二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

王道の英国ミステリ ~クロフツ「スターヴェルの悲劇」がおもしろい

2023年12月21日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■F・W・クロフツ「スターヴェルの悲劇」大庭忠男訳(創元推理文庫 1987年刊)原書は1927年


アガサ・クリスティーがミステリの女王だとしたら、クロフツは王ということになるかもしれない・・・とかんがえるようになった。ハラハラ、ドキドキ、おもしろかったですよ、これ(^^♪
いろいろな隠し味が、じんわりと舌を痺れさせてくれた。トラベルミステリの逸品というのはその味の一つ。鉄道がじつによく出てくるし、飛行機や客船も登場する。
クロフツは“退屈派”だという人がいるいようだけど、とんでもない話(*´ω`)

《スターヴェル屋敷が一夜にして焼失し、主人と召使夫婦の焼死体が焼け跡から発見され、金庫の中の紙幣が大量に灰になるという事件が起こる。微かな疑問がもとで、スコットランドヤードからフレンチ警部が乗り出すこととなった。事故か? 放火殺人か? だが、フレンチの懸命な捜査を嘲笑うように、事件は予想外の展開を見せて……。クロフツ初期の傑作として名高い作品の完訳。》BOOKデータベースより

スターヴェル屋敷というのは、イギリスのムーア (地形)に立地しているのですね。日本語では荒地とも湿地ともいう。「嵐が丘」の舞台を連想してしまうなあ、どうしても。
クロフツはとても丁寧に、リアルにその風景を描破している。
スターヴェル屋敷が一夜にして焼失し、主人と召使夫婦の焼死体が焼け跡から発見され、金庫の中の紙幣が大量に灰になるという悲惨な事件が起こり、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)からフレンチ警部が乗り出すことからはじまって、山あり谷あり、読者は迷宮的な世界へと引きずり込まれる。ヒロインをふくめ登場人物すべてが、背後に闇を抱えている。

本編「スターヴェルの悲劇」は最終コーナーで大どんでん返しが用意されている(^^;;)
あっと驚く結末なのですよ、皆さん!
犯人は天才型、捜査にあたる警察は凡人型。つまり凡人がこつこつと時間をかけ、天才を追いつめてゆく物語といっていいかも。
「クロイドン」ほどのユニークさはないものの、最終コーナーの盛り上がりはそれまでの“中だるみ”を吹き払ってあまりあり、ですよ。

第17章「結婚指輪」、第18章「累積証拠」第19章「最終コーナー」はドラマチックで圧倒された。あれかこれかの糸を手繰り寄せてもたちまち行きづまりになる。それでも執念の捜査が、最後の最後に勝利する。
フレンチ警部は警視庁の首席警部を夢みてはりきっている♬

どなたかが、クロフツの一点一画をも疎かにしない“楷書の見事さ”を指摘している。
「樽」がデビュー作で、それまでは鉄道技師一筋。
そういう人物が書いたミステリなのである。「スターヴェルの悲劇」はフレンチ・シリーズの第3作、「樽」から数えて7作目にあたる。このあたりまでは一般的に“初期作”と見なされている。
本編はAmazonでは☆マークが、279もあって、突出しているが、どなたかがきっと記事を書いて(あるいは映像化して)称賛したのであろう。オールタイム・ベストの「樽」でさえマークは124個なのにね。

巻末にネタは古いが、「内外ミステリ談義」というのが収録されていて、クロフツをめぐって中島河太郎、紀田順一郎、北村薫、小山正の4人がクロフツ談義をやっている。聞き手が戸川安宣。
近ごろはクロフツは勢いを失っているようだが、このころは定番といっていい人気を誇っていた。

ところでクリスティーの活字の大きな現行版を10冊ばかり揃えて、「さていくぞ!」と体制は整っているけど、どうもさっぱり読みはじめる気配なし。
「樽」のクロフツ(40歳)と「スタイルズ荘の怪事件」のクリスティー(30歳)は1920年と、デビューが同じ年なのですね。
まあ、わたしはミーハーですからねぇ、いずれクリスティーに手をのばすと思いますが。
へそ曲がりなので、褒められすぎというのもちょっと・・・ね。人があまり読まないものを読むのが粋なのです^ωヽ*

つぎはこれかな?


   (表紙は古いけど、文字の大きさは現行版と変わらないようです)



評価☆☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 倒叙ミステリの鮮やかな里程... | トップ | 企業ミステリの佳品 ~クロ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ミステリ・冒険小説等(海外)」カテゴリの最新記事