二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

ある朝きみは(ポエムNO.55)

2011年09月12日 | 俳句・短歌・詩集


あれもこれも単なるおしゃべりにすぎないと気がついて
ぼくもきみも黙り込む。
CD音楽がとつぜんボリュームをあげたかのように
意味のない空間をうめて やがてやんで
本物の静寂がくるかと期待していると
戸外では木の葉が風のざわめきを奏でている。

詩の中に閉じこめたはずのことばが
そのあいまに突如露出し
ごつごつした山襞のように崩れかかる。
きみは立ち上がってキッチンへ入っていき
マグカップを二人分もってもどってくる。

たったそれだけの行為なのに
もどってきたきみはさっきのきみとは
少し別人になっている。
ぼくに抱かれたがっていたくせに
「男には用はない」という顔をして
コーヒーをひとくちすすって庭へ出ていく。

あの日からこの日へ
庭の植え込みのあたりからぼく自身の指さきへ
真珠いろの霧がはれていく。
レンズを通ってきた光景のようにものがよく見える。
出会いも別れもそこいらにゴミみたいにひっかかってゆれている。
思い出という湿気の多いあの厄介なよごれも。

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