サークル「みそぎ」に入った場合。
第2話は、「弟子求ム」の奇想天外なビラに引かれ、ある男に弟子入りした場合。
第3話は、ソフトボールサークル「ほんわか」に入った場合。
第4話は、秘密組織「福猫飯店」に入った場合。

どれも登場人物やアイテム、情景がかぶっています。
猫から出汁を取っているという噂の猫ラーメン。幻の高級亀の子たわし。
ふにふにしたスポンジ製のクマ。ダッチワイフの香織さん。
魚肉ハンバーグに、ちりめん山椒に、出町ふたばの豆餅、カステラ。
貴重な書類は階上の水漏れによって猥褻非猥褻のへだてなくふやけ、
主人公の後輩である明石さんの絶叫は、どの話でも「ぎょええええ」。
もう可笑しいなんのって。

森見さんの文体が駄目な人はとことん駄目なようで、
駅のホームでゴミ箱に放り込んだなんてレビューも見かけました。(^^;

出だしの一段落は、
「大学三回生までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。
異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための
布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの
打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか」。
これであかんと思った人は無理かも~。

ところで、抱腹絶倒の闇鍋シーンも登場することから、
10年ほど前の台風が来そうだったけどそれた日に、
闇鍋ならぬ闇バーベキューをしたことを思い出しました。
真っ暗な河原でつつく鉄板は、何が何だかまったく見えないので、
ニンジンだかサツマイモだかわかりゃしません。
なんだかわからないままで口に放り込む瞬間はかなり恐ろしい。
「見えないものを喰うというのは、思いのほか不気味なことである」。まったく同感。
「何だかコレうにょうにょしてるわよッ」。可笑しすぎ。

映画サークルに入る設定があったものだから、
映画ネタなしのこんな日記も入れちゃいました。すんません。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ソウル・キッチン』

2011年09月02日 | 映画(さ行)
『ソウル・キッチン』(原題:Soul Kitchen)
監督:ファティ・アキン
出演:アダム・ボウスドウコス,モーリッツ・ブライブトロイ,ビロル・ユーネル,
   アンナ・ベデルケ,フェリーネ・ロッガン,ヴォータン・ヴィルケ・メーリング他

ドイツ/フランス/イタリアの作品。
今年新春に公開されたレンタル新作です。

食べ物が出てくる映画には目がないので、
公開当初「キッチン」と聞いただけでピピッと来ました。
しかし、ソウルは地名のほうだと思い込み、よくよく調べたら魂のほう。
非常に印象に残っている『そして、私たちは愛に帰る』(2007)の監督だと知り、
暗めの作品を想像していたら、実に加減の良い明るさ。

ハンブルクの倉庫然とした大衆食堂“ソウル・キッチン”。
ギリシャ系移民のジノスが若きオーナーで、
そこそこの常連客はいるものの、繁盛からはほど遠い。
滞納中の税金をなんとかしなければ営業を続けられない。

ジャーナリスト志望の恋人ナディーンが上海へ旅立つ前夜、
彼女の親族による高級レストランでの食事会に出席したジノスは、
シェフのシェインが客と喧嘩してクビにされる場面に遭遇。
早速スカウト、シェインは“ソウル・キッチン”のシェフに就任する。

ところが、これまでどおりの冷凍ポテトフライやカツを望む常連客は、
シェインの料理を試しもせずに拒絶。店には閑古鳥が鳴き始める。

ジノスの不幸はこれだけでは終わらない。

まず、服役中だったギャンブル狂の兄イリアスが仮出所してジノスのもとへ。
次に、不動産業に就く学生時代の友人ノイマンが、
よからぬ商売の場所としてジノスの店を入手することを画策。
ノイマンの匿名通報で衛生局が抜き打ち検査に訪れ、キッチンの全面改装を言い渡される。
そして、税務署がやってきて、店になくてはならないステレオを差し押さえ。
とどめに、ひとりでキッチンの物品を移動中、重症の椎間板ヘルニアに。

収拾がつかないこの状態をいったいどう打破するのか。

シェインが高級レストランをクビになったきっかけは、
気取った客が「温かいガスパチョを出せ」と言ったこと。
シェインが「ガスパチョっちゅうのはそもそも冷たいねん」と断ったところ、
「つべこべ言わずに温めろ」と言われてシェインがブチキレ。
これに似た光景は、『マーサの幸せレシピ』(2001)などにもありましたが、
実際にこんな理不尽なことを言う客もいるのでしょうね。

くすりと笑ってしまう話がちりばめられていて、
とにかく、どいつもこいつも憎めません。
美人整体師やインド人による施療シーンは抱腹絶倒もの。
シェインとジノスの調理場シーンはまるで掛け合い漫才です。

クール・アンド・ザ・ギャングやクインシー・ジョーンズなど、
懐かし目の曲がいっぱいのサントラも嬉しくて、
観終われば、なんとなく幸せな気持ちになっている、そんな作品でした。
心もお腹も満たされます。

ここはまさに“ホーム”。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする