二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

29歳、3児の母

2013年10月20日 | Blog & Photo
貴重なアポが流れてしまって、ヒマになったから、日記をもう一本あげておこう。
近ごろ感動したささやかなエピソード。

昨日、某所にある一戸建てまで、退去立会いのため出かけた。
Cさんは29歳、3児の母である。
契約者はご主人だけれど、仕事のため、奥様と3人の男の子が、わたしがあらわれるのを待っていた。

賃貸契約の場合、借主には「原状回復義務」がついて回るのは大抵の方がご存じだろうから、説明は省略。
家財道具をすべて運びだし、カラになった室内を、ザッと見せていただき、敷金の精算をする。
汚れがひどかったり、ものを毀していたりすると、別途補修費用・・・原状回復の費用がかかる。

いわゆる「客づけ」は他社がやってくれたので、Cさんにお会いするのははじめてだった。
ところで話はじめてすぐに、このCさんが、とても魅力的な、すばらしい女性だということにわたしは気が付いた。
眼が澄んでいて、子どものようにキレイなのだ。その眼に、わたしはグッときた( ゜∀゜)
「眼がキレイなんですね」
「ええっ! そうですか」と彼女は微笑したが、そのしぐさにも、ものやわらかな、やさしいニュアンスがこもっている。

子どもたちは3人とも男の子。
お尋ねしたら、一番上が小学校4年生。いたずら盛りで、好奇心たっぷりな子どもたちであった。
30分近くかけて、いろいろと世間話をさせてもらった。わたしの年代からいうと、娘と孫の世代にあたる。
一戸建て貸家は、5mばかりの道に面している。わたしが到着したとき、二人の男の子は母を助け、箒をもって掃き掃除をしていた。3人目はまだ一歳にもならず、母の背中でおとなしくしていた。出来立てぷりぷりの頬をさわったり、頭を撫でたりしたら、恥ずかしがらずニコニコ。「いやあ、可愛いなあ」

「えーと、どれくらい住んでいたんでいましたっけ?」
「ちょうど2年です。お世話になりました」
たしか・・・お部屋の中に蟻が発生したとか、浴室にゲジゲジがあがってくるという連絡をうけて、オーナーにその旨連絡し、対応した覚えがある。庭つきの、古めかしい一戸建て貸家なのである。
立ち話していたら、道路をはさんだむかいにある農家のおじいさんが、お母さんと子どもたちに別れを告げにやってきた。
おじいさんが立ち去ってしばらくしたら、今度はご近所に住んでいるらしいおばあさんがやってきた。Cさんは愛想よく、にこやかに応対している。
その顔は化粧っけがほとんどない。

この夏、わたしが草刈にいったときのこと。
ここには全部で12戸の貸家がならんでいて、未舗装のため駐車場や敷地境界に、夏草がごっそり生い茂る。
「専用部分はご入居者が管理し、除草剤をまいたり、草退治をしたりして下さいね」ということになっている。建物周辺1mと、前庭の駐車スペース、テラスがそれにあたる。
ところが草一本手をふれたがらない入居者が、必ずいるゞ(´Д`
この夏一度目の草刈にいったとき、Cさんの棟の前庭や建物の際に草が茂っていたので、ついでに退治していたら、そこへCさんがクルマで帰ってきた。
「暑いですねぇ。草刈り、ありがとうございます。これ、よかったら飲んで下さい」
彼女はそういって、冷えたお茶のペットボトルを差し入れしてくれたのだ。

「あのときはありがとうございました。お茶、冷たくてうまかったですよ」
「暑い日でしたものね」
そういって軽く微笑むと、健康的な白い歯がこぼれる(^_^)/~
不動産業をしていて、こういう気持ちが通じ合う、すばらしい女性に、じつに、じつに久々にめぐりあって、わたしは舌をまき、いささか感動さえしていた。

そのうち、5歳ほどの次男がやってきて「ねえねえ」とわたしの上着の袖を引っ張る。
「なんだ、なあに?」
公道との境に、境界石がならんでいる。土留めのかわりになるような、大きな石や、大谷石のカケラのような石である。
それから次男が、ころがっている石を指さしてこういった。
「ねえおじちゃん。これがお父さん、こっちがお母さん。そしてこれがお兄ちゃん、これがぼく。一番小さいのが弟!」
「え? え! なんだって。もう一回教えて。これが・・・」
「こっちがお父さん、こっちがお母さんだよ。そしてね・・・」
自分たち家族を、半ば土にうもれた石になぞらえている。
「おー、そうか。きみ、すばらしい想像力の持ち主だね。たいしたもんだな」
そのやりとりを、母と背中の赤ん坊、そしてお兄ちゃんが眺めている。

どんな職業の場合もそうかもしれないが、お客様に「ありがとう」と声をかけられることなんて、そうめったにない。お客様は神様。われわれは当然のことをしているまでである。
しかし・・・そればかりだと、人間関係がギスギスしてしまうだろう。
Cさんは、たぶん親や他の家族の愛情をたっぷりと浴びて育ったのだろうと、わたしはおもう。たくさんの愛情をもらった人は、それと同じくらいたくさんの愛情を、ほかの人に分け与えることができる。
「毎日が戦争のようなものでしょうけど、頑張って育てて下さいね」
と、ありふれたことばをかけるくらいしかできなかったが、日本もまだまだ捨てたものじゃないな'`,、('∀`)

・・・と、ここまではいいけれど、世間は陽があたっている部分だけで成り立っているのではない。
Cさんの退去の理由は「下着を盗まれた」というのだから。
道端だから下着を外のテラスには干さないようにしていた。ところが、家の中の下着がなくなってしまった・・・というのである。しかも、二度にわたって。「警察には届けたんですか?」
と聞くと、ちょっと小首をかしげ、「子どもが出入りするので、たまに鍵をかけずに出かけることもあるし、金銭的はたいしたことないですから」という。
「でも気持ち悪くて」
これがCさんの貸家退去の理由。
うーん、そんなことあるのだろうか? ベランダのようなところに干してあった女性下着が盗まれるという話はときたま耳にする。しかし、部屋の中まで侵入し、そんなものを盗んでいくヘンタイさんがいるんだろうか?

かな~り長くなってしまったが、このお話はこれでおしまい´Д`


※兄と弟はlinkのみとしておきます(友人の友人まで公開)。
http://photo.mixi.jp/view_photo.pl?photo_id=2011385244&owner_id=4279073

※トップの画像は前橋まつりの一情景。このお話とは無関係です。
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