14時43分ころ、電話がかかった。
表示を見ればおふくろからだ。
いつもかかる開口一番は「かーさんいてる」だ。
このときは違った。
震える声で伝えた言葉は「火事やー、火が燃えているー」だ。
「隣が燃えている」という。
えらいことになった電話口の向こう。
大阪住之江の市営住宅団地は5階建て。
おふくろが住む部屋は4階だ。
隣と云うのは別の棟なのか。
「どこの棟だ」と問えば「隣」だという。
隣は向かいかもしれないが、とにかくそこから脱出するのが先決。
「下に降りて逃げろ」と指示をだして電話を切った。
電話口から聞こえる音があった。
消防車と思えるサイレンだ。
どなたか判らないが通報されたのだ。
無事に下に逃げ切ったのか、それとも煙にまかれて逃げきれなかったのか。
会館で卓球をしているかーさんに携帯電話をかけても出てこない14時6分。
部屋のカギを締めて車を急ぐ。
慌てないが胸はドキドキだ。
緊急を要する事態であるが安全運転に集中する。
会館に着いてすぐさま受付に問い合わせる。
場はここだった。
元気よく卓球をしていたかーさんを見つける。
「えらいこっちゃ。とにかく急げ」と呼び出してそのまま車に乗せて第二阪奈道路、阪神高速道路をブッ飛ばす。
もしかとすれば携帯電話を持って逃げたかもしれないと思ってかーさんに電話をさせた。
音信不通だ。
それから30分後にプププと電話が鳴った。
おふくろからだった。
声は震えているようだが無事に逃げたようだ。
まずは一安心。
住之江ICの出口。
前方に赤い車が走っていた。
サイレンは鳴らしていない。
おそらくは火災現場の調査に入る緊急車両。
団地に着けば何台もの消防車があった。
緊急車両は思った通りの現場検証・調査車両だった。
火災現場の棟はおふくろが住む棟だった。
立ち入り禁止ロープを張っていた。
火災はすでに消火されていたものの様子を見守る人たちが群がっていた。
棟の下には消防車が一台。
通りがかった大阪府警の婦人警官に声をかけた。
「おふくろがここに住んでいるんです。電話がかかって大急ぎできました」と云えば、名前を告げられた。
おふくろの名前だ。
「ご安心ください。今は自宅に戻っておられます」と伝えられて動転していた状況からほっとする。
着いた時間は15時36分。
一時間足らずでおふくろの無事を確認できた。
団地北側は火災の痕跡がまったくないが、南側が燃えた跡がある。
ドロドロに溶けた何かがベランダをつたっている。
火災発生した場は4階。
5階は煙が焦がしたような感じだ。
3階はそれほどでもないがやや黒ずんでいる。
東側4階がおふくろが住まいする処。
類焼は免れたが、西風に煽られて燃えカスがベランダに散らばっている。
朝、ベランダに出たおふくろ。
隣の家は布団を干していたと認識している。
それが何かの火で燃え移った。
14時30分、遅めの昼ご飯の準備をしていた。
十数分経ったときのことだという。
西風に煽られた黒い煙が見えたそうだ。
何事が起ったのかと思った瞬間に火の手が見えた。
大慌てで我が家に電話をした。
それが「火事やー」という緊急電話だったのだ。
私の指図ですぐさま下へ降りた。
動悸、激しくパニくっていた。
「大丈夫ですか」と何人もの人たちに声をかけられた。
その姿を見た婦人警官が寄ってきて支えるように保護してくれた。
退避した東側で腰かけていたという。
消火されて類焼していないことを伝えられて自宅に戻った。
置いてあった携帯電話はランプを点灯していた。
かーさんからの電話だ。
それで無事を伝えたという。
現場検証をしている4階ベランダ。
設置していたガス湯沸かし器辺りが最も黒い。
何が原因で火が発生したのか判らないが、その火が布団に移ったようだ。
家人は出かけられていたのか不在だったようだ。
窓は締めていたので屋内は燃えていない。
各戸のベランダ間には間仕切りがある。
防火扉の目的もある間仕切りで類焼は防げられた。
大きな火事に発展しなかったことが幸いだ。
到着して数時間後には消防車・調査車両も引き上げた。
落ち着きを取り戻したおふくろ。
その顔を見て私たちも現場検証を終えて帰路についた。
それから1ヶ月後に聞いた火事の原因。
ベランダに置いてあった洗濯機が原因。
それも漏電だったというおふくろ。
隣近所も同じようにベランダに設置している洗濯機。
おふくろの家はお風呂とトイレの間にある。
当然のごとくアース線を繋いでいる。
隣近所の設置具合は知らないが、もしかとすれば漏電の原因は洗濯機の水漏れ。
何らかの状態が発生して火花が干してあった布団に燃え移った。
そう思うのである。
火災発生源の入居者は転居された。
明け渡し請求が出たのか、それとも自主的に退去されたのかどうか判らないがようが引っ越されたのだ。
(H27. 5.11 SB932SH撮影)