二草庵摘録

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時効がせまっている男たちを追いつめる ~シムノン「サン=フォリアン教会の首吊り男」を読む

2024年01月06日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■ジョルジュ・シムノン「サン=フォリアン教会の首吊り男」伊禮規与美訳 新訳(ハヤカワ・ミステリ文庫 2023年刊)原本は1931年


小説家デビュー初期の3冊の中の一篇らしいけれど、ミステリとしてはちょっと変則的なストーリー展開となっている。犯罪が起こったのはおよそ10年前、このころのフランスでは殺人が10年で時効になるようだ。「首吊りの男の絵」(第6章)をめぐるエピソードにふれているあたり、往年のゴシックロマンの雰囲気がある。

なぜメグレが男の鞄をすり替えたのか(冒頭シーン)、ハッキリとした説明がないまますすんでいく。
メグレはこの男の自殺を目撃することになるが、そこいらは多少ご都合主義。
舞台はドイツへ、ベルギーへ、ブランスへと、けっこう目まぐるしく移ってゆく。
サスペンス感覚は、おしまいまで持続する。
シムノンがベルギー出身だから、背景の土地勘は堂に入っている。

《駅の待合室で不審な男を見かけたメグレは、男が大事そうに抱える鞄を自分のものとすり替え、彼を尾行し始める。だが、男は鞄がすり替わっていることを知ると、苦悩の表情を浮かべ、拳銃で自殺してしまう。驚いたメグレは鞄を確かめるが、入っていたのは着古された洋服だけだった。奇妙な事件の捜査に当たるメグレは、男の哀切な過去と事件の陰にちらつく異様な首吊り男の絵の真相へと近づいていくが…。》BOOKデータベースより

ネタバレになってしまうので、ラストシーンは詳しくふれることができないが、この幕切れがすぐれているからいいようなものの、全体の構成としては失敗作というべきか(´・ω・)?
“自分は一人の人間を殺してしまった”と、メグレは苦しむ。その苦しみが幕切れまで尾を引いている。異様な首吊り男の絵の真相へと近づいていく・・・とはいっても、放埓な青春時代の“ツケ”を、犯罪者は払わされているのである。そういう男が3人登場する。

時効が数日後にせまっている。
そこへたどり着くまでが、ドタバタ劇だな、とわたしは感じた。もっと手際よく、鮮やかにプロットの処理ができなかったものか(´Д`;)
「モンマルトルのメグレ」に比較すると、“若書き”というレベルである。若書きのおもしろさがあるよ、という人もいるかもしれないが。

本編のメグレはほぼインタビュアーに徹している。
《「この話には子どもが五人いるんだよ」
メグレは独り言のように、ぼそぼそとつぶやいただけだった。》
《「ピクピュス通りに一人、オール=シャトー通りに三人、ランスに一人だ」》(現行版207ページ)

3人の犯罪者の苦しみを、メグレは身をもって受け止める。キザといえば、キザな警視メグレ。このあと、ささやかな挿話がつづく。
ラストはさすがにうまい♬
デビュー直後でこの出来映えなら、途中のドタバタ劇も許してやろうと、メグレのファンは思うのだろう。
それに免じて、わたしも☆4つをつけさせていただく。おまけに近いけれど。



評価:☆☆☆☆

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