「いかにも教科書的で退屈な本だなあ」
読み出しはそんな印象で、物足りなかった。通史的・・・いかにも通史的で、勇み足(主観的になりすぎ)を警戒しているのか、慎重で無難な書きぶりなのだ。
しかし、第三章「大化の改新」あたりからぐいぐいと引き込まれた。
《七世紀史はこの半世紀、日本古代史研究の「主戦場」であった。個性あふれる学説が林立し、論争が繰り広げられてきた》(本書196ページ)と吉川真司さん(京大教授)は書いている。
そうだ、古代史の中では、古墳時代と、この7世紀史が別格のおもしろさを備えていると、わたしは思う。
すべり出しはともかく、読みおえてみて「出会えてよかった」とにんまり(*゚ー゚)v。
宮廷のクーデターであった乙巳の変をどう評価するかは、歴史家によって、論点と評価が大きく別れる。一番極端な意見は「大化の改新はなかった」というもの。
天智天皇の歴史的役割を低く見積もり、天武・持統の朝廷による政治を画期として高く評価する。これが“定説”になりつつあった。
しかし、著者の吉川さんは、天智天皇がおこなった改革に注目し、「近江令の時代」の一章をもうけて詳述している。
ちなみに第二章「大化の改新」は、
1.乙巳の変
2.改新のプログラム
3.遷都とイデオロギー
4.孝徳朝から斉明朝へ
・・・の4節から記述され、それにつづく第三章「近江令の時代」は、
1.白村江の敗戦
2.天智朝の国制
3.壬申の乱
4.白鳳寺院の展開
・・・という構成からなっている。
《舞台はいよいよ飛鳥へ。
歴代王宮がこの地に営まれた七世紀、中国大陸・朝鮮半島の動乱に翻弄されつつも、倭国はいくつもの改革を断行し、中央集権国家「日本」へと変貌を遂げていった。
推古即位の背景から大化改新、白村江の戦い、壬申の乱、そして大宝律令成立前夜まで。考古学の成果も視野に、激動の時代の実像を最新の知見で描く。》(BOOKデータベースより。ただし引用者による改行あり)
626年 蘇我馬子の死
628年 推古天皇の死
641年 舒明天皇の死
こういった一連の出来事が、あらたな国家への胎動につながっていって、乙巳の変を引き起す。背景には遣唐使たちがもたらした、中国、朝鮮半島情勢が・・・激動する東アジアの政治的な地滑りが存在する。
それらを踏まえた上で、中大兄皇子と中臣鎌足のクーデターを広い視野から眺めわたしていく。
本書では、670年(天智9)につくられた倭=日本初の本格的戸籍、庚午年籍(こうごねんじゃく)の作成が、中央集権国家の足許を固めたことが、かなり詳しく検討されている。
庚午年籍は《倭国の全人民に関する戸籍であった。男性・女性を問わず、良民、を通じて国家が把握できるすべての人民が登載されていた。》(111ページ)。
これによって、国家が租税や兵役をあらかじめ掌握できるようになっていく。その戸籍を元に、さらに国土を国、評(こほり、のちの郡)、里(五十戸)に分け、中央政権による支配の形態が、畿内はもとより、西国、東国にいたるまで整備されて集権化がすすむわけだ。
著者によれば、天武朝は天武10年(681)を境に二分される。それまでは「近江令」の時代だというのだ。
白村江の敗戦はその後も長く尾をひき、「倭=日本」では北九州を中心に臨戦態勢がつづく。白村江の敗戦はそれほど徹底した深刻なものがあった。そこに古代最大の内乱が起こって、以後徐々に天皇の権力が強化され、天皇を中心とした中央集権国家が形成されてくる。
このあたりが、古代史の核心部なのである。
「古事記」「日本書紀」の誕生や、漢字をつかって、いかに倭のことばを表記するのかは、その底辺で政権をささえた渡来人の活躍を抜きにしては語れない。
現在は考古学、歴史地理学、文献史学と専門が分化し、より詳細な研究が積み重ねられている。本書はそれらの成果を十分に踏まえて書かれている。
とくに終章、秦人古都(はたひとのこつ)という人物についてふれた「ハニフのサトから」は非常に興味深い、当時の具体的な集落の風景が彷彿として浮かんでくるような内容となっていて、読み落とすことができない。
ぜひこのあたりも引用したいのだが、長くなってしまうのでやめておこう(・´ω`・)
古代史をあつかった本はじつに多く、うっそうたるほの暗い深い森に地図を持たずに踏み込むようなものだ。
個人的な話だが、1970年ころ大学入試のとき、史学科へすすもうかと思案したこともあった。当時中央公論社から刊行されていた「日本の歴史」全26巻のうち、7-8冊を読んだことが引き金となったのだ。当時はこのシリーズがいわば“定番”といわれていた。
とはいえ結局は法学部政治学科へすすんだのだが、入学してから「学部の選択をまちがえたかな?」と少し後悔したほど、歴史が好きであったo・_・o
しかし、70年代と較べ、歴史学は大いなる進化をとげている。そのことを身に沁みて実感させてくれる、新書とは思えぬ読み応え十分の一冊!
