赤いリボンで髪をたばねたミニスカートの少女が
人混みでごったがえす新宿の裏道を走りぬけていく。
彼女が撥ね散らす10月の空気の飛沫を浴びながら
ぼくは数十年まえにもどって
ドラ猫の 恋のダンゴを踊りたくなって
しばらく彼女のあとについて走ってみた。
だけど 二百メートルもいかずに息切れし
がつんと通行人にぶつかって
彼女を雑踏の中に見失った。
しなやかな若々しい体は妖しい発光体となってあたりを照らす。
さあ どこまで走ったら あの娘(こ)に追いつけるだろう。
たとえ 夢のとびらの向こう側であっても。
苦役にめげて猫背になったおじさんたち おばさんたち
忘れてしまった恋ごころを思い出し
恋の情熱を讃えよう。
男と女と 女と男と。
ベッドの中でなんてそんな回り道をしているいとまはない。
こうしているあいだにも
老いしおれていくとしたら。
老いしおれていくんだ。
この時空を切り裂いて
キンモクセイが強烈ににおっている。
「さあ あたしを抱いて。あたしを愛して。
いのちの限り」と挑発する音楽。
くたびれて人気の少ない岬のようなところばかり
好んで歩いてきたんだろうか ぼくも?
食べて 寝て 仕事をしたら
そのあとはなにをしたらいい?
ぼくのしめった皮膚を切り裂いて
遠くへと駈けていった少女よ
少女よ。
赤いリボンで髪をたばね
人混みでごったがえす新宿の裏道を走りぬけていった少女よ。
リベルタンゴを胸に秘めたしなやかな魚よ 魚よ。
恋についてもっともらしく語るのではなく
さあ 恋しい人の胸に躍りこんで
その心臓を銜えながら舞え!
――舞え!