1
眠れない夜にはよく寝返りを打つ。
右を下にして寝たり 左を下にしたり。
腹が鳴る
腰がギクッと音をたてる。
二度寝の悪習がついちまって
酔いがさめ 深夜ひとりだけ目覚めていると
身よりのない老女のように なぜか悲観的なことばかり考える。
「さあ はやく寝よう」
明日やらなければならないことが 心の隅っこで
金属でできた薔薇の刺のようにチクリ チクリと動く。
ぼくはいつだって やりたいことよりも
やらなければならないことに追われている。
大人たちは 皆そうなんだろうか。
子どものころは やりたいことを
心ゆくまで 味わうための時間があった。
それは「ぼくの時間」で いつだって 銀色のぴかぴかする光を放っていた。
宿題のない夏休みみたいだった少年時代。
・・・といってはみるが たいした意味などない。
2
小鳥たちが 罪のない幼い人間の欲望のように飛び交い
鳴きしきっている。
ああ もう夜明けが近いのか・・・。
ぼくは寝返りを打つ。
一冊の本から 別な一冊の本のほうへ。
女と紅茶を飲んで過ごしたあの日の午後から
父とふたり 野良仕事で汗を流した一日へ。
眠れない夜の底を
少年時代にむしり取った葉っぱみたいな記憶が ただよっていく。
ぼくの心の一部が 抜け落ちた髪の毛ともつれあいながら
あっちこっちで溺れそうになっている。
それを救い出さねば
・・・ならないのだろうか?
むろん 溺れるにまかせるって方法もあるさ。
たいして 痛みのともなうことじゃない。
一ヶ月半まえから読みかけてほったらかしておいた
長いながい小説の最後を読みおえて 本をとじる。
親しかった人のまぶたを そっととじてやるように。
バッハのチェンバロが不意に聞こえたり
放射能ということばが
うるさいハエのように ブンブン頭の中でうなったり。
寝つきの悪いぼくという人間を読んでくれる人はいないから
ぼくは自分で自分のページをとじねばならない。
眼をつむり そのときがくるのを待っている。
眠れない夜にはよく寝返りを打つ。
右を下にして寝たり 左を下にしたり。
腹が鳴る
腰がギクッと音をたてる。
二度寝の悪習がついちまって
酔いがさめ 深夜ひとりだけ目覚めていると
身よりのない老女のように なぜか悲観的なことばかり考える。
「さあ はやく寝よう」
明日やらなければならないことが 心の隅っこで
金属でできた薔薇の刺のようにチクリ チクリと動く。
ぼくはいつだって やりたいことよりも
やらなければならないことに追われている。
大人たちは 皆そうなんだろうか。
子どものころは やりたいことを
心ゆくまで 味わうための時間があった。
それは「ぼくの時間」で いつだって 銀色のぴかぴかする光を放っていた。
宿題のない夏休みみたいだった少年時代。
・・・といってはみるが たいした意味などない。
2
小鳥たちが 罪のない幼い人間の欲望のように飛び交い
鳴きしきっている。
ああ もう夜明けが近いのか・・・。
ぼくは寝返りを打つ。
一冊の本から 別な一冊の本のほうへ。
女と紅茶を飲んで過ごしたあの日の午後から
父とふたり 野良仕事で汗を流した一日へ。
眠れない夜の底を
少年時代にむしり取った葉っぱみたいな記憶が ただよっていく。
ぼくの心の一部が 抜け落ちた髪の毛ともつれあいながら
あっちこっちで溺れそうになっている。
それを救い出さねば
・・・ならないのだろうか?
むろん 溺れるにまかせるって方法もあるさ。
たいして 痛みのともなうことじゃない。
一ヶ月半まえから読みかけてほったらかしておいた
長いながい小説の最後を読みおえて 本をとじる。
親しかった人のまぶたを そっととじてやるように。
バッハのチェンバロが不意に聞こえたり
放射能ということばが
うるさいハエのように ブンブン頭の中でうなったり。
寝つきの悪いぼくという人間を読んでくれる人はいないから
ぼくは自分で自分のページをとじねばならない。
眼をつむり そのときがくるのを待っている。