評価:☆☆☆☆☆
読み出しはそんな印象で、物足りなかった。通史的・・・いかにも通史的で、勇み足(主観的になりすぎ)を警戒しているのか、慎重で無難な書きぶりなのだ。
しかし、第三章「大化の改新」あたりからぐいぐいと引き込まれた。
《七世紀史はこの半世紀、日本古代史研究の「主戦場」であった。個性あふれる学説が林立し、論争が繰り広げられてきた》(本書196ページ)と吉川真司さん(京大教授)は書いている。
そうだ、古代史の中では、古墳時代と、この7世紀史が別格のおもしろさを備えていると、わたしは思う。
すべり出しはともかく、読みおえてみて「出会えてよかった」とにんまり(*゚ー゚)v。
宮廷のクーデターであった乙巳の変をどう評価するかは、歴史家によって、論点と評価が大きく別れる。一番極端な意見は「大化の改新はなかった」というもの。
天智天皇の歴史的役割を低く見積もり、天武・持統の朝廷による政治を画期として高く評価する。これが“定説”になりつつあった。
しかし、著者の吉川さんは、天智天皇がおこなった改革に注目し、「近江令の時代」の一章をもうけて詳述している。
ちなみに第二章「大化の改新」は、
1.乙巳の変
2.改新のプログラム
3.遷都とイデオロギー
4.孝徳朝から斉明朝へ
・・・の4節から記述され、それにつづく第三章「近江令の時代」は、
1.白村江の敗戦
2.天智朝の国制
3.壬申の乱
4.白鳳寺院の展開
・・・という構成からなっている。
《舞台はいよいよ飛鳥へ。
歴代王宮がこの地に営まれた七世紀、中国大陸・朝鮮半島の動乱に翻弄されつつも、倭国はいくつもの改革を断行し、中央集権国家「日本」へと変貌を遂げていった。
推古即位の背景から大化改新、白村江の戦い、壬申の乱、そして大宝律令成立前夜まで。考古学の成果も視野に、激動の時代の実像を最新の知見で描く。》(BOOKデータベースより。ただし引用者による改行あり)
626年 蘇我馬子の死
628年 推古天皇の死
641年 舒明天皇の死
こういった一連の出来事が、あらたな国家への胎動につながっていって、乙巳の変を引き起す。背景には遣唐使たちがもたらした、中国、朝鮮半島情勢が・・・激動する東アジアの政治的な地滑りが存在する。
それらを踏まえた上で、中大兄皇子と中臣鎌足のクーデターを広い視野から眺めわたしていく。
本書では、670年(天智9)につくられた倭=日本初の本格的戸籍、庚午年籍(こうごねんじゃく)の作成が、中央集権国家の足許を固めたことが、かなり詳しく検討されている。
庚午年籍は《倭国の全人民に関する戸籍であった。男性・女性を問わず、良民、を通じて国家が把握できるすべての人民が登載されていた。》(111ページ)。
これによって、国家が租税や兵役をあらかじめ掌握できるようになっていく。その戸籍を元に、さらに国土を国、評(こほり、のちの郡)、里(五十戸)に分け、中央政権による支配の形態が、畿内はもとより、西国、東国にいたるまで整備されて集権化がすすむわけだ。
著者によれば、天武朝は天武10年(681)を境に二分される。それまでは「近江令」の時代だというのだ。
白村江の敗戦はその後も長く尾をひき、「倭=日本」では北九州を中心に臨戦態勢がつづく。白村江の敗戦はそれほど徹底した深刻なものがあった。そこに古代最大の内乱が起こって、以後徐々に天皇の権力が強化され、天皇を中心とした中央集権国家が形成されてくる。
このあたりが、古代史の核心部なのである。
「古事記」「日本書紀」の誕生や、漢字をつかって、いかに倭のことばを表記するのかは、その底辺で政権をささえた渡来人の活躍を抜きにしては語れない。
現在は考古学、歴史地理学、文献史学と専門が分化し、より詳細な研究が積み重ねられている。本書はそれらの成果を十分に踏まえて書かれている。
とくに終章、秦人古都(はたひとのこつ)という人物についてふれた「ハニフのサトから」は非常に興味深い、当時の具体的な集落の風景が彷彿として浮かんでくるような内容となっていて、読み落とすことができない。
ぜひこのあたりも引用したいのだが、長くなってしまうのでやめておこう(・´ω`・)
古代史をあつかった本はじつに多く、うっそうたるほの暗い深い森に地図を持たずに踏み込むようなものだ。
個人的な話だが、1970年ころ大学入試のとき、史学科へすすもうかと思案したこともあった。当時中央公論社から刊行されていた「日本の歴史」全26巻のうち、7-8冊を読んだことが引き金となったのだ。当時はこのシリーズがいわば“定番”といわれていた。
とはいえ結局は法学部政治学科へすすんだのだが、入学してから「学部の選択をまちがえたかな?」と少し後悔したほど、歴史が好きであったo・_・o
しかし、70年代と較べ、歴史学は大いなる進化をとげている。そのことを身に沁みて実感させてくれる、新書とは思えぬ読み応え十分の一冊!
評価:☆☆☆☆☆